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11~あわや絶滅の危機

11.あわや絶滅の危機

こうしてネコ3匹、ヒト3人での暮らしが1年と数ヶ月続いたある年の大晦日。

ネコたち、朝からなんとなく、おとなしい。
にゃあ、とも、ふー、とも、うんともすんとも言わず、じーっとしている。

1匹だけではなく、皆それぞれに。
寒いと、ネコの動きも鈍るんだなぁ。

年の瀬で多少慌しくしていたので、じーっとしているのを良いことに、そのまま放っておりました。
いくらなんでもまさか、3匹揃って具合が悪いなどと、夢にも思わなかったのです。
まさか…と感じたのは、全く口をつけた気配の無い晩御飯の皿を目にしたときでした。

そう思ってネコたちを見たらば、これはどう見ても元気がないというか、皆それぞれに薄ボンヤリとしています。
水も飲まない、ご飯も食べない、声も発さず、横になっているだけ。
ネコのこういう状態は、今迄経験がありません。
つれみの大変だったときは、あれは『事故』という、見た目で分かるものがあった。

でも、昨日まで元気に駆け回っていたのが、揃いも揃って、一体、何なんだろう。

時々お世話になっている動物病院は、年末年始の休み。
どうか、わたしの気のせいで…と祈って、あらためてネコを見てみると、より一層グッタリしているように見える。外傷が無いだけに、一層不気味に思える。
不安がザーっと、大晦日の自分の心を塗り替えていく。
大晦日の夜中にどうしようもないと思い、とりあえず眠った。

そして、年が明けた1月1日、朝から動物病院探しを始めました。
電話を掛けては、年末年始の休みの予定が、空しく流れてくるだけ。
ネコたちは、まったく動かず。
お腹が動くので、生きているなと分かる程度。

動物だって、病気は待ってくれません。
いつもタイミング良く、平日の昼間に病気になるわけじゃないのに、というよりむしろ、土日や夜に具合が悪くなる方が多いように、わたしには思えるくらいです。

現在は、夜の診療も行ってくれる病院が増えているのでしょうか。
最近の動物病院事情は、よく知りません。

一体、何軒掛けた後か…やっと一軒『連れてきてよいですよ』という病院を見つけ、ネコたちをすぐさま運び込みました。
看板の出ていない、一軒家をグルグル回ってやっと探し当て、診察室に入ると、それはそれはキタナイ…これはどう見ても、数年前に引退したのでは?と思わせる室内、出てきた先生は、やっぱり引退してましたね?と念を押したくなるような、おじいさん。

そのおじいさんは、久々に診療をします、といった感じで、辺りにはおよそ『器具』というものの無い、元診察台のようなところにネコらを乗せ、わたしの見ている前で、白い粉薬を出した。
その白い粉薬を、元皿のようなものに入れ、水を入れてかき混ぜると、針の無い注射器を使ってネコらの喉に流し込み、『ハイ、終了』

相変わらずグッタリとした親子を乗せて、足取りも重く、帰宅いたしました。
しばらく様子を見ても、全く元気になる気配がない。
皆で新しい年を迎えたというのに、折角のお正月、休みの少ないわたしもネコたちとゴロゴロ楽しもうと思っていたのに。
ネコはハムスターより大きいから、突然死ぬことなどないだろうなどと、タカをくくっていたのも正直なところです。

まさか、このまま全滅…なんてありえない。

しかし、ネコ親子は悲しく伸びきったままでした。
貰ってきた粉薬を溶いて飲ませても、力があまりないのか、半分ほどしか飲んでくれません。
そうして、2日ほど経った次の日。

年明け早々、気持ちはどん底のわたしが見たものは。

いたって普通に、元気に動き回っているネコ親子。デスクトップの全体像.jpg

グッタリのグの気配も見せず…あの状態は、一体何だったのか。
全く、わけが分かりませんでした。

親子の一命を取り留めてくれた『元』動物病院には、あれから一度も行っておりません。どこにあったのか、場所も覚えておりません。
そしてあれからもずっと、『元』診療室には埃が積もり、『元』先生は楽しい隠居生活を送られていると、思うのです。

だけど、あのときのわたしの様な途方にくれた人間が現れたときに、おじいさんはまた、あの魔法の粉薬を使って、小さな命を救っているのではないかとも、思うのです。

先生、ありがとうございました。



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