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紫色の月光

第四十三話「駆け上がれ」

第四十三話「駆け上がれ」



 塔の一階では水面上でのクイズ大会が引き続き行われていた。
 エリックが先に進めるか否かを賭けた、一見すると馬鹿馬鹿しいクイズ勝負なのだが、背中が銃口の照準に合わせられているために下手な動きができないと言うデスゲームである。

 勝利の条件は先に10問正解すること。
 そうすれば銃口は完全に敗者へと向けられ、銃弾の雨嵐をお見舞いすると言うシステムだ。

 故に、ゲームでの敗北者は死を迎えるのである。

(冗談じゃねぇぞ)

 だが、エリックは歯を食いしばりつつも、苛立ちを隠せない表情をしていた。
 基本的にゲームは楽しむ物だと考えているエリックにとって、生死を賭けたゲームなんぞもっての外。
 可能ならば今すぐ五朗を力づくでねじ伏せようとするが、

(後ろの銃がピッタリと狙ってやがるからな。ランスでバリヤーを張ろうにも、その隙に撃たれる可能性があるし)

 だがそんな事を考えている最中にも五朗とエリックの正解数の差はどんどん縮まっていき、最終的には同じ正解数の9となってしまう。

「どうしました? 僕も王手をかけましたよ?」

 五朗の見下したかのような目つきに舌打ちをするエリック。
 
(未来予知とか使ってる奴の言うことか。ったく)

 しかし次の問題で正解出来なければエリックの敗北が決定する。
 場所が敵のテリトリーなだけあり、敗北したら何がおきるかわかったものではない。少なくとも、銃弾だけは確実に襲い掛かってくるだろう。

『では、最終問題に入りm――――』

 考えがまとまらないうちに最後の問題が発表されようとしてしまう。
 しかも、既に隣の五朗は回答ボタンへと手を伸ばしているではないか。

(ええい、こうなったら一か八か!)

 問題文はまだ発表されていない。
 だがこのまま何も出来ずに五朗に敗北するよりだったら、限りなく0の可能性でも回答に移るべきだ。

 そう思い、持ち前の手癖の悪さで回答に移るエリック。

 だが、正にその時だった。


「――――!?」


 突如として塔全体に揺れが生じる。
 簡単に事態を説明するなら『地震が起きた』訳だが、この塔は空を飛んでいる。故に普通は地震が起きることはありえないのだが、

(チャンス!)

 そんな意味不明の事態でもエリックには好機だった。
 彼はランスの柄を無数に分離させると、すぐさま自身の周囲にばらまく。

(これでどこから銃弾が来ようが、ランスが全部弾いてくれるぜ!)

 銃弾の心配がないのなら、今度は目の前にいる五朗だ。
 彼はどうやらクイズに神経を集中させていたらしく、答えが見えていても『地震』は見えていなかったらしい。いや、実際は見えていたのだろうが『未来予知の視界外の光景』だったのだろう。

 故に、動揺は大きい。

 同時に、エリックはこの好機を絶対に逃す訳には行かなかった。

「覚悟はいいかい、クソガキ!」

「ルール違反ですよ!」

 先程とは一変して必死な様子で叫ぶ五朗だが、エリックはその言葉に対し、笑みを浮かべた状態で答える。

「貴様が勝手にルール隠したんだから、俺だって一度は勝手にする権利がある!」

 直後。
 突き出された拳が、五朗の右頬に炸裂した。





 地震が起きたと同時、二階の二人の住人は戸惑いの色を隠せなかった。
 そもそもにしてこの塔自体が宙に浮いている、ということがあるので地震が起こりえるはずがない。
 と、なれば考えられるのは『何か』が塔に突撃してきたと言うことだ。

「見てくるかい?」

「放っておきなサイバット」

 青空髪の女が言うと、サイバット、と呼ばれた青年は黙り込む。

「今この二人を殺さずに上に行けば、間違いなくあの三人の中の誰かにこっぴどくやられるよ」

 だから、

「早いところ固定しているこの二人を始末して、上の様子を確認するよ。やっちまいな!」

「おう!」

 姉の言葉に応じ、サイバットが影で身体を縛られている二人に襲い掛かってくる。
 だが、次の瞬間。

「!」

 突然、床からありえない速度で根が生えてきて、尚且つサイバットの身体に絡み付いてくる。
 まるで足から身体を縛り上げようとする蛇の如く巻きついてきたソレは、力強い締め付けでサイバットの自由を封じてしまう。

(何とか間に合ったか)

 そう思いながらも、狂夜はドサクサに紛れてソードの切っ先を床に刺し込んでいく。
 ソードのレベル4の能力は植物の急成長だ。故に、自分が動けない状態でも敵を攻撃することは出来る。
 だが、その能力は媒体になる『地面』にソードを深く刺し込む事で更に力強くなるのだ。

 故にファングの力をフルに使い、どうにか影の束縛の中でもがきつつもソードを刺し込んでいるのだが、

「させやしないよ!」

 今度は青空髪の女が、自身の影を槍に変えて、それを自分目掛けて投げ飛ばしてきた。
 一種の槍投げならぬ『影投げ』なのだが、それは普段からエリックのランスを見慣れている狂夜の目から見ても十分な脅威だった。
 もし命中すれば、身体に大きな穴が出来ることは間違いない。

(いかん!)

 一瞬でそう判断した彼は、ファングの力を更に解放する為に、牙を伸ばそうと影の中でもがく。

「――――!」

 影の槍がこちらに迫る。
 だが狂夜はもがき続け、遂に、

「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 影の束縛を抜け、ファングの鋭い牙が完全にその姿を現す。
 
 だが、同時に。

「――――!」

 彼のどでっ腹に、影の槍が突き刺さった。

「がふっ……!」

 その衝撃で口内から思いっきり血を吐き出す狂夜。
 だが、彼は倒れなかった。

 寧ろ、気味の悪い笑みすら浮かべているではないか。

「ギリギリセーフ!」

「!」

 大きな牙を押し出すようにして顔を向けると、狂夜は乱暴に影の槍を腹から引き抜く。
 その最中、痛みで表情に苦痛の色が伺えたが、引き抜いた後は何事もなかったかのようにして動き出す。本当に腹を貫かれたのか疑問に思える程に、だ。

「貴様、その牙には再生能力が備わっていたのか!」

 サイバットが叫ぶが、狂夜は止まらない。
 先ずは影女が次の行動を取る前にソードの切っ先を床に思いっきり突き刺す。
 
「覆え、緑の将軍ども! 我等の影を閉ざすのだ!」

 その瞬間。

 空間は緑色に染まった。
 
 広い壁や天井には一瞬で根が張っていき、床からは巨大な大木が突き破って姿を現す。

「あっ!」

 だが大木の出現と同時に、空色髪の女は気付いた。
 大木が出現した向こう。そこにいるのは狂夜のフェイトの姿だが、大木が邪魔して彼等の『影』が見えなくなってしまっているのだ。

「しまった、こっちの能力に気付いたか!」

 女が舌打ちしたと同時、フェイトを縛っていた影は音もなく霧散していき、彼女の自由を封じる『縄』は消え去ってしまう。

(成る程、どうやら奴の影操作能力はグレイトに『見えない』と意味がないようだね)

 ならば、手段は一つ。 
 彼女の『視界』に入らない場所から銃弾をぶち込めばいいのだ。
 幸い、彼女の武器である影は狂夜が掴んで離そうとしない。それならば今の彼女は武装も無しの丸裸同然。今度は弾丸を防ぐ手段もありはしない。

 だがもう一人、サイバットは行動を起していた。

 彼は無理矢理植物を引きちぎろうと力を入れるが、ただでさえキツい緑の縛りに耐えられない彼の筋肉は悲鳴をあげ、身体中から痛々しい血液を流していた。
 だがその血液は床に溜まっていくと同時、一瞬にして人の形を形成し、右腕を血の刃に変形させる。

(!? 奴は血を操作するタイプか!)

 片手で魚の如く暴れまくる影の槍をそのまま掴んでいる狂夜だが、それだけに今この影を手放すことは出来ない。

(流石に血と影を自由に操作してくる不規則な者たちを二つ同時に相手にするのは痛い! 何とか女の方だけでも先に……!)

 そこまで思考した、正にその瞬間。
 横からフェイトがガンを発砲。標的は血で形成された人形だ。

 だが着弾と同時、崩れた人形はすぐさま再形成。
 一瞬で元の形状に再生したと思えば、ブレーキ無しで再び狂夜とフェイトに襲い掛かる。

「ええい、元が元なだけに物理攻撃は利かんか!」

 しかし狂夜もフェイトも攻撃手段は全て物理攻撃。マーティオのような光の大鎌で一気に血を蒸発させるような真似はできはしない。
 
 それなら手段は一つだけ。

「先輩……申し訳ないが、影女の方をお願いします!」

「何、グレイトにどうするつもりだ!?」

 フェイトの疑問に対し、狂夜は簡単に答える。
 それは正しく、これから行うことを言っただけの簡単な一言だった。

「ちょっと飲み干してきます」

 そういうと、彼は邪魔になる陰の槍を投げ捨てる。
 だがフェイトは慌てはしない。何故なら、自分がそれを抑える役目を請け負ったからだ。

「残したらグレイトに承知しないぞ!」

 投げ捨てた直後の狂夜の動きは迅速だった。
 人間のソレを明らかに超えている速さで動き回ると、両手でしっかりとサイバットの血の人形を確保。刃が肩を貫くも、痛みを堪えればなんて事はない。自分の致命傷にはまだまだ届かないし、距離として考えればこれだけ美味しい位置はない。

「あまり我は血は好みではないのだがな!」

 直後、狂夜の牙が血の人形の皮膚に突き刺さる。
 人形は表情まで形成されていない為か、何の表情も見せようとしない。だが代わりに苦悶の表情を浮かべているのは主であるサイバットだ。

「ぐ……っ」

 身体に痛みは感じない。束縛されている時のダメージが身体に残っているだけだ。
 だが未だに束縛自体が続いているために、彼が動こうにも動くことは許されない。それはつまり、このまま血を吸われ続けるということを意味する。

(ぐっ、人形と俺の血は一心同体。人形の血液を飲み干されたら最後、俺の血液も全て飲み干される!)

 相性としてはかなり最悪なのだが、こういう時の為に彼女は――――影の女、ルージュがいるのだ。

「アンタ、勝手が過ぎるんじゃないかい!?」

 ルージュは開放された影を操作すると同時、その場で邪魔になるであろう大木に狙いをつける。彼女の下僕である影は無数の刃に姿を変えると同時、その場で大木を切断。これで再び狂夜とフェイトの影が見えるようになって、再び彼等の束縛を可能とするのだが、

「お前の相手は私だよ!」

 影の刃の間をくぐって、フェイトがこちらに銃を構えてきている。
 束縛しようにもその操作には僅かなタイムロスが生じてしまうために、下手な動きが出来ない彼女はそのまま近くで展開していた影の刃を無数に分裂させ、狂夜とフェイト目掛けて襲い掛からせようと指示を飛ばす。

 だが、今正に指示を飛ばして二人の身体を刃で刻み込んでやろうとしたその瞬間。

「いや、あんたの相手は俺だあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 突然、第三者ならぬ第五者の叫び声が轟いた。
 何事か、と思いルージュとフェイトが声のする方向――階段に眼を向けると、長くて果てしない暗闇の向こうから疾風が巻き起こった。

「――グレイトなタイミングだ!」

 フェイトが言うと同時、槍に乗って空中サーフィンを行っているエリックが階段の奥から姿を現した。
 現時点で誰よりも加速度を増していた彼は、そのままランスの勢いを衰えさせることなく突撃。フェイトと狂夜の横を通り過ぎ、植物に絡まれているサイバットに目もくれずにルージュに向けて突撃していった。

「くっ、標的変更! ランスを落せ!」

 命じられるがままに影の刃はエリックへと向かって襲撃。
 だが、エリックはランスに乗りながらもそれを避ける、避ける、避ける―――!

「!!」

 そのままエリックはランスの加速を更に増した状態で、ルージュの腹部にランスの矛先をぶち込む。
 その勢いによって身体が宙を舞うルージュだったが、バランスを保とうとする姿勢は見られない。腹に槍の一撃をもろに受けたのだから当たり前といえば当たり前だ。

「あ……ぐっ」

 床に叩きつけられたルージュは最後のアクションを行おうと指を動かそうとするも、全身の力は何処かに持っていかれたかのように言うことを聞こうとしない。
 
 そのままルージュの僅かな指の動きとサイバットの血が全て飲み干されてしまったのは、ほぼ同時だった。

 因みに一階の方では、顔が赤くはれ上がった状態のまま水上にぷかぷかと浮かんでいる一人の青年がいたが、彼には既に戦う力は残っていなければ気力も、意識さえも残っていなかった。
 ただ残っているとするならば、気絶中の暗闇の意識の中、人々に破壊と恐怖を植え付ける邪神。


 まだ見ぬ邪神ドレッドの姿のみであった。












 塔の五階に突撃したヘリは奇跡的にも大破はしていなかった。
 だが、それぞれの階に『キッカケ』を与えるという仕事をこなしたその無機質でさり気無い仕事人は、もう疲れた、とでも言わんばかりのボロボロ状態だった。

「ぐっ……」

 そんなボロボロなヘリの中、ネルソンは起き上がる。
 身体中に突撃時の痛みが残っているが、こんなのは怪我をしたうちにも入りはしない。

(むぅ、どうやら誰もいないようだな)

 だがそれならそれで好都合だ。
 敵がいないのなら、遠慮なくヘリから降りることが出来る。
 ボロボロのヘリの中では、満足に戦うことも出来ないだろう。

「!」

 だが、ここでネルソンは思い出した。
 
 もう一人のヘリの搭乗員、ジョン・ハイマン刑事の負傷だ。
 彼は此処に突撃する際、何かに腹を撃たれては苦しんでいた。必死に痛みを堪えつつも、自分の我侭を聞いてここまで運んでくれた彼の表情はネルソンの記憶に焼きついている。

「おいジョン! 着いたぞ、無事か!?」

 操縦席に身を乗り出しては、運転席に座るジョンを揺さぶるネルソン。
 だが、反応は何も返ってこない。

「おいジョン。何寝てるんだ、起きろ」

 もう少し強く揺さぶってみる。
 だが一向に相棒は起きる気配はなく、閉じた瞳が開くこともない。

「……俺はあんまこういう冗談は好きじゃないぞ。おい、起きろ!」

 今度は頬を一発殴ってみる。
 何時もなら車の中で熟睡している彼も、大抵はこの一発で叩き起こされる。

 だがそれでもジョン・ハイマンは動かなかった。

 見れば、硝子の破片がジョンの胸に幾つも突き刺さっており、腹からは痛々しい量の血液が流れ出ている。

「起きろ馬鹿たれ! 目的地には着いたぞ!」

 胸倉を掴んでは無理矢理立たせるも、彼の身体はバランスを保とうとはしない。
 腕は力なくぷらん、と宙に揺れ、首も重力に逆らわずに項垂れるだけである。

「起きろ、ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」

 ネルソンは部下に向けて叫ぶ。
 その叫びは一つの部屋としては広すぎる五階には十分なほどに響いている。

 
 しかしそれでもジョン・ハイマンは動かなかった。


 糸の切れた操り人形の如く、動く気配すら見せようとしない。
 ネルソンはすぐさま彼の脈をはかる。

「!?」

 認めたくはなかった。
 しかし脈まで確認してしまったからには、もう認めるしかない。

「……おい、死んだふりしてる場合じゃないぞジョン」

 だが認めたくないという強い心は、未だネルソンの大部分を占めていた。
 彼とてただの馬鹿なわけではない。

 脈を図ったのだ。ジョンが既に亡き者となっている事実は揺るぎないと言うことは頭ではわかっている。

 しかし心は認めたがらなかった。

 だからこそ彼はジョンの身体を揺さぶり続ける。

「うるせぇなー。人様の部屋でギャースカ騒ぐんじゃねェよ」

 だが彼の耳に聞こえてきたのはジョンの声ではなく、聞いた事のない男の声だった。
 誰かと思いヘリの窓越しから見てみると、階段から上ってきたと思われる白髪の青年が少々苛立たしげに突っ立っていた。

「ったく、下の奴の掃除に行くつもりだったんだが、俺の部屋に勝手に入ってくるってんなら話は別だぜ。このソルドレイク様が直々に殺してやるよォ!」

 そういうと、ソルドレイクは右腕を向ける。
 直後、手の甲から槍の如く皮膚を貫いて、一本の白の矛先が姿を表した。

「警部さんよォ、あんたが来てくれるんならこっちとしても好都合だぜェ。こっちから回収する手間が省けるってもんよォ」

「その前に貴様に聞きたいことがある」

 妙な威圧感が溢れるネルソンの言葉に思わず『あん?』と聞き返すソルドレイク。
 だが、ネルソンの問いかけの内容は思いのほか簡単すぎる物だった。

「俺の部下を殺したのは貴様か?」

「部下ぁ? ヘリでおっ死んだソイツのことかぁ?」

 身体を少し斜めに傾けてから、ジョンの亡骸の姿を確認する。
 すると、ソルドレイクの表情に変化が起きた。
 しかもそれは普段の彼には無い『焦り』、『驚き』と言ってもいい。

「ジョン・ハイマンだとぉ!? テメーまで来たってのか!?」

 当然、ネルソンはそんなソルドレイクの反応を見逃さない。

「何、貴様ジョンと知り合いか!?」

 見たところ、外見年齢もジョンとほぼ同じと言ったところだろう。
 そしてこの反応からして、彼が何かしらの理由でジョンと関わりを持っていたのは明白だった。

「…………」

 しかしソルドレイクはネルソンの問いかけに答えようとしない。
 ただぼんやりと天井を遠い目で見ているだけだった。

「まさかまたテメェと、しかも先に死んだ奴と会えるなんて思いしなかったぜェ。懐かしい」

 顔を再びネルソンに向けてから、ソルドレイクは口を開ける。
 その口から出てくる単語は先ほどのネルソンの疑問に対する答えだ。

「俺ぁ、昔ソイツと同僚だったんよ。全く、ムカつくぐれェに変わんない野朗だ。面まであの時のままだぜ」

 昔を懐かしむ表情をするソルドレイクだが、今となっては過去は過去でしかない。
 嘗て同僚として同じ職場――――警察官として共に働いていたジョン・ハイマンも既に過去の人物だ。

「今じゃチンピラみたいな俺だが、昔はこう見えても警察だったんだぜェ? ま、今じゃ死んだ扱いだろうがな」

「何、どういうことだ?」

「文字通り、俺ァ過去の人間って訳だ。その証拠に、」

 す、と骨が突き出ている腕をちらつかせる。
 
「こんな事できる『人間』なんぞいねぇ。今の俺はソルドレイク・ファースト。邪神の骨を受け継いだ男よォ!」

 直後、骨が空を切った。
 その際切裂かれた空気は真空の刃となり、ネルソンの頬の肉を僅かに切裂く。

「骨は俺にとっては刃でもあり鎧でもある。俺の骨は硬いじゃすまんぜ」

 ならばと、ネルソンは拳を突き出す。
 その拳には一丁の銃――――ジョンが愛用した拳銃が握られており、銃口も真っ直ぐソルドレイクの顔に向けられていた。

「俺の拳と、ジョンの銃で貴様を砕く!」












 二階の住人を倒した三人はそのまま三階を突き抜けて四階へと向かっていた。
 元々二階の住人であるサイバットが相性が悪い狂夜とぶつかってしまったために三階のルージュが呼び出されていたので、そのルージュがいない今、三階はただの無人の階でしかないのだ。

 だが、この三階に誰もいないとなれば一つの事実が浮かぶ。

「マーティオとネオンは更に上に行ったってのか!? あいつ等飛びすぎだろ!」

 長い階段を駆け上がりながらエリックが言う。

「塔の構造がよくわかってないからな。もしかしたら、一気に最上階まで上がっているかもしれぬ」

「だが、グレイトに気になるのは先ほどの衝撃だ」

 フェイトが言う項目も確かに気になる。
 何せこの塔が建っている大陸は『宙に浮いている』のだ。従って、地震が起こりえるはずがない。

「何かがぶつかってきたと思うのがいいだろう。まあ、我等はそのお陰で一気に突破できた訳だが」

 狂夜の言うことも最もだった。
 塔に起きた衝撃は全体に響き渡り、一階ではエリックが、二階では狂夜とフェイトの起死回生の糸口――――敵の油断を作ったのだ。

「つまり、五朗たちにとってもアレは予想外の出来事……イレギュラーだったわけだ」

「ああ、風向きは私たちにグレイトに傾いていると見て良いだろう」

 と、なればこの勢いを何としても持続させたいところだ。
 その為にもマーティオとネオンの二人と合流し、一気に最大火力で残りの住人を倒すというベストプランを成功させなければならない。

(だが、サイバットたちのやり取りを見ている限り、上の住人どもは今までの奴等よりも次元が遥かに違うらしいではないか)

 狂夜は思う。
 今まで自分たちが戦ってきた三人は、皆一般人として生きていたためか手こずったのは最終兵器としての能力だけで、実際にやりあうのならイシュの幹部たちの方がまだ苦戦する。
 
(予想通りならば、残りの住人どもは――――ソルドレイクたちはその弱点を克服していることになる。つまり、純粋な身体能力もかなり高いと言うことだ)

 嘗てアメリカの船でソルドレイクと戦ったことがあるため、よくわかる。
 あの動きは明らかに通常の人間のソレを遥かに上回っているのだ。

 一言で表すのなら、『異常』とも言える。

(そして彼等を纏める『バルギルド』……果たして我等は勝てるのか?)

 否、勝たねば意味がない。
 
 負ければ死が待っている。
 そして自分たちは未だに死ぬ気はない。

 ならば勝つ。
 それだけの話だ。

「お、明かりだ! 四階が見えたぞ!」

 階段を上ること数分、遂に四階に辿り着いたエリックたちはそれぞれの武装を構えた状態で四階へ突入。
 すぐに戦闘に入れる状態で新たな敵地へと足を踏み入れた。

「え?」

 だが、彼らの目に入ったのは敵の姿ではない。

 
 血まみれになって倒れている白髪の少女の姿、そして無数のナイフによってその身を壁に縫い付けられた青髪長髪のロングコートの男の姿だった。


「――――っ!」

 近くで倒れていたネオンに駆け寄り、声をかける。

「おい無愛想少女! 無事か!? 誰にやられた!?」

 だがネオンは起きる気配なく、目を閉じたままぴくりとも動こうとしていない。
 そんな彼女の反応を見て、脈を図るフェイト。

「……一応生きてはいるな。だが、見ての通りグレイトに大きなダメージを負っている」

 背中には何かに切裂かれたかのような大きな傷跡。
 他にもいくつかの切り傷が見られるが、大きさから考えてこの背中の傷が致命傷を負わせたのだろう。

「……マーティオっ」

 壁に縫いつけられるようにしてズタズタにされている男に視線を移す。
 こちらには右肩から腹にかけて大きな切り傷が残っており、他はナイフでそのまま壁に固定されてしまっていると言う酷い有様だった。
 恐らく、死んでいなくても大きなダメージを負っただろう。

「誰だあああああああああああああああ!!!? 出て来いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 エリックの怒りの篭った叫びに反応したのか、上り階段の方からこつん、という足音が響いた。
 それは間もなく連続で響いて来ており、徐々にこちらに近づいて来ていることを示していた。

「……お前か」

 狂夜の一言からややあって姿を現したのは、黒のローブで全身を覆っている黒ずくめの男だった。
 フードで顔は完全に隠れており、長すぎる袖から僅かに見える手には無数のナイフが握られている。

(マーティオを倒したのと同じナイフ……! と、なると奴が此処の住人か!)

 だが、こうして相対するとわかる。
 目の前にいるこの黒ローブの男は先ほどの三人とは次元が違う、と。

(既にネオンとマーティオがやれらた事からも明らかだが、何より『迫力』が違ぇ! まるでライオンにでも睨まれたみたいだぜ!)

 その異様な迫力の前に思わず戸惑うエリックだが、それは狂夜とフェイトも同じだった。
 先ほどの三人とのギャップがありすぎるのだ。迫力も殺意も威圧感も、全てが前の住人たちを上回っている。

「……」

 そんな三人を前にして痺れを切らしたのか、黒ローブの男は既に握ってあったナイフをこちら目掛けて投げつける。
 ナイフは真っ直ぐエリックたち目掛けて飛んでいくが、ソレを見て黙っているほど彼等も間抜けではない。

「ちっ」

 フェイトがすぐさま銃を構え、発砲。
 次々と発射される弾丸は正確な狙いで一本ずつ飛んでくるナイフたちを撃ち落していき、こちらへの被害を事前に食い止める。

「!」

 次に仕掛けようとする黒ローブ男だが、真横から急接近してきたエリックと狂夜の気配に気付いて狙いを変更。
 両手から巨大な鎌のような刃が飛び出て、二人の迎撃に出る。

「嘗めんなよ! こちとら速攻に命かけてるのよぉ!」

「応よ、友の仇を取らせてもらうぞ!」

 真っ直ぐランスを突き出し、右から攻めるエリック。
 ソードを構え、左から突撃する狂夜。

 だが次の瞬間、

「!?」

 僅かに、ほんの僅かにではあるが、

(笑った!?)

 フードで隠れているために完全な表情まではわからないが、その隙間から僅かに見える口元がまるで嘲り笑うかのようにして歪んだのである。
 
 まるで無駄だ、とでも言わんばかりに。

「!?」

 直後、二人は気付く。
 フェイトが撃ち落したナイフ、そしてマーティオに突き刺さっていた無数のナイフがまるで羽が生えたかのようにして浮遊し始め、二手に分かれることでエリックと狂夜を迎撃しに来たことに、だ。

「あのナイフ、あんなことも!?」

 エリックに比べ、加速にそんなに自信があるわけでもない狂夜は、向かってくるナイフたちの処理に出る。
 

 だがエリックは止まらない。


 先ほども自分で言った様に、速攻に自信がある彼はランスを突き出したまま更に加速。
 追撃してくるナイフたちとの距離を突き放しつつも、真っ直ぐ黒ローブの男に向けて突撃していった。

「!?」

 まさかこのまま突撃してくるとは思わなかったのか、黒ローブの男は多少困惑しつつも右の曲刃をエリックに向けて振りかざす。

 だが遅い。
 
 エリックのランスはレベル4を発動させて、更に加速。
 矛先と柄が、まるでジェット機のような加速を見せて黒ローブの男の顔面――――フード目掛けて突撃する!

「!?」

 だが次の瞬間。
 正に接触すると思われたフードは、ランスの高速の突撃を、更なる加速を使うことでギリギリ回避。
 矛先にかかった加速による破壊力はフードを巻き込みつつも男に攻撃を仕掛けたわけだが、ローブと身体が直接繋がっている訳でもなく、その攻撃も結局は空振りに終わる。



 はずだった。



 だが、ランスが巻き込んだフードは完全に吹き飛び、黒のローブに隠された男の素顔が明らかになる。
 その素顔の正体は、三人の表情を驚愕の一色に染め上げるには十分すぎる威力を持っていた。

 まるで刃のような鋭すぎる目つき。
 青髪で背中まで伸びた長髪。
 そして髪と同じように海のような深い青の瞳。

「そんな……!」

 その素顔の正体は、正しくマーティオ・S・ベルセリオンその人だった。

 だがおかしい。

 そもそもにしてマーティオは先ほど壁にナイフで固定されていたはず。
 それなのに、何故マーティオが二人いる?

 そんな三人の疑問に答えたのは、他ならぬ本人だった。

「……やっぱ予想外だったらしいな、俺様がこの場にいることがよぉ」

 黒のローブに身を包んだマーティオが無表情で呟く。
 直後、浮遊していた無数のナイフが彼の手元に集まっていく。

「あ……」

 だがナイフはナイフでも『刃』は収納され、『柄』のみである。
 それが次々と連結していき、最終的には一つの長い棒を形成させる。
 そこにマーティオは右腕に握っていた『曲刃』を装着。

 完全なる最終兵器大鎌――――サイズが完成した瞬間である。

 そしてそれは、このマーティオが本物であるということを意味している。

「なんで……!? そもそも、あそこのマーティオは!?」

 混乱が止まらない三人。
 だがマーティオはマイペースに説明を始める。

「ああ、そいつね……ソルドレイクが上に突っ込んだ警部を担当することになったから、その代わりとして選出された人形だ。まあ、ちょっと不愉快だったんで、カツラと俺が着てた服をそのまま着用させてみたんだが、案外上手い具合に変り身になってくれたよ」

 頭を掻きながらも親切に説明をするマーティオ。
 だが、本心を言えば人形と言う存在が気に入らないというのがあった。
 どうにもソルドレイクやバルギルドの言うことを黙って聞いていると言うのがこの男の癪に障ったようである。

(何分、俺はドレッドの件で事の出来事を大まかに知ったときでも……気に入る兄貴とは思わなかったんでね)

 だが選ばれ、この階の住人として任されたからにはやるしかない。
 それはどうしようもないのだ。
 例えどう思おうが、自分の身体が『ソレを望んでいる』のだから。

「そういえば正式な自己紹介はまだだったな。俺の名はマーティオ・セカンド・ベルセリオン。邪神ドレッドの力を受け継いだドレッドチルドレン、その三男だ」

 





 続く




次回予告



マーティオ「物心がついたときから俺は常に独りだった。気付けばそこにエリックがいて、キョーヤがいて、先輩がいて、ネオンがいて、警部やジョン刑事がいて、Drピートがいて、ヘルガがいた。だけど、ある日突然気付いたんだ。何だかんだで離したくないはずのソレを無性に壊したくなる自分に……次回、『マーティオ』」

エリック「そいつがお前の答えかい、マーティオ……!」








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