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其処が現時点での最大の疑問だった。
『彼』と表現されている為に具体的な姿形はイメージするしかないのだが、幸いにも考え方はある程度把握することが出来た。 問題は貪欲と表現してもいい程に知識を求める『彼』がムートンの裏切りとも言える行為を許すのかと言うこと。 また、何故ムートンが主人である『彼』に逆らったのかと言う疑問も残る。 「…………それは」 やや沈黙が流れた後、ムートンが言葉を放った。 しかし回れ右をしてこちらと向き直った彼の視線はカイトよりやや上の方にあり、 「伏せて!」 自分の問いとはまるで別の回答が飛び出した。 しかしその意味は直ぐに理解できる。 「!」 ムートンの言葉に従うようにして素早く身をかがめると同時、ムートンは視線を上に向ける。 その先に居るのはムートンとは別の青いロボットだった。 (あれは……) 身をかがめた状態からカイトは青いロボットの観察を始めていた。 恐らくはムートンと同じくこの世界のお世話ロボットなのだろうとは思うが、どういうわけか『ボディがピカピカ』だった。 「おい、あいつは何だ!?」 上空からコチラに向かって移動してくるロボットを指差しつつ、カイトはムートンに問う。 何だか完全に質問要員になってしまった気がするが、渡された資料からは考えられないような代物が次々と出てくるのだから仕方が無い。 「あいつはクルーガー! 『彼』の忠実なお手伝いロボだ!」 「さっき話してたお前と同時期に作られたって奴だな」 しかしそれにしてはデザインが違いすぎやしないだろうか。 ムートンがキャタピラに万能アーム、双眼鏡頭なのに対してクルーガーは完全に『人』を模して作られている。 脚部は人と同じような二足歩行仕様。 人間で言うと筋肉が溢れかえっていそうにさえ見える巨大な万能アーム(大きさはムートンの約5倍)。 極めつけは顔が巨大なカプセル状の縦に長い球体である事だった。 どう考えても双眼鏡顔のムートンとは比べられない程『お金をかけていそうな』豪華ぶりである。 因みに、頭の上にバケツは置かれていなかった。 「むぅ、既に人間と接触していたかムートン!」 ムートンの少年のような高い声とは違い、成人男性の低い声でクルーガーが言った。 どうやら彼の目的には何時の間にか自分も含まれているらしい。 「おい、なんで俺がお前等の競争の標的になっとるんだ?」 「五月蝿いなクズ野朗! 僕だって君みたいな人間の出来損ないを守りたくないよ! デビットのお願いなんだから仕方が無いじゃないか!」 聞きたい事を聞いただけなのに、何故か言いたい放題言われてしまった。 「ムートンよ、御主人様の命令によりお前を処分する」 「おい、同僚があんな事言ってるぞ」 「全く厄介だよね。僕だってあんな機械の筋肉みたいな塊よりも可愛いロボに追いかけられたいよ」 結構要求のハードルが高いような気がした。 「因みに、可愛いロボってどんな感じなんだ?」 「そうだね……頭の上にサボテンが乗っかっていたら完璧だね!」 この世界の住人の考え方はよく判らない。 想定外過ぎる回答を貰ったカイトは深くは考えずにそう思った。 「と言うさ、クズ野朗は何で他人事みたいな顔してるんだい? 此処は僕と一緒にクルーガーと戦ってくれる場面だろ?」 「何で俺があんな機械の筋肉の塊みたいなのと戦わなきゃならんのだエムテン。大体奴の狙いはお前だろ」 「確かにそうだけど、『彼』が君を放っておくとは思えないよ。大体君はデビットを助けに来たんじゃないの?」 「正確に言うと回収しに来たんだ。助けれるなら回収するし、無理なら遠慮なく帰る」 「君は本当にクズ野朗だよね」 やんややんやと騒いでいた次の瞬間、クルーガーから発射された爆弾が彼等の足元に転がってきた。 「ん?」 その存在に気付いたと同時。 爆炎と光が二人を包み込んだ。 「…………」 爆発した地点よりやや離れたところでクルーガーは二つの反応を探っていた。 ムートンは万能アームに使われている特殊金属反応。 人間の方は生命反応を感知すれば反応できる。 「……来るか」 反応は直ぐに探知することが出来た。 どうやら向こうは隠れることなく真っ直ぐこちらを迎撃するつもりらしい。 (ムートンはその場で動かずにいるが、人間はこちらに迷う事無く突き進んできているか……) その采配に何の意図があるのかは判らない。 しかし確かなのは人間の方が攻撃を仕掛けて来るだろうということだった。 「来るがいい!」 呼びかけると同時、紫煙を切り裂くようにして黒い影が現れる。 それは周囲のスクラップを気にせずにクルーガー目掛けて突撃して行き、一瞬にしてその距離は詰まっていく。 「ほう!」 その動作に素直な感想を示したのは他ならぬクルーガーだ。 彼はほぼ瞬間的にこちらとの距離を0にしたカイトの身体能力を冷静に分析していた。 「貴様、以前捕らえた人間とは違う種類のようだな」 「お前等で言えばエンジンで動いてるようなもんだと思えばいいぜ」 吐き捨てるように言ったと同時、カイトは右ストレートを放つ。 先ず分析したかったのはクルーガーのボディについてだからだ。 (アトラスの話によれば、この世界に居る住人はボディはボロボロ。だが――――) 目の前に居るクルーガーも、ムートンもボディはピカピカだった。 ソレは詰まり、『彼』の元で行動する為に日々点検を受けており、他のロボとは勝手が違うのだと言う事を意味していた。 それ故にどのくらいの『強度』があるのかを直接理解したかった。 「むぅ!」 「!」 鉄の仮面すら凹ませた鉄拳がクルーガーのボディに炸裂する。 しかし触れた瞬間に自分に返って来た反応は、 (硬っ……!) がこん、と言う凄まじい音が響く。 それは高い破壊力が強固な守りを持つ物体にぶつかった時に起こる特有の衝突音だった。 「計測値、パワー800」 しかし衝突された筈のクルーガーは平然とした様子で言い放つ。 人間ならこの時、表情や感触でどのくらいのダメージを食らわせたのかを想像できるが相手が機械の場合、ポーカーフェイス過ぎて判らない。 精々ボディ越しに幾つかのネジを揺らした確信がある程度だった。 「パワーは工場ロボよりも高い。貴様、戦闘用の人間だな?」 その問いかけにカイトは答えない。 ただ、一瞬クルーガーを睨みつけた後、 「らあああああああああああああああああああああああああ!!」 再び拳をクルーガーのボディに打ち込んだ。 「むぅ!?」 今度の一撃は左の鉄拳。 その威力は先程の一撃同様、やはり高いパワーを秘めていたのだが、 (さっきよりも、パワーが上がっている……!?) 計測値としてクルーガーの頭脳に数字が叩き出される。 その数値は1200。 先の一撃よりも1.5倍もの威力が検出された。 (これは流石によろけざるを得ない、か) ぐらり、と体勢を崩す。 今の状況を例えるならば突進してきた自動車を真正面から受け止めたような物だ。 そんな一撃を受けた以上、機械の身体を持つとは言え押し出される事は必須といえた。 「しかし!」 それだけでは負けたことには繋がらない。 確かにジュリーたちから測定していたパワーよりも遥かに高い数値が叩き出された事には驚いたし、自分がパワー負けしだしたのも認めよう。 だがあくまで自分が受けた指令はカイトと戦うことではなく、『ムートンの破壊』だった。 「人間よ。私を本気にさせたようだな」 それならば目の前にいる人間を先に倒してしまえば問題ない。 御主人様もこの人間を必要だとは言わなかった。 何も問題はない。 「人間、人間って五月蝿い機械だな」 しかし当の本人は苛立ちを隠そうともしない表情で敵意の視線を送りつけてきた。 更にはそれと同時、彼の手に填められている手袋から漆黒の爪が飛び出した。 「本気だからなんだってんだよ。バラバラにしてやる」 言い終えたと同時、カイトはその場で腰をかがめてダッシュの姿勢に入った。 だが姿勢に入った直後、 「!」 クルーガーは見た。 カイトが腰を低く屈めたと同時、その奥からきらり、と光が煌いたのを、だ。 その位置にいるのは、 「ムートン!」 腰を屈めたカイトの真上を通り抜け、ムートンの万能アームから放たれたビームがクルーガーの胴体を撃ち抜いた。 「だがっ」 それでもクルーガーは倒れない。 これが人間だったらそのまま倒れて時間が経つと共に死へと向うのだろうが、自分はそうではない。 身体に小さな光の弾丸の痕跡を残しつつ、クルーガーはそう思うことで己を立ち上がらせる。 「まだだ!」 「!?」 しかし、体勢を崩したクルーガーの頭部を無理矢理押さえつける力があった。 その力は片手一本でクルーガーをスクラップの山の上に押さえつけ、体勢を立て直すことを許そうとはしなかった。 行動を取ったのは、 「にん、げん――――!」 只の人間だと思って最初は軽視していた黒い髪の男。 しかしソイツの片手は自分と同じ機械であり、そのパワーもまた自分たちと同じかそれ以上の物だった。 「おのれ人間……! 生物の分際でありながらこの俺を見下すとは――――」 「おやすみ」 最後まで何かを言わせる気は毛頭無かった。 だから一撃で仕留める。 口を閉ざす手段は人間でも『こんな機械』でも一緒だ。 頭を潰してしまえばいい。 一番装甲の薄いであろう首の部位に狙いを定めつつ、カイトはクルーガーに拳と言う名の釘を打ち込んだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.05.03 21:15:34
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