地球人スピリット・ジャーナル1.0

2009/01/22(木)12:44

日本発イット革命

2nd ライフ(108)

「日本発イット革命」アジアに広がるジャパン・クール 奥野卓司 2004/12 岩波書店  奥野卓司。私はこの名前に覚えがある。たしか1971年の春の「朝日ジャーナル」だったと思うが、「ミニコミ特集」というものを組んだことがある。学園闘争や地域闘争のピークを超えつつあった中、当時の表現形態は、限られた大手マスコミか、ガリ版の印刷物しかないような時代だった。当時マスメディアという言葉さえ一般的ではなかった。「闘争」のアジテーションの手段だったガリ版しんぶんが、次第に個人の表現形態に変質していこうとしていた時代だった。  16歳だった私も、学校新聞部に属しながら、個人のミニコミを作り始めていた。この朝日ジャーナルの「ミニコミ特集」は、同誌が、事前に告知して全国から応募したミニコミ達の全リストをアップしたものだった。その数、数千からあったと記憶している。私の個人ミニコミも、この大「マスコミ」朝日ジャーナルに取り上げられることによって、一気に読者を増やした。沖縄の伊礼優くんから手紙をもらったのも、これが遠因であったし、NHKにも雑誌に出たのも、このリストが由縁だった。また、このリストに載った住所がもとで、全国から沢山のミニコミも送りつけれられることにもなった。  インターネットもブログもない時代である。勿論ワープロもなく、電話さえ十分に発達していない時代だった。ガリ版ミニコミの力は、決して見くびられるような非力なものではなかった。表現の時代、文化の時代の先駆けとなったといえる。  この時の特集には、懸賞論文があり、その優勝者が、この奥野卓司だった。うろ覚えだが、そのタイトルは、たしか「飛べ、僕の紙ヒコーキ」だったと思う。 正直、文章のこまかい内容は忘れたが、優勝者として、見開きページにタイトルが大きく踊り、何ページにも渡ってスペースを開けてもらった奥野には、嫉妬した覚えがある。彼は当時20歳か21才の大学生だった。ミニコミを語ってマスコミに登場するという、当時あったミニコミVSマスコミ的な感覚をぶち抜いた奥野の存在は、ある種、「新しいもの」であった。その後の彼の経緯は詳しくは知らないが、如才なく人生を渡り歩き、現在は大学院社会学研究科教授というポジションについているようだ。  世の中の流れを、彼流に「社会学」してきたのは、まさに、それしかなかったというほどハマリ役だったかもしれない。この本で語られることは、「クール・ジャパン」。今をときめく「セカンド・ライフ」を推進しているデジタル・ハリウッド杉山知之の「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」 が2006年2月発売なのに、奥野のこの本は2004年の12月にでている。奥野は目の付け所は「早い」。  森・元首相が失笑を買った「イット革命」をあえて、逆手にとって、日本はイット革命で行こう、と言い切ってしまうあたりが奥野らしいなぁ、と思いつつこの本を読んだ。ただ、あえて言うなら、時代の流れをうまくまとめて説明しているだけだから、時代が経過すれば、次第に陳腐化してしまう。雑多な情報を、奥野一流の洒脱な感覚でまとめるのはいいが、どこかでタガが外れてしまえば、とんでもない雑文に堕してしまう可能性もある。  この本は、「多様化するネットワーク社会における多文化共生のための質的調査方法の研究と開発」というものの前半部分だということである。あいもかわらずこの著者は、軽くこの人生を生きてきたのだろうか、などと、ついいぶかしくなったところで、「あとがき」にこうあって、びっくりした。  二年半前に妻が亡くなり、その後は何もする気がなくなってしまっていたぼくは、そのままであれば、このように一冊の本を書き終えるということはもちろん、むしろウツ的に落ち込んでしまい、この分野に調査者として接近していくことすらなかっただろう。その意味で、独りになったぼくを気遣って、研究会や調査旅行に声をかけてくださった周囲の先生方、先輩、友人達には、心から感謝している。p242  なるほど、そうであったか、この本の出版より2年半前ということだから2002年の夏頃ということになるのだろうか。どのような人だったかは知らないが、遅ればせながら追悼の意を表したい。そして、また、そのような背景を知ればこそ、この軽妙なタッチの奥野「節」は貴重なものに思えてくる。私は、密かに心の中で、「がんばれ、奥野卓司」とつぶやいていた。  「飛べ!ぼくの紙ヒコーキ」。もう35年前に飛ばされた紙ヒコーキは、どこまでいったのだろう。今、どこを飛んでいるのだろう。私のように、何処かで彼と世代を共有している人たちは多いだろう。  奥さんを亡くしたことをあとがきに書いていた、ということでは、「密教の可能性」 の正木晃を思い出した。

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