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Blue Moon Sunset

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2009.03.18
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テーマ:小説(31)
カテゴリ:幽玄郷綺譚

 【水の話 3】



 幽玄郷の青い空を、綿菓子のような入道雲が空を覆い始めた時、咲耶山と里の間にあるお堀に変化が起きていた。
 夏の気配を感じて、お堀に根付いていた睡蓮が眠りから覚めるように次々と咲き始める。
「すごい……」
 赤・白・ピンク・青・黄・紫色の色とりどりの花弁を開いていく睡蓮――。その瞬間を目にした友樹は、その光景に目を奪われる。
「トモキ?」
 急に黙り込んでしまった友樹を怪訝に思ったカッパだったが、友樹が見入っているものを見て気付いた。
「睡蓮が咲いてるってことは、もう夏か……」
 カッパはつぶやくと、空を見上げる。
 さっきまで雨が降っていたとは思えない晴天には、光の強さを増した太陽が輝いている。
「急がないとやばいな。秋が来ちゃうよ……。――ねえトモキ」
「ん? なに?」
 お堀の睡蓮を見て『綺麗だな』と思っていた友樹は、カッパにズボンのすそを引っ張られて、足元のカッパを見下ろす。
「急ごう。もう少ししたら、嵐が来るんだ。だから……」
「嵐?」
「うん。夏って夕立とかあるでしょ?」
「そういえば……」
「その後は残暑とかあるけど、台風が来るじゃない?」
「そうだね……」
 カッパに説明されて納得しつつ、友樹は何か変だと感じた。
 気が付いた時は桜が咲いていて、その桜が散り始めたと思ったら桜は目の前で葉桜になっていって、雨が降ってきた。
 その雨はもう止んでいたけれど、カッパはもう少ししたら嵐が来ると言ってきた。
 ここが普通の場所じゃない、というのは友樹も何となくわかっていた。
 夢を見ているのかな、とも思っていたけれど、夢とは違う感じがした。
 そして生まれる疑問。
「ねぇ、ここってどこなの?」
「幽玄郷だよ」
「ゆうげんきょう?」
「うん。ここはトモキの世界で言う、天国と地獄の境目みたいなところ」
 かなり大雑把な説明だったが、友樹は何となく理解できた。
「そんなところに何で僕、いるんだろう?」
「たぶん、今日が『蝕』の日だからかな?」
「しょく?」
「トモキの世界に日食とか月食とかあるでしょ?」
「うん」
 日食は見たことがなかったが、月食は最近あったので友樹は知っていた。
「それに似たのがここで起こると、たまに人間の世界とつながっちゃうことがあって、その時のエネルギーの波みたいなのに巻き込まれるとここに来ちゃうことがあるんだって。だから、トモキはそのエネルギーに巻き込まれて来ちゃったっぽい」
 ゲームの世界の設定でありがちな話をけろりと言われてしまったが、それが本当だとしたらかなりとんでもない内容だった。
「…………」
 混乱する友樹。
「あそこに小屋が見えるでしょ?」
 そう言ってカッパが指さした場所には――お堀に囲まれた咲耶山と里を結ぶ20mほどある長い石橋の先に――木造の質素なログハウスがあった。
「このままじゃやばいから、とりあえずあそこに避難しよう!」
「わかった」
 カッパの口調から、このまま外にいるのは危険らしいと感じた友樹はカッパの言葉に従うことにした。
「あの小屋、お師匠様の家なんだ」
「お師匠?」
 オウム返しに言った友樹に、うなずくカッパ。
「うん。うさポン先生っていうんだけどね」
「うさポン? それって名前なの?」
 お師匠様、と言っていたので、うさポンという名前にギャップを感じた友樹。
「ちゃんとした名前はあるんだけど、忘れちゃった~」
 師匠なのに、いいのかそれで、と突っ込みたいところだったが、「ま、みんなうさポン先生って呼んでるし」と言うのでいいのだろう。
 やがて石橋を3分の2ほど渡った頃、友樹は『お堀の睡蓮きれいだな』と思いながら、あることに気がついた。
「カッパ君って、歩いてる感じしないんだけど――、もしかして浮いてる?」
 石畳なので、友樹の靴の音がコツコツと響くのだが、カッパの移動する音がしない。
 足は動かしているのはわかるのだが、その短いリーチにしては移動速度がある方だったので、友樹から見ると、亀の歩みみたいな動作なのにそれなりのスピードがあるように感じた。
「あ、わかった? 普段はちゃんと地面について歩いてるんだけど、今、急いでるし」
 今は省エネモードだからこれはしょうがないんだけど。
 最後にぼそりと呟いた言葉は友樹の耳に届くことはなく、そのまま他愛無い会話を交わしながら、カッパが言う『うさポン先生の家』の前に着き、カッパがドアをノックしようとした時――扉が内側から開いた。
「いらっしゃい、カッパくん」
 そう言って、扉の向こうから友樹たちを迎えたのは、魔法使いのような深緑色のローブをまとった白いウサギだった。


≪ 続く ≫



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Last updated  2009.03.18 22:33:11



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