「ボビー」を観て
“ボビー”の愛称で親しまれたロバート・F・ケネディが暗殺された1968年6月5日。現場となったロサンゼルスにあるアンバサダーホテルに居合わせたさまざまな人々の姿を、事件が起こる16時間前から追った“群像劇”として描かれています。 “世界の運命が、変わるとき---。 彼らは何を見たのか。”原題はそのまま、“BOBBY”。全米では、昨年11月17日にニューヨークとロサンゼルスで限定公開され、11月23日より、拡大ロードショー公開されました。≪ストーリー≫次期アメリカ大統領候補として、多くのアメリカ国民から期待を寄せられていたジョン・F・ケネディの弟で、“ボビー”こと、ロバート・F・ケネディ上院議員が、カリフォルニア州の予備選を勝利で飾った1968年6月5日に暗殺される。この悲劇の16時間前、現場となったロサンゼルスのアンバサダーホテルには、人種も年齢も社会的な境遇もまったく異なる人々が居合わせていた。人は誰も平等だと思っているホテルの支配人と美容室で働く妻、チェスしながら昔を懐かしむ元ホテルのドアマンとかつての同僚、支配人からクビを言い渡されるキッチン部門のマネージャー、酒浸りの女性歌手と元ドラマーの夫、ニューヨークの実業家と鬱気味の妻、19歳のケネディ陣営のボランティア運動員、選挙運動を仕切るケネディの側近、キッチンで働く黒人の副料理長とメキシコ系の青年、ヒッピー風のヤクの売人、コーヒーショップで働く女優志願のウェイトレス、チェコから来た女性新聞記者、ベトナム行きから逃れるために結婚式を挙げようとしている花嫁・・・。果たして彼らは、このホテルで間もなく行われようとしているボビーの演説をどのように迎えようとしていたのだろうか・・・。監督・脚本・製作総指揮、そして出演も兼ねているエミリオ・エステヴェス、製作は、エドワード・バス、ミシェル・リトヴァク、ホリー・ウィーアズマ、製作総指揮は、ダニエル・グロドニック、ゲイリー・マイケル・ウォルターズ、アンソニー・ホプキンス、編集は、「ニュー・ワールド」などのリチャード・チュウ、撮影は、「GOAL! ゴール!」「キスキス、バンバン」などのマイケル・バレット、美術はパティ・ポデスタ、衣装デザインは、「マイ・ルーム」などのジュリー・ワイス、音楽は、「リバー・ランズ・スルー・イット」「ネル」「遠い空の向こうに」「英雄の条件」「クラッシュ」「ブラック・ダリア」など数多くの作品を手掛けているマーク・アイシャム。キャストは、アンソニー・ホプキンス、ヘレン・ハント、ローレンス・フィッシュバーン、マーティン・シーン、デミ・ムーア、ヘザー・グラハム、クリスチャン・スレイター、シャロン・ストーン、イライジャ・ウッド、シア・ラブーフ、ハリー・ベラフォンテ、デヴィッド・クラムホルツ、ウィリアム・H・メイシー、アシュトン・カッチャー、ジョイ・ブライアント、ニック・キャノン、リンジー・ローハン、ブライアン・ジェラティ、スヴェトラーナ・メトキナ、フレディ・ロドリゲス、ジョシュア・ジャクソン、ジェイコブ・バルガス、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、エミリオ・エステヴェスなど。エミリオ・エステヴェス・・・。 何となーく、好きなんですよね。(笑)お父さんがマーティン・シーンということもあるかも知れませんが、弟のチャーリー・シーンとは違って、“シーン”姓を名乗らないところや、“親の七光り”に依存することなく出演する作品選びをしているところなどエミリオ流のこだわりや頑固さみたいな面があって・・・。最初、チャーリー・シーンの方がお父さん似だと思っていましたが、いろんな作品を観るごとに、声といい、立ち振る舞いや仕草といい、エミリオの方がお父さんの血を濃~く受け継いでいるように感じます。先日、TVで今作の紹介があって、メイキング映像が少し流れたのですが、若い頃に比べて、かなりふっくらと中年太り(?)してしまったエミリオが、お父さんと並んでいた時の横顔なんて、双子のようにそっくりでした!(笑)舞台となったアンバサダーホテルは1921年に開業し、老朽化による営業停止を経て、2005年、内部を解体し、学校として生まれ変わることが決定しました。その学校には、“ボビー”の名が付けられるそうです。学校建設の相談を未亡人から受け、力を貸したのがマーティン・シーンで、お父さんの計らいによって、解体寸前の本物の“アンバサター・ホテル”で、今作を撮影することができたのだそうです。また、今作を手掛けたそもそものきっかけは、2000年に弟のチャーリーとアンバサター・ホテルに行ったことだったそうです。エミリオは、ここで起こった事件のことを思いながら感慨深くなって、いろいろな資料を集めてリサーチし、企画を練り、脚本を書き始めたそうです。その昔(?)、エミリオは若手スターの俳優たちが集まって作ったグループ、“ブラット・パック”のリーダー的な存在として活躍していました。「アウトサイダー」(1983)、「セント・エルモス・ファイアー」(1985)などに出演し、「ウィズダム/夢のかけら」(1986)で監督デビューを果たし、主演と脚本も兼ね、また、共演のデミ・ムーアと交際し、婚約までしましたが、結局、破局したようです。それから20年経って、デミ・ムーアが「ボビー」に出演しているということは、きっとお2人は、その後もいい友達関係がずっと続いてるんでしょうね。(笑)西部劇+青春ドラマ仕立てで、キーファーさんも共演している「ヤングガン」(1988)、「ヤングガン2」(同)では、異色キャラのビリー・ザ・キッドに扮しています。その後も、「ミッション:インポッシブル」(1996)などいろいろな映画に出演し、TVドラマ「コールドケース」「CSI:ニューヨーク」の監督なども手掛けています。世界の運命をも大きく変えたと言われる歴史的な1日にスポットを当て、暗殺現場となったアンバサダーホテルに、偶然、居合わせた名も無き人々が多彩な人間模様を織り成す“グランド・ホテル形式”で綴られています。当時の世相を再現させると当時に、人々が失った“希望=ボビー”の存在の大きさを様々な角度から描いたヒューマンドラマと言えると思います。暗殺事件をはじめ、時代背景を描いたニュース映像などは事実そのままですが、他の登場人物のエピソードは、すべてフィクションになっています。それにしても、すごいキャストが集まって、豪華な“競演”が展開していました。若手からベテランまで、心の内側をいろいろな形で表現する役にチャレンジしています。前半は、登場人物が多いこともあって、その説明のような展開ではありますが、後半から終盤に向かって、さまざまな人間関係が明らかにされてきたり、それぞれが抱える問題や悩みが解かれ、希望の光が見え始めてきたり・・・。おそらく予告編で流れている曲だと思いますが、アレサ・フランクリンとメアリー・J・ブライジの“Never Gonna Break My Faith”がすごくいい雰囲気でした。他にも、スモーキー・ロビンソン、シュープリームス、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、サイモン&ガーファンクルなど、当時の曲がいろいろ使われています。残念ながら受賞は逃がしていますが、ゴールデングローブ賞では作品賞と歌曲賞に、放送映画批評家協会賞ではアンサンブル演技賞と歌曲賞に、アメリカ俳優組合賞でもアンサンブル演技賞に、それぞれノミネートされていました。ジョン・F・ケネディ大統領と同様、弟のロバート・F・ケネディ上院議員は、アメリカ国民にとって、正義と平等、友愛の証という存在だったと言われています。もし、“ボビー”があの時殺されていなければ、もし大統領になっていれば、アメリカも世界も、今よりもっと明るくなっていたに違いないと・・・。今作は暗殺事件がメインテーマではなく、“ボビー”自身はあまり登場しませんが、その“人となり”を充分に感じさせるスピーチのシーンがいくつかありました。最後の方で、映像とオーバーラップさせながら聴こえてきた、事件の2ヶ月前に暴力について語ったスピーチに涙が止まりませんでした。約40年も前の演説内容は、そのまま今の世の中、今の時代に当てはまり、また、それは、今の私たちが求めているものであり、いい換えれば、“昔”も“今”も求めるもの、目指すものは同じだと言えると・・・。2月24日より、全国ロードショー公開されています。「ボビー」 オフィシャルサイト「ボビー」 サントラ盤(ユニバーサル・ミュージックサイト)