2014/01/14(火)07:34
しめ鯵の酢のもの
ご当地ソングというのがあるが、ご当地小説も興味あるもので。 川上弘美『真鶴』 まさにそう、ご当地小説である。川上弘美氏(96年115回芥川賞)という作家も初だから興味があり、さらに地名にも反応して文庫版化なったのでさっそく読んだ。 「代表作」と帯にあるから芥川賞の『蛇を踏む』や他の作品を読んでいなくても、この方の雰囲気が解かるのか?そうだとすると、幽玄的な幻想の場面が色濃く深層心理に迫る、それでいてふんわり感がただよう作風だ。 ストーリーは失踪した夫を探して「東京」と「真鶴」往還して半島を彷徨う主人公の物語り。失踪した夫が「真鶴」と手帳に書き残したのが唯一の手がかりだったから。といっても『ゼロの焦点』のようなミステリ展開ではないけれども。 さまよう主人公には幽霊のような「ついてくるもの」がある。幻覚を見てしまう、その姿は失ったもの、去ったことを受け入れられない深い悲しみが表されている。 わたしがもっとも興にのったのはもちろん地名。わたしも「往復」もしていたし、そこが共感かも(笑)細かに述べられている風景、情景はその通りである。 それが小説の雰囲気をかもすなら、『ゼロの焦点』の能登半島と同じように観光誘致になる。しかし、江ノ島や鎌倉と同じにここも昔から東京近辺の手軽な遊興地ではある。いまさらである。 歩けるちいさな半島、突端の鬱蒼とした森、その下に集まる魚の宝庫の漁場。海の端の魚料理店数々。小説には出てこないが「小松石」の産地(といっても希少になったらしいけど)。その他源頼朝関係の史跡などいろいろ。 小説は半島をさまようことがメイン。発端、「京」という主人公がひとりで真鶴半島にて「鯵料理」を食する場面がある。 鯵たたき定食を頼んだ。
細かく叩いたものではない。親指の先ほどに切った鯵に、紫蘇とみじん切りの生姜をのせ、ぜんたいにねっとり歯ごたえがあるのは、あらかじめ醤油をからめてしばらく締めたからにちがいない。魚の粗でだしをとった味噌汁と大ぶりの茶碗に山に盛ってあるご飯と余さず食べた。 ひっそりとした海端の魚料理屋。窓には鳶やかもめが飛ぶ姿がみえる。ものさびしい。 だが、主人公が半島をさまように際して腹ごしらえするようでなんだかおかし味も感じる。しかしこの素朴な鯵料理はうまそうだよ。 そう「鯵」は安くておいしい!活きのいいものは尚、うまい! 刺身が一番だけれども、「たたき」各種類もいいし、叩いたものの磯辺揚げ、小鯵の南蛮漬け、アジフライ、干物、数え上げたらきりがない。 わたしが一番好きなのは活きのいいものを三枚におろしてさっと塩し、さっと酢で締めたもの。外側がすこし白くなって中身が生がいい。それを胡瓜の塩もみとまぜ合わせ、上にしらがねぎ載せ、すだちの絞り汁と醤油をたらす。紫蘇の大葉や生姜など刻んでをごちゃごちゃ入れないのがわたしの料理。