2011/08/26(金)13:06
濃いおもしろい伝記を読んだ
齋藤愼爾著『寂聴伝』瀬戸内寂聴さんは得度なさった時のセンセーショナルなおどろきで読んだ『いずこより』の率直なかたりくち小説で感銘し、瀬戸内晴美さん(出家前の名)で終わってしまっていた。出家したら静かにしているものでしょ、という頭があった。でも、そののちTV、雑誌などマスコミにお出になるわ、新聞小説はお書きになるわで、派手な活躍していらっしゃるようにお見受けし(まじめな社会的なお仕事でしょうが)なんだかなーと思っていた。もちろん瀬戸内晴美さんで書かれた『かの子繚乱』『田村俊子』『美は乱調にあり』などの伝記小説のおもしろさは魅力的で今でも好きだし、『夏の終わり』や『黄金の鋲』の私小説(純文学と言うそうだが)は寂聴さんの才能が溢れていて読み応えあったと思っている。が、この伝記を読んで出家したら悟って静かに暮らしていると言うのは大きな勘違いであった、などということがわかったばかりではない。著者齋藤愼爾さんの筆は寂聴さんの伝記を書きながら、大正昭和の文学史を細かに情感たっぷりに入れ込めてあるではないか。それはそれは文学好きにとっておもしろくてしょうがないことなのである。出家して89歳になられたとはいえ、活躍中の作家の伝記も、素材として書かれるのも面白いことはおもしろい。それに寂聴さんも没した文学界の方々の思い出を生き字引みたいに『奇縁まんだら』に連載(日経新聞)していらっしゃるのだから複雑である。寂聴さんがいいのか、齋藤愼爾さんがうまいのか。まあ、そんなこんなも「わたしはとてもいいものを読んだ」とうれしくなっているので読後感としては最上級であった。
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