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呑まないわけにはいかない。あろうことか、さらには喰わねばならぬ。そのための貨幣を獲得するのに、人はあれこれ工夫をめぐらすらしい。会社もいいが、国家なんてのを経営すればさぞ儲かるだろう。誰が考えついたのか知らないが、うまい仕組みをつくりあげたものだと思う。
だが、国はさすがに持てない。ちいさな小さな店をやっている。謙遜で言ってるんじゃないところが情けないね。なにを売ってるんだと聞かれたら、ヒマなので油を売ってますと答える。これも事実なので困ったもんだが。 お隣は薬局である。お隣からは季節の新ジャガをいただいたり、お昼の弁当を格安でわけてもらったりする。薬も売っているようだ。 薬局の前に「サトちゃんムーバー」というオレンジ色の小象がいる。ムーバーというのは、しかるべき額のコインを投入すると、一定時間を音楽にあわせて動くアレだ。おおがかりになると回転木馬なんてのもその一種だね。 サトちゃんムーバーは幼児に人気がある。生き物だと信じて疑わぬらしい。乗り終えてサトちゃんにバイバイをしない子はまれで、つれて帰るのだとねばる子もある。乗ったはいいが、動き出したとたんに泣きだすなんてのはご愛嬌で、なかには遊ばせてもらえない子もいる。ねだられた親はいいくるめにかかるわけだ。 曰く 『もう乗ったでしょう』 『乗れるのは3歳までって書いてあるでしょ』 『壊れてるでしょう、ほらあ』 …ぜんぶデタラメ(笑)。 首尾よく遊べた子でも、もう一度とねだると、ほとんどの親が拒絶する。それを許さないのは、経済的な理由からだけでは必ずしもないようだ。1度で満足しないのはこどものわがままであり、これを認めることは躾けのうえでよろしくないという、親の判断があるのだろう。 だが、例外を見たことがある。その子はたてつづけに3度、乗った。 ある日、白人の中年男性が5歳くらいの女の子をサトちゃんムーバーに乗せた。動き始めると離れた場所に立ち、微笑を浮かべて娘を見守っている。音楽がやみ、機械が停止した。微笑を消すことなく、女の子に訊く。 「OK?」 「NO」 かれはコインを投入し、再び見守る。機械が止まる。おなじことがもう一度繰り返された。3度コインを投入したあとでかれは娘に訊いた。 「OK?」 「OK」 娘はサトちゃんから降りると、もう振り向きもしなかった。 こどものないわたしには、どちらがいいとも判断しかねる。ただ、あの白人の女の子がふたたびサトちゃんを眼にしても、乗りたいと要求しないのは確かなことのように思われる。 これは、彼我の、機械に対する距離の置き方に違いがあるのかもしれず、ともあれ、たかが1台のムーバーなのにわたしにはいい薬になっている。さすが薬店さんだね。 と、ここまで書いてお茶を飲んでいると、ときどき顔を出す女の子が来て、言う。 「おじちゃん、なにしてるの?」 「お茶のんでんの」 「ちゃんと仕事しないとだめでしょ」 「ハイ。ごめんなさい」 彼女を見送りながら、あの子くらいのこどもたちが大勢ころされているのだ、と 切なくなる。 お隣に確かめないと断言できぬが、過激派・ブッシュにつける薬はないだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004.11.23 19:41:38
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