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「ジェスチャー」というテレビ番組があった。国営放送で、40年ほどもむかしのことになろうか。
芸人が男女にわかれてチームをつくる。一方のチームが相手チームのひとりを指名して課題を出す。指名された者は出された課題を身振りだけで表現し、仲間の他のメンバー全員で、表現されている状況を推理するのである。女性チームのキャプテンは水ノ江タキ子、男性側は柳家金吾楼だった。 あるとき男性チームに『あどけない顔』という課題が出される。これを金吾楼がやった。金吾楼はすぐさま顔を作り、自分の顔を指し示す。これが解答、というわけだな。 『ひょうきんな顔』、『おたふく風邪のなおりかけた顔』、『離婚を言い出された男』、とりどりの推理が出され、正解はついになかった。無理からぬことだ。当時の金吾楼は齢すでに60歳を超えていたはずである。あどけない顔を表現するにはやや無理があるな。 課題そのものが秀逸であり、それを金吾楼がやったということで、いまも覚えている。 林家三平の息子に、こぶ平という人がある。寡聞にしてかれが落語家だとは知らなかった。正蔵を襲名しちゃったらしいね。それはともかくも、かれなら『あどけない顔』という課題に困惑することはなかろうと思う。 今朝のこと。飯をかんでいるときに口中に異物を感じた。とりだしてみれば銀冠である。奥歯に被せてあったものがはずれたらしい。すこし考え、食事は中断することにして電話帳を開く。そう遠くないところに、九時からやっている歯科医院があった。 医院へ持参するために流水で銀冠を洗う。指でつまみ歯ブラシをつかった。持ちかえようとして落とす。ステンレスの流しでからからと、骨のころがる音がした。 そのとき「ジェスチャー」の本番中でわたしが指名されていたら、金吾楼にならってわたしも自分の顔を指してみせたろう。ただし、課題が「あじけない顔」である。正解は出ると思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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