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2007.08.16
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カテゴリ:母のこと・介護

キャッシング
3日前の月曜日、Fドクターから電話があった。

「ああ、どうもどうも、Fです~」

いつもの挨拶で始まった後、明らかに声のトーンが落ちた。

「実はねぇ・・・ちょっと困ったことになりましてな」

わけが分からず、「はい・・・?」と探るような返事をすると、ドクターが話を続けた。

急なことなんやけど、病院を替わることになりましてん・・・


え、え、えええええええええっ!?


それを聞いた私の第一声は↑で、次に、「何でですか!? 困りますー!!」だった。
その時はなかなか詳細を聞けなかった上に、転勤は来週の火曜日だという。ほんとに急じゃないか。
ドクターが一度会って説明したいとのことだったし、私もそれを望んでいたので、今日、会いに行って来た。


どうやら病院側の辞令ではなく、ドクターの判断らしい。
要約すると、以下の通り。

転勤先は、和歌山。
古くからの知人がいる病院にドクターの欠員ができ、来て欲しいと熱望された。
その知人には、恩や義理がある。
しかし、今の病院には自分が担当している患者がいる。
迷いながら、その病院を「冷やかし」で覗きに行ったところ、知人にすぐ見つかり、理事長や偉いさんが続々と現れて熱烈歓迎。
冷やかしだと伝えたものの、向こうには来る気満々と取られた。


「何で見に行ったんですか~!?」 ←私のツッコミ。

実際、今の副院長という立場は激務で、最近は体を壊すことが多い。
和歌山の病院なら、忙しさは今ほどではない。
自分の体を考えれば、この転勤の話を呑んだ方が良いのかもしれない。


「・・・・・・」 ←これには何も言えない。

これを理事、副理事に伝えると、かなり強く引き止められた。
各病棟へも伝えたが、どこの職員からも引き止められた。


「そりゃそうですよ~」 ←みんなの気持ちはよく分かる。

そして、患者の家族に連絡を入れると、皆から「困る」と言われた。
患者を置いていくことが心苦しかっただけに、その家族の声を聞くと、今になって気持ちが揺らいでどうしようもない。
まさかこんなに必要とされ、信頼されているとは知らなかった。
分かっていれば、転勤の話は頭から断ったのに。



この話を聞いている時、看護部長も話に加わってきた。

「ほら、言ったじゃないですか、先生。家族さんが皆さん困られますよ、って」

私は深く頷きながら、それに続いた。

「先生みたいにコミュニケーションを取って下さる先生、他にいませんよ。
 次の先生がちょっといい先生でも、大したことない先生って思ってしまいます」

看護部長によると、ドクターはすっかり忘れていたようだが、過去、病棟を10階から8階に異動することによって、10階の患者の主治医から離れることになった時、どの患者も家族も大反対。そのうちの1人は、Fドクターでないとダメだと、強引に8階の病室に移動してきたという。

今回の転勤話でも、ドクターと一緒に和歌山の病院に転院すると言っている患者がいるらしい。
因みに、和歌山での勤務は無期限。うちだって、可能なら母を和歌山に移したい気分だ。
もし、「F病棟」ができるなら、患者の大移動が始まるだろう。

「普段、そこまで信頼してるなんて言われてないから、分かれへんかったんや。
 何でもっと前に言うてくれへんかったんや~」

冗談っぽくドクターが言うから、

「そんなん、副院長先生が転勤するなんて、誰も思ってませんやん^^;
 やっぱり何かきっかけがないと、普通は言いませんよ。
 それを言うんやったら、何で決める前に連絡くれなかったんですか~。
 連絡くれはったら、みんな、その時にちゃんと言うて引き止めてますやん」

私の答えに、そうかぁ・・・と落ち込んだ様子だった。


で、私は電話で伝えられなかったことを、ドクターに伝えた。

私はドクターが主治医になってくれて、本当に良かったと思っている。
以前の主治医とは数回しか話したことがなかったが、ドクターは頻繁に母について報告してくれ、何でも相談できた。
私はドクターに全幅の信頼を置いていて、母の命を預けている。
ドクターに診てもらっている間に母が寿命を迎えるとすれば、最期にドクターに診てもらえることを、私も母も幸せに思う。


それを聞いたドクターが、目を見開いた。

「いや、実は、僕の担当している家族さんに転勤の電話をした時、
 10人中9人が同じことを言いはったんや。
 先生に診てもらって死ぬんやったら、それでええって・・・」

「そうでしょう? みんな先生に命を預けてるんですよ~!」

ドクターの目に涙が滲んだ。
メガネを取って、何度も目を擦ると、私に向き直った。

「あの、変なこと聞くけど、僕のどこがええの?」

「どこがって言うんじゃなくて、先生だからですよ。先生だからいいんです」

ドクターの目から、また涙が零れた。

「先生、泣かんといて下さいよ~・・・」

「だって、嬉しいやんか、そこまで言うてもらえたら・・・」


帰宅したら、ドクターはこのことを奥様に伝えるという。転勤に関しては、奥様と話し合って決めたことだからだ。

奥様は、Fドクター以上に患者本位の精神を持った方らしい。
例えば、休日の夜中、担当患者が急変して総合病院に緊急搬送する旨の連絡が自宅に入った。ドクターがどうしたものかと思っていると、

「あなたの患者でしょう、すぐに行きなさい! 私が車を運転するから!」

奥様が声を上げ、猛スピードで総合病院へドクターを運んだらしい。
(※ドクターは運転免許を持っていない)

今回の転勤話も、昔の恩や義理を立てるために(それと、きっと体を心配して)、最後は奥様がGoサインを出されたようだ。
ドクターも看護部長も口を揃えて言ったのが、「最終決定は奥さん」。
恐妻家と言えばそうかもしれないが、奥様の意見、意思を大切にしているということだろう。


「今日、Nishikoさんにこう言われたって、家内に言うてみますわ。
 もう辞表は受理されてるし、向こう(和歌山)は受け入れ態勢を着々と整えてるし、
 白紙撤回の確約はでけへんけど、努力してみます」

ドクターはこう言ってくれた。

「もし、向こうに行くことが決まってしまっても、1日でも早く戻ってきて下さいね!
 しかも、この病棟ですよ、この病棟!」

ドクターは、うんうんと頷いていた。



患者家族の声だけで、ひっくり返せる話かどうかは分からない。恩や義理というのは大切にすべきだし、転勤は悩み抜いての決断だったはず。相手もあることだし、そう簡単に事は運ばないだろう。ドクターの残留の確率は、半分以下と思っておいた方が良い。

「僕みたいな(コミュニケーション好きの)医者、なかなかおらんで~」と、冗談で言ってたけれど、それは実際に患者家族がみんな思っていたこと。
ある意味、自覚なさすぎ・・・Fドクターらしいというか・・・^^;


何とか留まって欲しいけど・・・後は神仏に祈るのみ。





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Last updated  2007.08.17 00:53:41
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