561777 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

文の文

文の文

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Profile

sarisari2060

sarisari2060

2004.10.26
XML
カテゴリ:ポスティング
チラシ配りをはじめて一ヶ月が過ぎた。配り始めたころは、あまりに陽射しの強さに日傘をさしていたが、陽射しはだんだんに優しい光に変わっていった。昼間の時間は徐々に縮まっていき、街は路地の奥から暮れていくのだった。

この一ヶ月、なんだか早かったなあと思う。

まあ、それもそのはずなのだ。宅配された最初の千枚がなくなる頃合を連絡をしなかったものだから、次のチラシがなかなか来なかったのである。

わたしはチラシというのは山ほど用意してあって、いつでも貰いに行けばあるのだと思っていたが、そうではなく、連絡を受けてから次のものを作成するのだという。だから、段取りを考えて山崎さんに報告しなければいけないのだと注意された。

ぽかんとした想いだったが、そんなわけで10日あまり空白がある。ま、この一ヶ月は天候も不順で、台風もきた。手元にチラシがあっても配れなかった日が多かっただろう。

空白の日が過ぎてまた配りはじめると、金属の郵便受けが鋭角的に跳ね返していた光が鈍く穏やかになっていた。古い家にまとわりつく植物の色がだんだん茶色を帯びていた。

そうして日は過ぎて、20日〆で計算したら、1487枚配っていて、一枚5円で計算して、電話代や切手代を入れて7575円という請求になった。

それは普通のひとが一日で稼ぐお金にも足らないような金額なのだが、とりあえずこの仕事での初収入だ。なんとなく面映いような誇らしいような、ふわふわっとした気分になる。

はじめてのおつかいのように不安で頼りない思いの一ヶ月だったなと思う。まわりのひとたちもそう思ったことだろう。

それでも目的を持って街を歩くと、家も人も違って見える。わたしにはそこに行く理由があり、そこに立つ意味もある。それはわたしのお仕事だから。請け負った責任を果たすのだから。

チラシ配りの目線を味わった。郵便受けがこんなに気になるものになるとは思わなかった。まったく関係ないところに出かけても、ふっと郵便受けに目が行って、ああ、あのタイプね、とか値踏みをしていたりする。

ただ歩いていると、思いがふっとそれることもあった。受け持ちエリアを回りながら、知らない街を巡る極小の旅を重ねているようでもあった。路地の奥の奥の見知らぬ世界に足を運ぶと、自分でも思いがけない感覚がわいてきたりもするのだった。

打ち棄てられている家財道具や子供の遊具がなんでこんなにものがなしいのかと感じていた。ひとのぬくもりを失ったものが強く目をひくのだった。

配られる側の視線は違うのだとも思った。「ああー、いらない。結構です。持って帰ってちょうだい」そんな台詞を何回も聞いた。歓迎されていないのだ。

それでも働いているという意識を共有できるひともいる。一軒一軒配っているんだね、とわかってくれるひともいる。そういうことがわかってよかったなあと思う。

開け放たれた窓やドアから、唐突に暮らしの一場面が目や耳に飛び込んできて戸惑うこともあった。大きなボリュームでテレビの音が聞こえたり、散らかった室内を一瞬見てしまったりした。

わたしにも同じように暮らしがある。一万歩を歩いた足は重いのだが、さあ、帰って洗濯物取り入れて、夕飯つくらにゃあ、と思う。風が冷たくなる頃に家路に着く。

チラシ配りに業務案内にこの仕事は一年契約であると明記してある。3ヶ月で首にならなくても一年でおわる。そのころにはわたしもいっぱしのチラシ配り人になっているにちがいない。・・・であったらよいのだが、と思う。

これがわたしの「ポストからポストへ チラシ配りの日々」だ。この作文はひとまずここで終わる。またなんかめっけたら、スペシャルをお届けすることにしよう。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2004.10.28 07:47:55
コメント(3) | コメントを書く


Freepage List

とつおいつ とつとつと 3



天秤


補 (1)


補 (2)


補 (3)


わたし 1


わたし 2


わたし 3


わたし 4


不幸


枝折り戸


今晩のおかず


誤解の海を静かに渡る


工事中


工事中


四勝三敗


工事中


愛でる


ピンクのゼラニュウム


MRIの日


焼きなす


裕子ねえさん


カルメ焼き


チラシ配りの日々・1





終う(しまう)


夏服の行方


カラスなぜ鳴くの?


家路


リボン


ばさまといっしょ1~6


ゆうすけ


ゆうすけ・2


東京めぐり


築地ばなし


谷中ばなし


品川


三鷹へ


目黒


茗荷谷


自由が丘


田園調布


柴又


竹橋


上野


参照


門前仲町


銀座


等々力渓谷


戸越銀座


木挽町


旧古河庭園


日本橋


御殿山


本郷


汐留


八重洲


本駒込~根津へ


水道橋


浅草


上野


向島


六本木


荒川遊園地


表参道


佃島


世田谷


飯田橋


「つれづれ」のことなど


bun’s anthology


歌舞伎なひとびと


そんな日々           


セイちゃんの背中


 更年期日記


会いにいくよ


南の島へ行ってきたよ


 「我が道を行く」


有楽町で逢いました・2003-1


2・古井由吉さん


3・高橋源一郎さん


4・佐藤忠男さん


5・久世光彦さん


6・逢坂 剛さん


7・半藤一利さん


8・今橋映子さん


9・島田雅彦さん


10・長部日出男さん


11・ねじめ正一さん


12・伊集院静さん


13・浅田次郎さん


14・堀江敏幸さん


15・藤田宣永さん


16・藤原伊織さん


17・川本三郎さん


18(最終回)・荒川洋治さん


家庭の幸福


文の文・家族篇


文袋 展示室


武田百合子考


アートあれこれ1 


アートあれこれ2


うちんちの本棚


コミック本棚


お言葉


言葉


抜書きコピペ


抜書きコピペ・2


コピペ


キルト部屋


再録 キルトばなし


つくるということ。


東京ドームで山ほどのキルトを見た。


文袋の行き先1


文袋の行き先2


文袋 在庫


迷子の道しるべ


迷子の道しるべ1


迷子の道しるべ2


迷子の道しるべ3


迷子の道しるべ4


迷子の道しるべ5


迷子の道しるべ6


迷子の道しるべ7


迷子の道しるべ8


迷子の道しるべ9


迷子の道しるべ10


迷子の道しるべ11


迷子の道しるべ・12


迷子の道しるべ・13


迷子の道しるべ・14


迷子の道しるべ・15


迷子の道しるべ・16


迷子の道しるべ・17


迷子の道しるべ・18


迷子の道しるべ・19


迷子の道しるべ・20


迷子の道しるべ・21


迷子の道しるべ・22


迷子の道しるべ・23


迷子の道しるべ・24


迷子の道しるべ・25


迷子の道しるべ・26


迷子の道しるべ・27


迷子の道しるべ・28


迷子の道しるべ・28


迷子の道しるべ・29


迷子の道しるべ・30


迷子の道しるべ・31


迷子のみちしるべ・32


迷子の道しるべ・33


迷子のみちしるべ・34


迷子のみちしるべ35


迷子の道しるべ36


工事中



**


*** 


****


*****


******


*******


********


めもめも


工事中


小説日記


小説日記2


小説日記3


おーい日記(抄)


2004年7月のこと


2004年8月9月10月のこと


2004年11月12月2005年3月4月5月のこと


2005年6~9月のこと


2005年10月~2006年1月


社交的つながり・文の文1


社交的つながり・文の文2


社交的つながり・文の文3


社交的つながり・文の文4


社交的つながり・文の文5


社交的つながり・文の文6


社交的つながり・文の文7


社交的つながり・文の文8


社交的つながり・文の文9


社交的つながり・文の文10


社交的つながり・文の文11


12


13


迷子の画像


映画とか。


作家が語る街と本屋さんの愉しみ


工事中


food's photo


工事中mk


鎌倉


見上げてごらん・1


torii


箱集め


・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・



見上げてごらん・2


工事中


ふぉと せれくしょん1


ふぉと せれくしょん2


ふぉと せれくしょん3


ふぉと せれくしょん4


ふぉとせれくしょん5


文袋屋 お品


食べ物シリーズ


待合室


参照


5月17日のこと


/


文袋屋かく呟けり ~思案~


文袋屋かく呟けり ~スケッチ~


fefe


文袋屋かく呟けり ~思案2~


文袋屋かく呟けり ~お言葉~


サクちゃんとその仲間たち―2005―


桜2006年―特別なひとと見るさくら


さくら2006年―そこにあるさくら


工事中


☆納得上戸・合言葉はなるほど!☆


チラシ配りの記憶≪家々≫


素材をお借りしました。


有楽町であいました・2004


川本三郎さん


重松清


花村萬月


有楽町で会いました・2005


川本三郎さん


島田雅彦さん


藤田宣永さん


藤井淑偵(ひでただ)


重松清


津村節子


三田誠広


北村薫


荒川洋治


馬場あき子


玄侑宗久


高橋源一郎


山本一力


井上ひさし


瀬戸内寂聴


あのひとは今・・・


今週の一枚


ライブ文


ライブ文2



© Rakuten Group, Inc.
X