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文の文

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sarisari2060

sarisari2060

2008.10.03
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カテゴリ:エッセイ
ウォーキングである。
その必要がある。困ったものだ。

ようやく適した季節になったので
夜、運河沿いの遊歩道を歩いた。

繋留してある船のそばの小さな電球
岸に並ぶ家の窓の光
川面に映る対岸のビルのネオン
それだけが光源だ。

桜並木に薄く落ちる葉影を踏みながら
大きく腕を振って誰もいない暗がりを進む。

草むらから虫の声が聞こえる。
こうろぎ。すずむし。

堤防にはネオンに照らされたコスモス。
時折ふっと甘酸っぱいような香りがする。
そんな花が暗がりで咲いているんだな。

後ろからジョギングするひとが抜いていく。
タッタッタッタッ。リズミカルな足音。
暗がりに引き締まった筋肉が浮かぶ。

負けずに大股で歩く。
鼻歌なんて歌ってみる。

と、群生するコスモスの切れ目からひとがみえる。
若いカップルが寄り添って運河を見つめている。

対岸のネオンは水面を照らし
ふたりのシルエットを浮かび上がらせる。
クタンともたれかかった女性の肩に
男性の手が回されている。

「そんな時代もあったねと~」
と鼻歌にして歩き続けると
今度はねこがいた。
白っぽく見えた。

わたしが近寄ると、逃げた。
しばらくして振り返ると、
ねこはまた同じ場所に座っていた。

前には千鳥足の男性がいく。
金曜日だからいっぱいやってきたんですね。
なんてこっそりつぶやく。

遊歩道の終着点でジョギングのひとが柔軟をしていた。
その手前で折り返すと、
ほどなく、また軽快な足音に抜かれた。

ねこはまだ同じ場所にお行儀よく座っていた。
わたしが寄るとまた逃げた。

今度は向こうから男の人が来るのが見えた。
蓬髪のシルエットがちかづいてくる。

ああ、あのひとは家のないひとだ。
町で見かけたことがある。
自動販売機のおつりのところに手を突っ込んでいた。
首尾よくいかず、文句を垂れていた。

そのひとは足を引きずるように歩きながら
「しろちゃん、しろちゃん」
と誰かを呼んでいた。
割れただみ声だった。

「しろちゃん、どこだあ」の声にこたえるように
「にゃあ」とねこの泣き声。
ああ、さっきのねこか。

「ああ、ここにいたのか。
しろちゃん、ほら、まんまだよ」

すれ違って、背中で聞いたその声が
ずっと耳に残った。

家までの道のり
大きく腕を振って大股で歩いた。


















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Last updated  2008.10.04 00:34:46
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