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カテゴリ:エッセイ
場所は京急新馬場駅そばの品川神社です。 鬼子母神の手創り市とは違ったシステムで ブースが前もって指定されていました。 わが文袋屋は神社の階段を上ってすぐ右の一角でした。 第一回目ということで成功を祈念して やわらかな笑顔の宮司さんからお払いを受けると こころすがすがしくなりましたが さすがに一月の冷え込みは堪えました。 とはいえ、広報が行き届いていたのか 市はにぎわい、人出も多く 文袋もたくさんの方が手にとってくださいました。 七福神まいりに来られた老婦人たちは 文袋の着物地をとても懐かしげに眺めておられました。 「モスリンは虫が食うのよね」 「そうそうやわらかくて肌触りがいいのよね」 「着物、着ないものね」 「こうすればいいのね」 そんな会話が聞こえてきました。 「これ、気に入った!」 と声をかけられたのは「冬景色」という文袋です。 品のよいすっきりした風貌のご婦人が 「こういうの好きなのよね。いいわあ」 と一番最初にお買い上げくださいました。 最初のひとつが売れるとほっとします。 手作り市などに参加するとまわりには 若い感性の技術の確かな作家さんたちがたくさんいて どのひともプロっぽくて 自分が作っているものは 幼稚園のバザーの延長線上にあるようなきがして これがひとつもうれなかったらどうしよう、と いつだって不安なのです。 不思議なものでひとつ売れると 見えない糸に引かれるようにほかのものを売れ始めます。 安堵の気持ちがこちらの表情や雰囲気を いいほうに変えてくれるのかもしれません。 そのあとふたりづれでみえた女性のおひとかたは 小文袋をあれこれ迷われていたのですが お友達にひとこと「これできまりね」と言われて 「そうね」と赤い帯で作ったものを買われました。 お話好きのかたもみえました。 自分が骨董市にいって見てきたことなどを 熱心に語られました。 そばちょこからリバティの古布の話 蚕農家だったご実家にあったもののことなど ほうほう、と聴いていると やはり古い布地で作った小文袋を二つ買ってくださいました。 そのひとの「また次もここで会えるんでしょ?」 という言葉がなんだかうれしかったのでした。 暖華のシリーズのひとつを買ってくださったのは 30代のカップルでした。 知的な眸をした女性が文袋を撫でながら 「手触りがすき」というと 優しそうな男性は「それにしたら?」と言うのでした。 お買い上げいただいた文袋が その後のふたりの会話の中に ふわっと出てくるのかな、なんてことを思ったりして。 「ほら、ここがだめなのよ。 ひとは見るのよ、こういうところを」 と文袋のミスを指摘してくださったのは 海老名からお見えになった初老のご婦人でした。 「京都の手作り市が好きでよく行っていたんだけど 東京でもやるっていうんで、うれしくなって 海老名からはるばるきたのよ」 と言われるだけあって、期待が大きかったらしく 品川の規模が小さいとご不満の様子でした。 それでも、小文袋をひとつお買い上げくださいました。 「なんかいいのよね」と言われた茶色のそれは 前日に仕上がったもので写真を撮ってなかったのでした。 3人連れでこられたかたは母娘とご親戚のおばさんのようでした。 おばさんのほうは「みつこちゃん」と呼ばれていました。 すてきな帽子を被ったみつこちゃんはこの日のお大尽さまで むすめさんには「かわいいから」と ピンクの小文袋をプレセントし ご自分は帯地で作ったセットを買われました。 持ち手が気に入られたようでした。 じゃあね、と去っていかれたのですが しばらくするとそのご一行はまたもどってこられました。 みつこちゃんは「やっぱりこっちもいいのよね」と これとこれを またお買い上げになったのでした。 みつこちゃん、ありがとうございました。 そのあいだには 目の覚めるような鮮やかな朱の絞りの羽織を着た 女優の池尻なんとかに似た奥様と セレブ風のご主人がみえて を即決で買われました。 足袋模様のほうは 舞伎座で買った日本手ぬぐいで作ったもので 中村福助さんのお好みで なかなか粋に出来たと自分でもお気に入りでしたが しゃれで作ったからくさの風呂敷で作った文袋が 売れるとは思わなかったので、いささかおどろきました。 この主人にも「来月も来るんでしょ?」ときかれました。 「さむいので・・・」と答えました。 新宿からお見えになったという白髪交じりにご婦人は 京浜急行の人身事故でえらく時間が掛かったと ぼやいておられました。 「でも、こういうの好きなのよね」とおっしゃって この小文袋を買ってくださいました。 最後にお見えになったかたは この文の文をお読みになってくださっているかたでした。 わたしの言葉を気に入ってくださっていることが もうもううれしくて、まいあがって握手してもらったりして・・・。 をお買い上げくださったうえ 藻乃露於具のご注文もいただきました。 ありがとうございました。 そのほか鬼子母神の手創り市で 売り手としてごいっしょしたかたおふたりが お客としておみえになって言葉をかけてくださって それはなんだか同窓会のようで こころがふわっとしてくるのでした。 近くのブースの方とも さむいですねえ、と慰めあいながら時をすごし また会いましょうね、と別れました。 今の年の10の位を四捨五入したら なんと100歳になってしまうのだけれど そんな年齢に関係なく こんなふうにすこしづつ広がっていくものがあることや 自分の手が作り上げたものを真ん中に置いて 言葉を交わし、笑顔を交わすことができるということ、 そしてなにより、たくさんお買い上げいただけたことを なんだか嘘みたい!と思っている自分がいて 甲斐があったと喜んでいる自分もいて・・・・ こんなふうにわたしも 「市」なひとになっていくのかもしれませんね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.01.13 02:31:47
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