近世ヨーロッパにおける宗教・政治・商業空間の構造転換
1680年代から近世ヨーロッパを観る――政治・宗教・商業空間の転換とネットワーク――近世ヨーロッパにおける様々なネットワークに注目する研究プロジェクトのシンポジウム。近世ヨーロッパには宗教・政治・商業などによって結びついた国民国家の枠組みを超えるネットワークが大きな機能を果たしていたというのが基本テーゼ。シンポジウムの目的は、特に1680年代に注目して近世ヨーロッパにおけるネットワークをめぐる論点を議論すること。ひとつの観点は、ウェストファリア体制を宗教的冷戦の時代と観るというもの。カトリックとプロテスタントの冷戦体制において、1680年代が重要なのは、ルイ14世によってナントの勅令が廃止されて迫害されたユグノーが大量に亡命したことをきっかけに、カトリックとプロテスタントの対立が激化したこと。そのような対立を背景にして、宗派ごとに商業ネットワークや慈善ネットワークが織り上げられ、活発な活動を行ったとのこと。このような観点からすると、イギリスの名誉革命は、ヨーロッパのプロテスタントによる合同プロジェクトということになる。実際にオレンジ公ウィリアムの軍隊はプロテスタント諸国の軍隊が参加した多国籍軍だったという点が強調されていた。ユグノーや各国の少数派プロテスタントについても、義捐金を送るなどプロテスタント・ネットワークによる救済が行われていたとのこと。これも含めて、シンポジウムでは、政治・宗教・商業に関わるネットワークの事例が取り上げられていた。パネリストと論題およびコメンテータを以下に列挙する。基調報告 西川杉子パネリストによる報告西川杉子 ウェストファリア体制におけるネットワークの重層化と宗教勝田俊輔 近世西ヨーロッパの政治的ネットワークとアイルランド大峰真理 アイルランド商人の定着と北ヨーロッパ交易ネットワークの転換 ――フランス・ナントの場合を中心に――杉浦未樹 小売から見たヨーロッパ商業ネットワークの再編成 ――オランダにおける店舗と行商ネットワークの再編成を中心に――コメンテータ小山哲踊共二安村直己会場とのやり取りでは、教派か宗派かをめぐって議論に。近代日本の法律用語では元々は、仏教=宗派、神道=教派、キリスト教=教団とのこと。勉強になった。それよりも僕はカトリック教徒やプロテスタント教徒という言い方に常々違和感があったので、大峰氏がカトリック信徒という語を用いていたことが僕にとっては収穫。個人的には単にカトリックやプロテスタントでいいと思っているが、教徒よりは信徒の方がよい。