記憶の記録

2009/06/29(月)12:17

住宅革命その12

住宅革命(48)

藤沢川はゆったりと蛇行しながら、のどかな田園風景を引き立てている。川べりにはタンポポが列を作り、ところどころカントウヨメナの白い花が見える。田村家の入り口にはナデシコが僕を迎えてくれていた。 笑顔で迎えてくれた田村京子の母親に東京バナナを手渡しながら、調査報告書を届けるのが遅れてしまったことを詫び、詳しい説明をする前に、確認したい事があり田村次郎氏の書斎をもう一度見せてほしいと伝えた僕に、彼女は「まあまあシードさんたら相変わらずね。解りました。それじゃその間にお茶を用意しますからね。終ったらリビングにいらしてください。」と、完璧な優しさで応え、キッチンのほうへ姿を消した。 6年前に主を亡くした居室は、数日前と変わりなく、静かに僕を招き入れた。 田村京子は僕の後ろからついてきて、部屋に入るなり「確認したいことって、どんなことですか?」と聞いた。 僕は、書架に納められた本の中から、この数日間、自分の頭から離れなかった「藻類図鑑」を手に取り、パラパラとページをめくりながら、確かめたかったことを確認した。そして、田村京子に図鑑を見せながら、「ハイ。実は、この本が綺麗過ぎるのです。」と、僕の頭の中に残る最後の疑問の説明を始めた。 結露のメカニズム 藻が生えるには、水分が必要だった。僕は始め、藻が生育するのに必要な水分は壁体の内部結露によるものではないかと考えた。 住宅の壁には、通常、断熱材が納められている。 断熱材は、室内の暖房熱や冷房された涼しさを保存するために不可欠なものであり、熱を伝え難い材料で出来ている。 熱を伝え難い材料ということは、断熱材を境に、その外側と内側では、劇的に温度差が在り、まさに熱的に空間を隔てる素材だということである。そして、その性能を決定するものは、断熱材の密度なのである。どんな断熱材もその内部に空気を内包している。空気は、非常に断熱力の高い物質であり、断熱材は、その空気をたっぷり含んでいることでその性能を確保している。しかし、断熱材の内部の空気が外気温の影響で対流を始めると断熱力が低下してしまう。そのため、断熱材は出来るだけ密度を高くして、内部対流の発生を防いでいる。綿状の断熱材は繊維を細くすることで密度を上げ、発泡プラスチック系断熱材は泡のサイズを小さくすることで密度を上げる。ほとんどの断熱材は静止した空気を作り出すことで高い性能を得ようとしているのである。 しかし、断熱材には宿命のように結露という天敵が存在する。 よくある結露として、暖かい室内で冷たい飲み物を飲むときグラスの表面に水滴が生じているのを見るが、ある程度冷たいものには結露が起きることを誰でも知っている。厳密に言えば20℃で相対湿度50%の空気中に10℃以下の部分があれば、必ず結露が発生するのだ。 だとすれば、住宅の壁に取り付けられる断熱材は、室内が20℃以上に暖房されていて適度に加湿されていたとき、屋外が0℃以下という状況は稀ではない。そのときの断熱材の中心付近は約10℃のはずだ。なぜなら、20℃以上の室内と0℃以下の屋外を熱的に隔てている中心なのだから。 この断熱材が水蒸気を吸放湿した場合、断熱材内部の10℃以下の部分では結露によって含水率が上昇し断熱力の低下を招く。これが内部結露のメカニズムだ。このことは、古くから知られていた物的常識であり、日本の主な断熱材メーカーは当然のように認識していた。だからこそ、断熱材は防湿材でくるまれていたのだ。防湿フィルムのように水蒸気を通し難い素材と組み合わせることで内部結露を防ぎ、断熱力を維持していた。 通常、断熱材は、内側に防湿フィルムを設け、外側は、水蒸気を透過する構造になっている。これは、冬の室内空気に含まれる水蒸気が屋外の乾燥した空気に向かって壁を通り抜け、壁の中で結露することを防ぐ目的があるのだ。 断熱材よりも室内側に防湿フィルムがあれば、断熱材内部の10℃以下の結露域まで水蒸気は到達できず、建物のカビや腐りを招かずに住む。

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