カテゴリ:住宅革命
防湿フィルムを通り抜けてしまう結露
田村家の、壁の中の断熱材の内側には防湿フィルムが備えられていた。 ということは透過水蒸気による内部結露で壁の内部の含水率が上昇し、その事が原因で藻が生えたということは考えられなかった・・・。 気になったのは書架だった。 本は、紙である。断熱力の高いセルロースファイバーそのものなのだ。 防湿フィルムは、断熱材に対して内側になければならない。しかし書架のように、断熱力のある(本)を収納する棚を防湿された外壁の内側に取り付けてしまうと、収納物によって防湿フィルムの内側を二重に断熱したことになってしまう。 本を置く前は、断熱材の中心付近にあった結露域が、本を置いたことで本の内部外側付近までずれ込んでしまう。 水蒸気が透過出来ないからこそ、断熱材の内側に防湿フィルを取り付ける意味があるのに、壁の中の温度域は、物の置き様で簡単に移動してしまうのだ。 <<水蒸気が透過出来ない防湿フィルムを結露は透過する!>> こんな不思議な現象が現場では存在する。 建築物の構造は一度作ってしまえばそう簡単には変更できないが環境は簡単に変化する。 このような書架に数年放置された書籍は、手開き側に結露を生じ、シミが出来たりする。図書館などでは、この現象が結露によるものだと知らずに、定期的に本を虫干ししたりしたものだ。問題は、書架を設置する場所にあったのだ。温度と湿度を管理している図書館でも外壁側の書籍は傷み、図書室の中心付近の書架に納められた書籍は傷まない。 僕は、田村次郎氏の書架と、赤い十字架の形が完全に一致していたことから、本の断熱力が結露を助長し外壁内の含水率が定常的に高く維持されたことで、(スミレモ)が生育したのだと結論付けた。 しかし・・・ 「綺麗過ぎる?のですか?」 田村京子は、本が綺麗で何か問題があるのだろうかと怪訝そうな顔で僕を見ている。 僕が撮影した赤い十字架と室内の画像を重ねると、その形はピタリと一致していた。 本による断熱力が藻の育成を手助けしていることは確かだ。ならば本そのものが結露して、シミなどが確認できるはず。 しかし、植物図鑑や藻類図鑑には、結露の痕など無かった。僕の頭はパニックに陥りそうになりながら、そのことを田村京子に説明した。 すると、 「なーんだ、そんなことで悩んでいのですか?」田村京子は最高の笑顔で人差し指をピストルのような形にして僕に向け、少し意地悪そうなしぐさをした。 「なっ、なーんだって、京子さん、その理由を知っているのですか?」 僕は、驚いた勢いで田村京子の肩に手をのばしそうになり、寸でのところで踏みとどまった。彼女が謎の答えを知っている。そして今、その謎は解き明かされるのだ。僕は、オアズケをくらった犬のように、素直にマテの体制をとった。 「その本は、今年の春、私が買ったものです。父のじゃありません。」 田村京子はそう言った。 「えっ?」(しまった!そうだったのか!) 僕は、あわてて書架に走り寄り、その他の本たちを開いてみた。しかして、ほとんどの本に赤茶色のシミがあることを確認することが出来た。 僕は、全ての本が田村次郎氏のものだと思い込んでしまっていた。そのせいで大事な結論にたどり着くのが遅れてしまったのだ。なんて初歩的なミスをしてしまったのだろう。しかも、赤い十字架に心を奪われ、図鑑以外の本のチェックを怠ってしまったのだ。何たる早とちりをしていたのだろう。まだまだ修行が足りない。 「京子さん。ありがとう!これで全てが繋がりました。」 僕はデイパックから調査報告書を取り出し、田村京子に渡しながら、 「真実とは、いつもそこに在るが、人が認識しなければ幻に等しいのだ」と自分に言い聞かせた。 (この報告書はついさっきまでは、信憑性のない不確かな文書だったけれど、現在は、正しい内容のものとなった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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