天職バンザイ!!

先週の日記にわが社の新・経営理念のことを書きました。

その中に傍役(わきやく)という言葉が出てきます。
なぜこれを「脇役」と書かなかったかということには訳があります。

わが社の求職相談担当のＭ子と初めて会ったとき
当時専業主婦だった彼女に（経歴は履歴書を見て知ってましたが）、
私は「この人なら信頼できる」という印象を持ちました。


「Ｍ子さん、わが社はまだできたばかりで、経営理念も経営指針もありません。
そして私も自社のことなのにどう説明すればいいか、…うまく話せません。
ここにひとつの文章があります。これを読んでください。
私は常にこんな気持で仕事をしているつもりです。
それをご理解いただいた上で、是非ウチに入社してください」

といってカバンの中から１冊の本をとりだし、
その中のあるページを開いてＭ子に手渡しました。

そこには遠藤周作の『私は傍役』というエッセイが載っていました。



　　　　　　　　　『私は傍役』　　　　　　　　遠藤周作

　芝居には傍役(わきやく)というものがある。
傍役は言うまでもなく、主役のそばにいて主役のためにいる役である。
その勤めは主役と共に芝居の運行をつくっていくのだが、また主役を補佐したり、
主役をひきたてるためにもある。

「あたりまえだ。わかりきったことをいうな」とお叱りにならないでいただきたい。
　しかし、なぜ私がこんなわかりきったことを書いたかというと、
我々は我々自身の人生ではいつも主役のつもりでいるからだ。
　
たしかにどんな人だってその人の人生という舞台では主役である。
そして自分の人生に登場する他人はみなそれぞれの場所で自分の人生の傍役のつもりでいる。

だが胸に手を当てて一寸、考えてみると
自分の人生では主役の我々も他人の人生では傍役になっている。
　たとえばあなたの細君の人生で、あなたは彼女の重要な傍役である。
あなたの友人の人生にとって、あなたは決して主人公（ヒーロー）ではない。
傍らをつとめる存在なのだ。

「あたり前じゃないか。またくだらんことを言うのか」とまたお叱りを受けるかもしれない。
　だが人間、悲しいもので、このあたり前のことをつい忘れ勝ちなものだ。
たとえば我々は自分の女房の人生のなかでは、傍役である身分を忘れて、
まるで主役づらをして振舞っていはしないか。
　
５、６年前、あまりに遅きに失したのであるが、女房をみているうちに不意にこの事に気がつき、
「俺…おまえの人生にとって傍役だったんだなァ」と思わず素頓狂な声をあげた。
　「何が、ですか」女房は何もわからず、怪訝(けげん)な顔をした。
　「いや、何でもない」気づいたことを言っては損をすると思ったからそれ以上は黙った。
　
しかし私はまるでこれが世紀の大発見のような気がして
日記にそっと書きつけておいたほどである。
　
以後、女房にムッとしたり腹がたつ時があっても、
「この人のワキヤク、ワキヤク」と呪文のようにつぶやくことにしている。
すると何となくその時の身の処し方が決まるような気がする。
　
夜、眠れぬ時死んだ友人たちの顔を思い出し、俺はあの男の人生で傍役だったんだな、
と考え、いい傍役だったかどうかを考えたりする。
もちろん、女房の人生の傍役としても良かったか、どうかをぼんやり思索もしてみる。
　
こんなことに気がついたり、考えたりするのは私が人生の秋にさしかかったためであろう。
　最後に－この傍役の話は結婚式の披露宴に役立ちますよ。お使い下さい。



Ｍ子が読んでいる間、私は判決を待つ被告人のように祈るような気持で、じっと待っていました。

読み終わったＭ子がゆっくりと顔をあげました。


それから約１年半、紆余曲折ありましたが、今ではこの世で唯一無二の相方です。

年が近いせいもあり、たまに私に向かってタメ口でしゃべってしまい、
「あっ、間違えた！」って言ってちょっと敬語を交えて言い直します。



今日のこころがけ：『求職者こそが主役であり、我々はその傍役として、
彼らを舞台の上で光り輝かせなければならない』～わが社の経営理念より