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カテゴリ:健康・病気
■見えているのに見えない(その5) 怒った顔だけではなく、ヘビに対しても、すばやく検出・反応する視覚システムをヒトは生得的に有しているようです。 名古屋大学情報科学研究科の川合伸幸准教授は、「高い樹上にいるサルを補食対象とする動物は猛禽類とヘビしかいない。しかし、猛禽類は、大きな翼が邪魔で枝が密集する森の深部まで入ってこられない。そのため、脳を発達させる進化の過程で唯一脅威の対象であったのがヘビであったと考えられている。」と述べています(ヘビが怖いのは生まれつきか?:サルやヒトはヘビをすばやく見つける. 認知神経科学 Vol.13 103-109 2011)。そして、脅威の対象は、通常の視覚処理経路(網膜→外側膝状体→一次視覚野)ではなく、上丘を介した経路(網膜→上丘→視床枕→扁桃体)によって情報が扁桃体に伝えられるので、検出速度が速くなると考えられています。 富山大学大学院医学薬学研究部の小野武年特任教授は、サル扁桃体ニューロンの顔の向きや表情に対する応答性を解析し、「頭部が向かって左を向き、視線がサルに向いている顔写真に対して強い促進応答を示した」ことを報告しています(岩田誠,河村満・編集:ノンバーバルコミュニケーションと脳-自己と他者をつなぐもの. 医学書院発行, 東京, 2010, pp12-16)。 そして、おそらく歴史上最も有名な肖像画であるレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザの微笑み」では、モナ・リザの顔は約45度左斜め向きであり、視線は観る人を常に向いてアイコンタクトを生じており、扁桃体などを最大限に活性化する驚くべき配置であると小野武年特任教授は指摘しています。 慶應義塾大学医学部精神神経科学教室の三村將教授と駒木野病院精神科の秋山知子医師は、「健常者の機能画像研究では恐怖表情に対し扁桃体が賦活されることが報告されているが、恐怖をたたえた目だけや、意識にさえ上らない恐怖の目だけに対しても賦活されることがわかり、扁桃体は顔情報の中でも特に目に敏感に反応することがわかっている。」(岩田誠,河村満・編集:ノンバーバルコミュニケーションと脳-自己と他者をつなぐもの. 医学書院発行, 東京, 2010, pp61-74)と述べています。 (つづく)
笠間 睦 (かさま・あつし)プロフィール 1958年、三重県生まれ。藤田保健衛生大学医学部卒。振り出しは、脳神経外科医師。地元に戻って総合内科医を目指すも、脳ドックと関わっているうちに、認知症診療にどっぷりとはまり込んだ。名泉の誉れ高い榊原温泉の一角にある榊原白鳳病院(三重県津市)に勤務、診療情報部長を務める。認知症検診、病院初の外来カルテ開示、医療費の明細書解説パンフレット作成--こうした「全国初の業績」を3つ持つという。 趣味はテニス。お酒も大好き。お笑い芸人の「突っ込み役」に挑戦したいといい、医療をテーマにしたお笑いで医療情報の公開を進められれば・・・と夢を膨らませる。もちろん、日々の診療でも、分かりやすく医療情報を提供していくことに取り組んでいる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.01.31 04:40:28
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