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2021.06.28
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カテゴリ:映画専科
1.チャップリンの独裁者('40)3.ガタカ('97)5.ブレード・ランナー/ファイナル・カット('87,'02)6.ブルース・ブラザース('80)9.Vフォー・ヴェンデッタ('05)10.ボンベイ('95)11.アマデウス('84)12.アバター('09)15.トイ・ストーリー3('10)16.ニューシネマ・パラダイス完全版('89)20.ミュンヘン('05)21.クロッシング('08)27.ジーザス・クライスト・スーパー・スター('73)29.2001年宇宙の旅('68)30.ゴッドファーザー('72)






グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版』('88)169分 仏


青い大海原を舞台にした映画は数多くあるが、素潜りの深さを競う“フリー・ダイビング”の世界を描き、狂おしいまでの海への愛が全編に満ちている『グラン・ブルー』は、いつまでも瞼の裏に碧(あお)い世界が焼き付く、心に残る作品だ。実在する世界的ダイビング選手ジャック・マイヨール(1927-2001)の自伝を元に制作されている。

物語は1965年、ギリシャのキクラーデス諸島から始まる。8歳のジャックは2歳年上のエンゾと素潜りを競う仲。ジャックの父は潜水夫であり、母は事故に脅える不安な日々に耐えられず家を出て行った。父は潜水中のアクシデントでジャックの目の前で命を失う。最期の言葉は「心配するな。海では人魚が助けてくれる」。
それから22年が経ち、フリー・ダイビングの世界チャンピオンとなったエンゾ(ジャン・レノ)は、懸命にジャック(ジャン=マルク・バール)の行方を探していた。エンゾはジャックに勝たなければ真の世界一ではない思っていたのだ。
その頃、ジャックは潜水中の人体の生理現象を研究するローレンス博士に協力し、ペルーの湖でダイビングを繰り返していた。ジャックは水中に潜ると鼓動が遅くなり、血液が脳に集中し手足まで回らなくなる体質だった。これは鯨やイルカにしか見られない現象で、それが長時間の潜水を可能にしていた。ニューヨークから博士の研究所を訪れた保険調査員のジョアンナ(ロザンナ・アークエット)は、物静かで優しい瞳のジャックを神秘的に感じ一目惚れをする。

南仏コートダジュールの自宅に戻ったジャックは水族館を訪れ、仲の良いイルカたちに一匹ずつ旅のお土産をプレゼントした。天涯孤独のジャックはイルカだけを友として生きていた。ジャックの居場所を突き止めたエンゾは20年ぶりにジャックと会い、10日後にイタリア・シチリア島のタオルミナで開催されるフリー・ダイビング競技会に参加するよう促す。ジョアンナはジャックがタオルミナの大会に参加することを知って現地へ飛んだ。
ジャック、エンゾ、ジョアンナはタオルミナで競技会主催のパーティーに参加し親交を深める。不器用なジャックは生まれたての赤ん坊のように純粋であり、エンゾはジョアンナに忠告する。「気をつけな。好きになる前に現実を見ろ。ジャックは人間じゃない。異星人だ」。
“世の中のことを教えて欲しい”というジャックに、エンゾは家族の話をした。「うちの家族は一日中怒鳴り合ってる。妹は隅で泣いてばかり。でも最後はみんなで抱き合うんだ。なぜか分かるか?愛があるからだ。だから許し合う。独りぼっちじゃない。それが愛ってもんだ。家族の絆は強い」。その後、どちらが長く潜れるか勝負することになり、プールの底にシャンパンを持ち込み我慢比べをするが、意地を張りすぎて2人とも担架で運ばれた。呆れ返るジョアンナに「見せたいものがある」とジャック。それは財布に挟んでいたイルカの写真だった。「僕の家族だ。こんな家族がいる奴は僕だけだ」。嗚咽するジャックをジョアンナは「大丈夫、私がいるわ」と抱きしめる。

翌日、タオルミナの水族館でイルカショーが中止になったことを知ったジャックは、新入りのメスのイルカが緊張の原因になっていることを見抜く。その夜、ジャックたち3人は水族館から新入りを“救出”し海へ離してやった。
競技会が始まるとエンゾは深度107mの新記録を叩き出した(普通は酸素ボンベを付けた者でも100メートル以上潜らない)。大得意のエンゾ。だが、ジャックはそれをさらに1メートル上回る108mを記録し、新たな世界チャンピオンとなった。ジャックは元気のないエンゾを見て勝利を素直に喜べない。
その夜、ジャックとジョアンナは初めて結ばれたが、ベッドに彼女を一人置いたまま朝までイルカと遊んでしまう。ジョアンナは“ついていけない”とアメリカに帰国。ジャックはどうしていいか分からない。
ジャックと離れて喪失感に包まれたジョアンナは、たまらずNYから電話をかける。“お話をして”とせがまれたジャックは人魚のことを話した。「人魚と暮らす秘訣を知ってるかい。海深く潜るんだ。深すぎて青さは消え、青空も見えない。一度沈黙の世界に入って留まる。人魚のため永遠に命を懸けようと決心すると、その愛を確かめるため彼女たちは近づく。その愛が誠実で、純粋なら人魚は喜び、僕と永遠に一緒だ」。

フリー・ダイビングの次の大会はジャックが住むコートダジュールで開催。エンゾが115m(4分50秒)に到達して大幅に記録を塗り替えた。「誰も破れないぜ」と自信満々のエンゾ。だが、ジャックが120mまで潜り、またしてもエンゾは敗北した。笑顔が消え沈黙するエンゾを見て、ジャックは胸を痛めた。水族館では落ち込むジャックをイルカたちが水面に顔を出して励ましてくれた。「ありがとう…ありがとう」と涙を拭いてイルカたちに感謝するジャック。

その次の競技会は、ジャックとエンゾが少年時代を過ごしたギリシャが舞台となった。父の生命を奪った故郷の海。「潜るってどんな気分?」とジョアンナ。「水の中を滑り落ちる感じだ。海底はつらい。上がってくる理由が見つからないからだ」。ジャックに悪気がないのは分かっていても、ジョアンナはこの言葉に傷つく。愛し合っているはずのジャックが遠い。彼女が“大事な話がある”と言っても聞く体勢になってくれないので、「ここなら話せる?」と海に入った。続けて嬉しそうに飛び込んできたジャックに、彼女は想いを切り出す。
「私の世界の話。あなたのことよ。愛してるわ。一緒に暮らしたい。子どもが欲しいの。二人の家も。車を持って犬も飼いたい。どう?」。だが、ジャックはイルカの真似をするなど遊び始め真面目に聞いてくれず、彼女が「妊娠したみたい」と言っているのに海中に潜ってしまった。「ジャーック!」。叫び声が海面に反射する。

【以降、この作品はラストを語ってこそのレビューなので完全ネタバレでいきます!】

ギリシャ大会の直前にローレンス博士が競技の中止を訴えた。「前大会のジャックのデータを解析した。彼の達した深さが生理的な限界だ。水圧があまりに高すぎて、血液中の酸素が体の隅々まで回らない。ジャックの記録を破るのは自殺行為だ」。だが、エンゾは中止命令を無視して勝手に潜ってしまう。瀕死の状態で引き上げられたエンゾは、ジャックの腕の中で呟く。「お前は正しい。海の底はいい。陸より快適だよ。俺を海の底に…ジャック…連れてってくれ。頼むよ、ジャック…」。エンゾは息絶え、ジャックは泣きながら海底へ沈めた。
一方、ジョアンナは正式に妊娠していることが検査で分かった。幸せな気持ちで宿に戻ると、ジャックが目を見開いたまま、鼻と耳から血を流している。彼はイルカたちが室内を泳ぐ幻覚を見ていた。ジャックの肉体も大きなダメージを受けていた。
意識が戻ったジャックは、自分がもう“陸”では生きられないことを悟り、彼女の制止を振り切って夜の海へ向かう。エンゾが絶命した水域に着いたジャックとジョアンナ。ジャックは水圧で人間が絶命する深度へ“旅立つ”つもりだ。

〔ここからの3分間、ジョアンナ役のロザンナ・アークエットの演技が神がかっている!〕
ジャックはフリーダイビング用の筏(いかだ)に腰掛け足ヒレを履く。その姿を、ジョアンナは2mほど背後から腕を組んで見つめる。
履き終わったジャックは足が半分海に浸かっている。後は一気に潜るだけだ。ジョアンナは頭を左右に振りながら彼の言葉を待つ。
ジャックは少しだけ背後に顔を向け、「見てくる」と一言。
ジョアンナは両手を広げ、「何を?」。そして堰を切ったように叫ぶ「何も見えないわ!暗くて冷たいだけよ!誰もいない。でもここには生きてる私がいるのよ!」。
その場にしゃがみ込み、号泣しながら手で頭を抱え、顔を覆うジョアンナ。
ジャックは背中を向けたまま振り向かない。
突っ伏して泣いていたジョアンナは体を起こして語りかける。「ジャック…愛してるわ」。
ジャックから返事がないため、ジョアンナは意を決して告げる。「ジャック、妊娠したの」。
ずっと海を見ていたジャックが、その言葉に少し振り向いた。だが、何も言わない。
不安げな表情で「聞こえたでしょ?」とジョアンナ。ジャックは小さくうなずく。
妊娠のことは言った。ジャックに言葉は届いた。でも何も言葉が返ってこない。
“妊娠という言葉でも無理なのか”と、ジョアンナは目をつむり、再び両手で頭を抱え、突っ伏し、口に手を当てジャックを見つめる。
ジャックは背を向けたまま、うなだれていた。
30秒ほど沈黙が続き、ジャックが体を反転させる。そして右手をジョアンナに差し伸ばした!
身を投げ出すように駆け寄り、両手でその手を掴むジョアンナ。
“思い留まってくれたの?”。うつむいてジャックの手を握っていたジョアンナが顔を上げると、ジャックはロープをたぐり寄せていた。そのロープは海底への降下装置のスイッチ。人間の体には浮力があるが、ロープを引くと“おもり”が海底へ落ちるので、掴まっていれば100m以上沈んで行ける仕組みになっている。
嗚咽するジョアンナに、ジャックもまた泣きそうな表情で“君に引いて欲しい”とロープを手渡した。
右手にロープを掴んだジョアンナ。ジャックは背を向け、降下装置を握って待っている。
ジョアンナはしばらくジャックを見ていた。
…やがて両眼を閉じ、うつむいて少し泣き、そして彼に別れの言葉を告げた。
「行きなさい。私の愛を見てきて(Go…Go and see, my love!)」。
そして渾身の力を込めて、両手でロープを引っ張った。ジャックが海底へ落ちていくのを身を乗り出して見届けるジョアンナ。

みるみる水面が遠のき、真っ逆さまに深海へ降下していくジャック。深く、深く、より深く…。
ジャックが底まで下降すると一匹のイルカが現れ、“こっちへ来い”という仕草をした。ジャックは一瞬、降下装置を握っている自分の手を見る。降下装置は陸地と自分を結ぶ最後の接点であり、手を離すということは海の一部になるということ。イルカと自分の手を交互に見て…そして…ジャックは静かに手を離しイルカの方へ泳いでいった。ジャックの姿はグラン・ブルー(大いなる碧)へ消えていった。

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ジョアンナがロープを渡されてから、両手で引くまで30秒。引けば愛する人は死ぬ。でも、引かなければ相手を全く理解していないことになる。究極の選択。映画を観ていてあの30秒ほど緊張したことはない。ロープはジャックが自分で引くことも出来た。でも、あえて彼女に引かせたのは、“一番大切な人に引いてもらいたい”という、ジャックなりの愛の告白だ。僕はジョアンナがどうするのか息を止めて画面に見入った。彼女の出した答えは「私の愛を見てきて」。つまり、ロープを引けるほどジャックのことを愛している=海底には私の愛がある、ということ。これ以外考えられない最高の愛のセリフ。なんという極限状態のラブストーリー。衝撃が強すぎて劇場を出る時は放心状態になっていた。
ジャックの選んだ道は、客観的に見れば自殺ということになる。でも、この映画は約3時間という長い時間をかけて、ジャックやエンゾにとっては海の底にこそ真実の生があり、陸の生活は偽りの生であることを描いていたので、結末に悲壮感は皆無。ジャックの選択を納得させる海の美しさも充分に描いていた。逆説的になるけど「生きる為に死ぬ」という印象。よくこんなことを映画で表現できたものと感嘆せざるをえない。物語はゆっくりと展開していくけど、そのすべてがラスト5分に凝縮していく様は圧巻としか言いようがない。
この映画が公開されたのは日本がバブルで浮かれていた頃。映画もドラマも恋愛至上主義に席巻されていて、どの作品も恋愛より大切なものはこの世にはないと言わんばかりだった。だからこそ僕は本作に仰天&歓喜した。異なる価値観に出会えた興奮。愛が2番目の価値になったのは、古今東西、この作品と『テルマ&ルイーズ』くらいだろう。海の美しい映像だけでなく、透明感のあるエリック・セラの音楽もこの作品を伝説の1本にしている。公開時、リュック・ベッソン監督はまだ29歳。『レオン』以降、あまり話題になる作品を撮っていないので是非復活を願いたいところ。


※ジャックが深淵に消えていく予兆はあった。人魚のことを電話で話していたとき、「その愛が誠実で、純粋なら人魚は喜び、僕と永遠に一緒だ」というセリフのところで、背後にイルカの声が数回入っている。
※ジョアンナにも救いが用意されている。エンゾの恋人であるスペインの女優は、「(子どもは欲しいけど)一人じゃ育てられない」と言うジョアンナに、「なぜ?私は子持ちよ。一人でも何とかやれるわ」とエールを送り、さらに「子どものいる人生は、美しいわ」と素晴らしい助言をしていた。
※とはいえ、妊娠している彼女を残して海へ消えるというのは可哀相すぎる。ジョアンナはきっと夜が明けるまであの場所でジャックが上がってくるのを待っているだろう。そもそもジャックは本当に“愛を見に行った”のかという疑念もある。エンディングに「娘ジュリエットに捧ぐ」と入っていたが、あれは「こんな男に惚れると地獄を見るよ」という警鐘なのだろうか。僕が女性なら、本作はホラー映画に入るかも知れない。
※ジョアンナが雑誌の中の子どもの写真を見ながら「その子大好き。かわいいわ」と言ってるのに、ジャックがその雑誌を無関心にポイとやった時点で、「コイツはやめとけ!」とスクリーンに叫びたくなった。さらに、ジョアンナが海に入って「私の世界の話」という言葉を口にした時、互いが別の世界にいることを認識していると分かり、「お互いのために早く別れた方が良い」とアドバイスしたい衝動にかられた。そこまで別世界に身を置いてるなら、一緒にいても傷つくだけなのに(当社比)。
※ジョアンナに一言。妊娠してるかも知れないって検査をお願いしている時に、煙草を吸って酒を飲んでたらダメだろう…。
※初公開時、フランスでは社会現象になるほどメガヒットし、国内の観客動員数は1000万人、パリでは187週連続上映という記録を打ちたてた。一方、日本では超不入りで、たった1週で上映終了となった。その後、クチコミで魅力が広まりカルト・ムービー化した。
※アメリカ公開版はラストが激変。まさかのジャック浮上!アメリカではハッピーエンドじゃないとウケないと言われており、こんな展開に(汗)。
※ネットで映画評を見ると「何が言いたいのか意味不明」「退屈きわまる」「ただの環境映画」とか散見して絶句。“意味不明”って(汗)。一方、「ジャックを送り出すジョアンナは、あの一瞬で聖母になった。彼を解放したことに同じ女として脱帽した」という意見に、男だけど感銘を受けた。
※『グラン・ブルー』には日本人選手が滑稽に描かれるシーンがあり、人種差別と批判の声もある。でも、僕はあの程度で自分が差別されているとは思わない。日本人の群れたがり&生真面目さを描いたデフォルメであり、差別とデフォルメは違う。“愛すべき連中”という感じで描いていたし。
※モデルになったジャック・マイヨール(1927-2001)はフランスのフリー・ダイバー。戦前に上海で生まれている。フリーダイビング中は脈拍が毎分26回と極端に遅くなり、赤血球が著しく増加したという。1976年11月23日、44歳のときにイタリア・エルバ島で人類初の素潜り100メートルを成功させた。恋愛には本当にストイックだったようで、結婚したのは62歳。晩年に鬱病になり、イタリア・エルバ島にて74歳で自死。遺体のそばのテーブルの上に『グラン・ブルー』のビデオがあったという。遺骨はトスカーナ湾に散骨。エンゾのモデルはイタリア人選手のエンゾ・マイオルカ(1931~)。映画公開年に101mを記録。
※昨今は「完全版」「ディレクターズ・カット」ばやりだが、何でも詰め込んで時間を伸ばせば良いというものでもない。僕は『グラン・ブルー』より50分短い『グレート・ブルー』の方がスッキリまとまって好きだ。
※この映画を観ると、食事シーンが美味しそうで無性に「海の幸パスタ」が食べたくなる!それも山盛りの!他人に対して高圧的なエンゾが、レストランでママンの前でちっちゃくなっているのが微笑ましい。
※フリーダイビングの記録は、1966年はまだ60 mだった。それが10年後には100mの大台に達し、1983年にジャック・マイヨールが55歳で105mを出した。2007年、オーストリアのハーバート・ニッチが214mを記録!驚異!



グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版








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最終更新日  2021.06.28 05:00:07
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