なまず的日常見聞録

2024/03/18(月)09:03

家族という患い

映画(1275)

セントパトリック・デーということもあって、グリーンのTシャツ着て、シネマパレットにアイルランド映画「コット、はじまりの夏」を観に。英語題は“クワイエット・ガール”で、アカデミー賞外国語映画賞にもノミニーされたそうだ。何せ、ほぼ全編ゲール語セリフなのだ。 コットはcaitと綴る。お化粧しているみたいにきれいな女の子だが、末っ子のせいかどうか、家族の中で何となく疎まれている。そんなコンプレックスのためか、おねしょ癖もあったりする。娘ばかり4人いるみたいだけど、母は更に妊娠中。持て余されたコットは、母の姉夫婦に預けられることになる。 父はご馳走になった料理の皿にタバコの吸い殻を押し付けるような粗野な男。賭けで牛を失うような典型的ダメアイリッシュのようだ。預け先の叔母アイリンはコットを温かく迎えてくれる。夫のショーンは口下手だが、根は優しい男のようだ。コットもあまり多くを語らないが、全く喋らないわけでもない。叔母夫婦の家で家事や牧畜を手伝ううちに、少しずつ自分の居場所を見出していく。 ある時、近所で不幸があり、叔母夫婦がその手伝いの間に近所に預けられる。そこのおばちゃんに根掘り葉掘り聞かれるコット、叔母夫婦が息子を失くしていた事実を知る。田舎特有の濃密だけど、些か煩わしい人間関係。ポーグスのシェインも子供の頃にアイルランドの親戚に預けられたことが自らのアイリッシュ・ルーツを意識させることになったそうだけど、シェインの家のような賑やかさはここにはない。 口下手なショーンがコットの理解者となる。“沈黙は悪いことではない”とコットの個性を尊重する。いつしか、ショーンは実の父親以上の存在となる。そして来る別れの日、最後にコットは秘めた感情を爆発させる。しみじみと沁みるエンディングだ。 80年代の設定とのこと。中国も何だが、アイルランドも田舎は貧しく、子供の躾や教育もままならぬくらい余裕が無さそうな様子。家族がいたって幸福とは限らない。逆「東京物語」のような設定の映画にも思えた。

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