演劇、観劇のカフェ

2009/10/12(月)17:32

『西の国の人気者』(10/7-11)

演劇、観劇(304)

長野県松本市にある<まつもと市民芸術館>で11日まで上演されていた作品です。 1903年から1909年に活躍したアイルランドの作家・ジョン・M・シングのこの作品には、アイルランドのある島の人々の様子が、パブを舞台に描かれています。 当時の自給自足で暮らす人々の生活、日常の楽しみ、女性の存在価値、それらがセリフだけではなく、生々しいまでに現実味のある舞台美術によって観る者の心を捉えました。 そして若者にとっては、日々の暮らしに「変化」というものがどんなに魅力あるものなのかを痛感しました。 ここでは突然やってきた見知らぬ若者の「父親を殺してきた」という告白が、その土地の住人にとってはヒーローに値する特殊な人間に映るのです。 この非道徳的な人々の行動に、それほどまでに非日常の刺激は人々の感覚を麻痺させてしまうものなのかと驚きを持って観ていました。 殺したはずの父親がひょっこり現われることで、青年の存在価値が危ぶまれてしまうのですが、周囲の人々の心の変化がこの作品の深いところでしょうか。 観客の感情をも巻き込むような、心を揺さぶられる展開となりました。 彼らが去った後には、また平穏な日常がやってきます。 この舞台のエンディングのシーン、この情景が瞼に焼きついています。 変化の後、それぞれに残された傷跡を象徴するようなシーンでした。 まるで絵画のようなその一瞬を捉えたシーンは、作品とともにずっと芝居の記憶として観る者の心に残ることでしょう。 この作品は<まつもと市民芸術館レジデントカンパニー>による公演です。 以下、プログラムの情報ですが、2007年5月のトアイアウト公演から数えて6作目となるそうです。 レジデントとは、英語で「住んでいる、滞在している」の意味であることも書かれています。 この『西の国の人気者』は、若いレジデントカンパニーの俳優とともに、稽古期間から松本に滞在している東京で活躍するベテラン俳優も加わって、層の厚いメンバー構成となりました。 この目で、芸術監督の串田和美によるこのカンパニーの作品が、水準の高いものであることを確認しました。 見終わった後の満足感。 客席からは永遠に続くかと思う拍手が沸き起こり、カーテンコールが繰り返し行われたのです。 作・ジョン・M・シング、演出・潤色・美術・串田和美、 照明・磯野眞也、音響・那須野幸太郎 ※公演詳細は、まつもと市民芸術館のサイトで。 ※小規模演劇や音楽など、松本の舞台情報全般が掲載されている「文化芸術情報」に、舞台風景が掲載されいています。  同じく、串田館長のインタビューと練習風景もあります。 (まつもと市民芸術館 小ホールにて) ☆作・ジョン・M・シング、訳・松村みね子『シング戯曲全集』沖積社  「西の人気男」というタイトルで収録されています。   ※この作品に出演している金子あいさんのブログ【金子あい日記】を、よく行くページに追加しました。 以下に私が観た彼女の出演作品をご紹介します。 今後の活躍も、乞うご期待! ・演劇倶楽部「座」『おたふく』(2006年2月) ・『エウメニデス』(2007年9月) ・『教科書にのっていないアフリカ』ナレーション(2007年11月) ・『イリノイのリンカン』(2009年3月)

続きを読む

総合記事ランキング

もっと見る