2009/03/17(火)10:19
術後の記録(2009/3/2-2)
父方の親戚、実は私はよく知らない。父は6人兄弟の2番目で、兄と弟が1人、妹が3人いるらしい。この兄弟はとても仲が良くて、なにかと言えばそれぞれの家族をつれみんなで集まっているそうなのだが、私の父だけは自分の人生を生きるのに忙しく、そういった集いに妻や娘をつれていくことはもちろん、本人すら参加してこなかった。
その後私は21歳で札幌を出て東京へ。ますます親戚とは縁遠くなってしまったので、顔をみても誰が誰だかほとんどわからなかった。
そんな仲のよい兄弟、お兄さんは旭川から吹雪の中高速を2時間飛ばし、それ以外に札幌近郊に住む他の兄弟やその配偶者も含め6人ほどかけつけていた。これに母、私、妹、伯母がくわわり、先生が口を開くのを待った。
先生はこんなに大勢がかけつけてきたことに少々驚いたのか、最初の事情から丁寧に、とくに貫禄いっぱいの兄に視線を向けて話し始めた。
「弟さんはすい臓がんのステージ3だったのですが、術前の検査でどこにも転移がみられなかったため、先週の水曜日にガンを摘出する手術を行いました。
すい臓というのは、胃や大腸とは違い独立した臓器ではなく、まわりの臓器と絡み合っているため、単純にその部分だけを切り取ることはできず、他の臓器にも手術範囲は広がります。それにより術後の合併症は大きな懸念ではありましたが、手術をしなければ余命は数ヶ月だったため行いました。
手術自体は成功しました。見た目にわかるガンはすべて取りきることができました。弟さんはまだ若くて体力があるのでこのままスーっとよくなってくれるものと思っていましたが、大変不幸なことにめったにあることではないのですが、動脈が二股にわかれる分岐近くに瘤(こぶ)ができ、それが破裂したことにより大出血を起こしてしまったのです。
術前の写真ではこのような瘤はなかったので、手術による合併症の1つといえます。出血を止める処置として、開腹をせずなんとか血管テクニックで止血したかったのですが、分岐近くでまた場所もよくなかったため完全に止めることはできませんでした。
今回の手術では、前回の手術でつないでいた胃とすい臓をもういちど切り、その奥にある破裂した血管を縛り止血しました。つながっていた部分を切らずに血管までたどり着く方法もなくはありませんでしたが、場所が複雑なのでとにかく止血をするという一点に注力するため切除しました。
瘤ができたのは脾臓につながる大動脈で、先には脾臓があったのですが、止血をしたことにより血流がわるくなり、後に脾臓に充分な血液がいかなくなった場合、壊死してくることも考えられるため、脾臓は取りました。
大人の場合は、特に脾臓がなくなっても大きな問題はありませんから。
止血をしたあと、離されたすい臓をこんどは小腸につなげる必要があったのですが、今回はそれをせずにお腹を閉じました。いろんなことをやって後にいろんな影響が出ることを避けたかったためです。すい臓からは管をとおし、外に膵液を出すようにしています。
体力を回復したら、もう一度開腹し今度はすい臓と小腸をつなぐ手術が必要になります。これは体力さえ回復した状態ならそれほど大きな手術ではありませんから、安心してください。
今は血は止まっていますが、また出血する可能性もあります。また、大量の血がお腹に溜まっていたことにより、肺や心臓といった重要な臓器に不全を起こす可能性もあります。これからはそれをなるべく予防するように、3週間ICUで管理していきます。」
あまりの事実に言葉はなかった。
そして先生は親族からの質問に答えつづけた。