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1月19日(水)の日経新聞に、銀行との間の為替デリバティブ取引によって損失を生じて経営危機に陥った中小企業に対して損失分やデリバティブ取引の解約のための違約金を、為替デリバティブ取引を行った銀行が融資するとの報道がなされました。
すべての銀行ではなく、金融庁の行政指導を受けた3メガバンク(三菱東京UFJ、三井住友、みずほ)が行うとのことです。 新聞報道が必ずしも事実ではない場合もありますが、今日21日(金)の閣議後の記者会見において自見金融大臣が、「金融機関が自発的に対策を検討している」と説明しつつ、「当局としても問題意識を持ち、どのような対応が考えられるか金融界と幅広く意見交換している」と述べた、との報道(今日の日経新聞夕刊)がありますので事実のようです。 この一件には、銀行が経営危機の中小企業に融資を行うこと、そのような融資を行うことを金融庁が銀行に行政指導すること、経営危機に陥るような為替デリバティブ取引を銀行が販売したことなど、その是非について色々な考えが出てくる論点があります。 今回の「車田のつぶやき」では、この19日の日経新聞の記事を素材にしながら、「デリバティブは危ないもので、企業が取引してはいけないのでは」との声が出そうですので、そのような誤解を解き、リスクヘッジのためにデリバティブをどのように利用するのが良いかについて書きます。 為替デリバティブ取引の背景について、記事によりますと、2005年から2006年にかけて1$が100円台から120円台になって円安ドル高となった際に、ドルでの支払いを行う輸入企業が、ドルがさらに高くなるリスクをヘッジするために行ったとのことです。 例えば、5年間、一定量(輸入支払い想定額の○割などをもとにした金額)について1$=100円となるように、為替デリバティブ取引を行ったとのことです。 この場合には、デリバティブ取引によって、ドルが110円、120円というように100円より円安ドル高になれば差額を銀行からもらい、逆に90円、80円というように100円より円高ドル安になれば差額を銀行に払うことになります。 コモディティのデリバティブは、石油、金属、穀物の価格変動リスクをヘッジするために利用されます。ドルの変動リスクをヘッジするための為替デリバティブでも同じです。 まず、ヘッジする必要のある変動リスクが何かを企業がきちんと認識しなければなりません。ドル高になって輸入品の価格が上昇しても、これを販売価格に転嫁できる場合はドル高の変動リスクはないことになり、この場合、ヘッジのためのデリバティブ取引は不要です。このようにして考えますと、販売価格が年間契約などで固定されている先半年とか1年の範囲では、ドル高による輸入金額の上昇をヘッジするためにデリバティブ取引を行う意義がありますが、販売価格を引き上げることができる余地のある、または何年かの間にコスト削減努力で輸入価格の上昇ほどに販売価格を上げずにすむようにできる可能性のある、そして、何年も先までドル高がリスクであると考える必要はありません。 5年先までのデリバティブ取引を行う必要が本当にあったのでしょうか。 次には、価格変動のうちどれだけをヘッジするかです。「輸入支払い想定額の○割」と書きましたが、直近の販売価格が確定した分については10割ということもあるかもしれませんが、普通は7割、5割、3割といった割合で、先になればなるほどこの比率は下げてよいものです。 また、ヘッジの方法、すなわちどのようなデリバティブ取引を行うかも重要です。 1$=100円に固定するということは、1$=80円になったら1$について20円の支払いが自動的に生じます。100円に固定するとのヘッジでなく、1$=110円でドルを買う権利(「オプション」といいます)を買うといったデリバティブ取引によって、円高ドル安の場合の支払いを避けながら、円安ドル高が110円を超える場合には円安ドル高に伴う損失をそれ以上にしないとのやり方もあります。 このように、変動リスクのヘッジにどのようにデリバティブと利用するかをきちんと考えますと、1年程度の範囲でのヘッジでよいのでは、1年程度なら高い手数料を払って銀行と取引せずに取引所のデリバティブを利用してはといったことにも発想が広がります。 リスクヘッジのためにデリバティブを利用する場合、取引先銀行の担当者の勧めを安易に鵜呑みにしないで、企業の責任者がきちんと考えることが重要です。そうしますと、デリバティブは企業経営にとって真に役立つリスクヘッジの手段となります。 デリバティブは切れ味のよい包丁のようなものです。 よく理解して使うことによって、間違っても怪我をすることなく、おいしい料理を作る道具となるのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.01.21 19:50:11
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