コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

2006/12/19(火)22:39

コンドルの系譜 第六話(136) 牙城クスコ

第6話 牙城クスコ(144)

すうっと肩の力が抜けていくのを感じながら、アンドレスは思い切って言う。「コイユール…。すまなかった。俺は、ずっと、君に声ひとつかけずに…」コイユールは軽く首を振って、微笑んだ。「そんな…。声などかけなくても、アンドレスは、いつも見守ってくれていたわ…。そう感じてた。トゥパク・アマル様やビルカパサ様の治療の時に出会えた時も…いつだって…!」「コイユール…!」アンドレスは、胸を突かれたように言葉が出ない。 コイユールに話したいことが…言わねばならぬことが…山ほどあるはずなのに……!!一方、コイユールは静かに微笑みながら、アンドレスを見上げている。本当は、どれほど会いたかったか、話したかったか、近くに感じたかったか…――と、コイユールの心にも、アンドレスに伝えたい気持ちがとめどなく溢れるが、彼女もそれを言葉にすることができずにいた。 コイユールは、無意識に胸の前で片手を握り締める。そして、思い切ったように深く息を吸い込むと、素直な疑問を問いかけた。「アンドレス…でも、何か、あったのね?こうして、来てくれたのは、何か訳があるのでしょう?…そうなのでしょう?」 己の心を見通すようなコイユールの清く澄んだ瞳に貫かれ、アンドレスはいっそう口ごもった。(やっと会えたというのに、すぐに別れの話を切り出すのか…俺は……!しかも、隣国まで行く上に、いつ戻れるかさえ分からないなどと…――!!) そんな彼を力づけるように、コイユールが優しい笑顔をつくる。「言いにくいことなの…ね?でも、私、きっと大丈夫よ。ね、アンドレス、心配しないで、言ってみて」コイユールは気丈に微笑みを保とうとするが、口ごもるアンドレスの沈黙が長引くにつれ、徐々に不安気な影を宿しはじめる。 アンドレスは、不安定になりかけた足を踏みしめた。(今まで、まるで避けるようにしていた俺が、こんなふうに、突然、押しかけたこと…何か理由があってのことだって、コイユールは察しているんだ。その理由を、コイユールだって、本当は聞くのが怖いに違いないのに…。でも、コイユールは向き合おうとしている…!) アンドレスは、改めてコイユールを見た。コイユールは覚悟を決めた真摯な眼差しで頷くように、真っ直ぐ自分を見上げている。(コイユール…!!ああ…俺も、今までのように、避け、逃げるのは、もう終わりにするのだ!!)アンドレスは意を決したように、真正面からコイユールに向いた。そして、搾り出すように言う。「コイユール…俺は、ラ・プラタ副王領に…派遣されることになったんだ。明後日、遠征に出立する」「!!」 ◆◇◆◇◆Information◆◇◆◇◆『インカの野生蘭』: トゥパク・アマルやアンドレスが活躍したアンデスの森に、今も人知れず咲いている神秘の花たち…――アンデスやアマゾンを30年以上彷徨する写真家、高野潤氏の最新作。お薦めです!!著者/訳者名高野潤/著出版社名新潮社 (ISBN:4-10-301571-3)発行年月2006年08月サイズ207P 22cm価格 2,940円(税込) ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの流れ(概略)は、こちらをどうぞ。ホームページ(本館)へは、下記のバナーよりどうぞ。ランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効)     (随時)

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