2007/11/11(日)02:02
コンドルの系譜 第八話(213) 青年インカ
その青年兵――ロレンソは、よく通る、決然たる声音で、敵兵たちに厳然と言い放つ。「それ以上、住民たちを深追いすれば、容赦はせぬ!!それより先、一歩たりとも、前進はさせぬ!!」
周囲の山壁に、鋭くこだまして響き渡る彼の言葉と、完全に隙無く狙い定める武装したインカ兵、そして、自分たちを挟み込むように高台に備えられた10門の大砲に、さすがのスペイン兵たちも身を怯ませた。しかし、ますます水の引いていく街中へと、早くも大軍を率いて戻りきた敵将ピネーロは、ロレンソらの砲弾の届かぬ安全な位置にいて、味方の兵に、鋭い手つきで何かの合図を送った。
「ふん…インカ兵の砲撃など猿真似同然。すぐに、あれを持って来い――!!大砲の本当の撃ち方を教えてやる」ピネーロの言葉に、彼の傍に控えていた白人兵たちが、恭順を示して走り去った。
丘陵上のインカ兵たちが、銃と大砲を構えたまま、白人兵たちの動きに睨みを利かせている間にも、ピネーロの指示により、敵軍の中心部より何かの武器が運び出されてくる。ロレンソは、険しい形相のまま、その見慣れぬ新たな敵の武器に目をこらした。それは大砲の一種と思われたが、この時代に一般的な40口径前後の大砲に比して、明らかに小型に見える。
ロレンソの脇では、インカ兵たちが、やはり非常に訝(いぶか)しげな声で呟いている。「あんな遠くから、こんな高所に向けて放っても、弾が届くはずは……」だが、ロレンソは、さらに嫌な予感に憑かれて、目元をそびやかせた。(なんだ?あれは、大砲か?にしては、いやに小さい――…)
その不気味に黒光りする小柄な砲身が、見たことも無いほど仰角を上げながら、頭部を己らのいる丘陵部に向けてくる。ロレンソは、反射的に、周囲の兵たちに叫びに似た声を放っていた。「下がれ!!撃ってくる!!」
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪ロレンソ≫
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友(18歳)。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。≪ピネーロ≫
アンドレス軍が包囲網に封じたソラータのスペイン軍を指揮するスワレス大佐の副官。
スワレス大佐がアンドレス軍に捕虜として囚われてからは、実質上の指揮官を務めている。
かつてアンドレス暗殺計画の実行犯をも務めた、手段を選ばぬ冷徹で強硬な人物。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)