最近ドラマ2023年4~6月 재벌집 막내아들
子どもの頃家族で宿泊したソウル新羅ホテルの庭園に三星(삼성 Samsung)グループ創業者李秉喆 이병철の銅像があったことを覚えている。その創業者を髣髴とさせる陳会長(イ・ソンミン)と「末息子(孫)」の財閥家をめぐる熾烈なM&A、受注をめぐる競争やスニャン・グループ後継者争いに主人公の「タイムスリップ」的転生ファンタジーを装置に1980年代から2000年代の激動の韓国経済史をも振り返って歴史もの風でビルドゥングスロマンの趣もある韓国ドラマ。原作は산경による同名のウェブ小説「재벌집 막내아들(財閥家の末息子)」。イ・ソンミン、ソン・ジュンギほか主演。(以下、ドラマの核心に触れる部分もございます)チェ・グッキ監督『国家が破産する日 국가부도의 날』で描かれたアジア金融危機も挟んで熾烈なM&Aや新都市計画受注に後継者争いも絡んで財閥から見た韓国の経済発展史(あるいは浮沈史)の趣は当時を記憶している韓国民にとっては単なるレトロではなく心の痛みも伴うが...ドラマ「シグナル 시그널」のように「過去」は黄色味がかかった映像で撮られていた。約10年前、韓国ドラマは時代劇(史劇)のフレームでも現代社会の問題や政治批判を描く、と書いていたがSFやファンタジーも米ハリウッド映画等に顕著だが現在の批判をしのばせている。過去や未来、SFファンタジックな設定、フレームの中で批判精神を発揮し過去を再検証する歴史性あるタイムスリップものの趣も。「王子と乞食 The Prince and The Pauper」的な韓国映画『王になった男 광해, 왕이 된 남자』のように運命が入れ替わったかのように転生して2度目の人生を送る機会を得た主人公の当初の目的は復讐。誰が自分を殺したのか?そして誰が自分の家族を追いつめ死に至らしめたのか、という復讐心に満ちていた。しかし、その復讐は変転、変質していくよう。パーソナルな復讐はやがて新自由主義経済、財閥偏重資本主義に雁字搦めになっている社会のヒエラルキーと格差をひっくり返すような、社会変革的大義にも接続するスケール感、普遍性への広がりも。貧困や機会不均等の連鎖を食い止めるため非正規雇用をなくそうとし、IMFが進める方針には抗う方向性。人生やり直しならぬ、アジア金融危機前後の韓国経済再生仕切り直し的視点もあり、新自由主義経済への批判が込められている。さらに、「ハーバード白熱教室」などでマイケル・サンデル教授が最近テーマにしていた「メリトクラシー(能力主義)」の問題についても(当時はメリトクラシーという言葉は使われていなかったので別の表現で)触れられているのが2022年のドラマならでは。持てる者と持たざる者の間の断絶や衝突を人生が入れ替わった「王子と乞食」的転生ファンタジーな設定でくるみながら財閥という上からの視線と庶民という下からの視線をぶつけ交差させて歴史や現代社会を捉えなおしている批判性も。運命が入れ替わった『王になった男』「乞食と王子」のようなファンタジー設定もありながら問題はもっと複雑。現代社会で国家を動かせるほどの、王家王族のように君臨する巨大財閥の手足として新自由主義経済のひとつの歯車として末端で生き、生かされているジレンマも。但しその歯車にも共犯者としての自覚や懺悔が必要だった、と2度目の人生の果てに、ついには悟らされもする。それゆえ、捨てられた犬のようなサラリーマンが復讐を着々と進める一方で自身のアイデンティティ、財閥と一体化した共犯者側でもあると一種覚醒し悟らされるような大人のビルドゥングスロマンの趣も。韓国ドラマ「椿の花が咲く頃」のようなミステリー仕立ても孕んでジャンルを横断し、「転生もの」にとどまらない側面も。復讐に絡む「誰が私を(彼を)殺したのか」という問い、その問題の核心に迫ることは一方で自分の(アイデンティティの)深淵を覗き、自身の闇の部分に触れることにもなり、そういった意味でも大人のビルドゥングスロマン感も。社会構造の歪みが、使い捨てされる個人に理不尽に押し付けられたがゆえの共犯者であるとしても、懺悔に行きつくには罪を自覚する葛藤あるプロセスとしての二度目の人生が必要だったのかもしれない。16話にざっくりまとめられてしまったドラマ版は竜頭蛇尾、という批判もあったもよう。一方で、人間の力ではコントロール出来ない、抗うことが出来ない運命や死も描かれ、ファンタジーに現実的な痛みも残している。転生して財閥末息子になっても、IMFや財閥の方針に必死に抗うように奔走しても愛する家族の死を食い止めることが出来ない絶望感はファンタジックな物語を現実的地面に引きずりおろす。無力感や絶望感も残るカタルシスは新自由主義経済の歯車として流されて思考停止してしまっている市民ひとりひとりにもピリッと問いかけられボールが投げられた余韻を残す。家父長制的、君主制的財閥という王国の長子承継を阻むことは出来たものの。ノスタルジックな映像からは主人公ヒョヌのように、アジア金融危機で大学進学の機会も失うなど奈落の底に突き落とされた人生も想起され苦い思いにもなるかもしれない。やはり韓国の近現代史は21世紀初頭まではまだまだ浮沈激しい激動の時代で、苦労もした経験が喚起されてしまうことも多そう。ただ、その苦しかった時代には思いもよらなかったようなプレゼントが後からついてくる。やり直そうとしてやり直し出来なかったこと、阻止できなかったことその現実的な無力感や絶望感を和らげるように心にしみてくるのは...金九の言葉「ただひたすらに手に入れたいのは高い文化の力。文化の力は私たちを幸せにもするしさらに他者にも幸福を与えるから(拙訳意訳)」。本ドラマにも登場した金九の言葉は結局苦しみの果てに実現した。夢のような願いが現実になった。それは自分のためだけではなく他者にも幸福を与える。財閥末息子に転生した二度目の人生では財閥という王者に挑みつつ復讐が念頭にありながら他者にも幸福を与えようとしていて重なる。正義を通して他者にも幸福を与えようとしていたから。そこは何度でも想起しかみしめたくなる。2022年2月、SAG(全米映画俳優組合賞)テレビドラマ部門でイ・ジョンジェとチョン・ホヨンが主演男優賞・女優賞をそれぞれ受賞した際、文大統領のお祝いのメッセージにも金九の言葉が引用されていた。余談:最近韓国や日本のマンガに「転生もの」「転生したら〇〇でした」が多いようだが今読み途中の韓国のマンガにも転生して財閥になり非正規職員を全員正社員にするなど新自由主義経済とは相違する「構造改革」を進めるストーリーもあり、転生してラッキー!では終わらない。勇者ホン・ギルドンや義賊のように、あるいはノーブレス・オブリージュの精神で格差問題や不正腐敗などに真摯に取り組んでいる。韓国らしい発想という気もする。*第一話の配信は4月、最終話の配信日は6月1日だったので、最近ドラマ4~6月。『王になった男 광해, 왕이 된 남자』韓国で字幕なし、一回目to be continued...!?buzz KOREAClick...にほんブログ村 韓国映画にほんブログ村 映画にほんブログ村 映画評論・レビューにほんブログ村 韓国情報にほんブログ村 K-POPにほんブログ村Copyright 2003-2024 Dalnara, confuoco. All rights reserved.本ブログ、サイトの全部或いは一部を引用、言及する際は著作権法に基づき出典(ブログ名とURL)を明記してください。無断で本ブログ、サイトの全部あるいは一部、表現や情報、意見、解釈、考察ロジックや発想(アイデア)・視点(着眼点)、写真・画像等もコピー・利用・流用することは禁止します。剽窃厳禁。悪質なキュレーション Curation 型剽窃、つまみ食い剽窃もお断り。複製のみならず、切り刻んで翻案等も著作権侵害です。