confuoco Dalnara

ソウルの大学に行ったヨンジン（ノ・イキョン）が精神を病んで故郷の田舎へ戻ってきた。
独立運動で万歳を叫んで連行、拷問され
家族さえわからなくなってしまったのだ。

小作農で生計を立てるヨンジンの父は
タンスさえも借金のカタに取られそうになる苦しい生活を送る。
そんなヨンジン家の美しい妹ヨンヒ（ファン・シンジョン）に
悪徳地主の息子は目をつける。

一方、ヨンジンの親友でヨンヒの恋人ヒョング（イ・ピルモ）は
大学の休暇で田舎へ帰って来、
子どもたちにハングルをおしえはじめる...

イ・ドゥヨン監督『アリラン』（2003年）。



歌舞伎を「旧劇」「旧派」と呼ぶのに対して
「新派」と呼び分けた演劇新派は家庭の悲劇や庶民の哀歓を描く。
歌舞伎で言ったら世話物といったところか。
植民地時代1910年代に朝鮮半島に流入、
半島でも1940年代ころまで一定の発展を遂げた。

そんな新派の要素もあったらしいナ・ウンギュ／羅雲奎脚本・監督の『アリラン』（1926年）は
フィルムが消失したらしく
オリジナルを観る機会がないのだが...（日本か中国内にあるとよいのですが）

リメイクしたイ・ドゥヨン／李斗金庸版『アリラン（2003）』を観る限り、
単なる新派劇を超えた演出に瞠目。
在日文芸倶楽部｢アリラン友の会」による上映会。

（以下、映画の核心に触れる部分もございます）

ドストエフスキー「白痴」のムイシュキンのような
善良で無垢な主人公の人物造形。
殺人罪で連行（処刑）されて行く主人公の道行は
イエス・キリストが磔刑に処せられる
ゴルゴダの丘を登る姿にオーヴァーラップする一方、
その背後でアリランを合唱する民衆の姿は
ギリシャ悲劇のコロス（合唱）を想起させる。

ギリシャ悲劇という原始的なドラマ・演劇性と
キリストのような宗教的、神聖な犠牲を感じさせつつ
ムイシュキンのような、近現代における最大限の善を顕す。

弁士の語りや
無声映画風のコマ使い、ユーモラスな俳優の動き等は少々諧謔に過ぎると
冒頭思ったりもしたが、
ドストエフスキー的世界観にギリシャ悲劇、そしてゴルゴダの丘的
三つの崇高さが一体となり昇華したクライマックスの演出がもたらす
カタルシスは清清しく心に残る。

7月に韓国文化院で開催されていた「アリラン」展によると、
羅雲奎の『アリラン』によって
民謡「アリラン」が人口に膾炙するようになったそう。
独立、抗日への思いは
峠を越え行く民謡に諷示され託され
恨を静謐に伝えるクライマックスが余韻を残す。

独立運動で投獄され精神のバランスを崩した知識人青年ヨンジンと、
ヨンジンより幼い学生ながら日本での強制労働に投ぜられやがて命を落とす
酒屋のおかみさんの息子の描写。
植民地支配が一方で民衆を精神的に痛めつけ心へ傷を負わせ、
他方で物理的肉体的に痛めつけ生命さえも失わせる、
その両面性を映し出す。

小作人農家の生活、
農村の貧しい風景と
それでもやって来る収穫の季節の祭の躍動。
民の生活、田舎の現実に寄り添った、民衆劇の趣も。

ピアソラの民衆劇、
幻のオラトリオ「若き民衆」

オリジナル1926年のナ・ウンギュ『アリラン』は
トルストイの「復活」的な色合いもあったもよう。
「復活」は1914年島村抱月によって舞台化、松井須磨子主演で
日本で爆発的人気を博した背景もあり、まさに新派的な受容だった。
オリジナルと見比べたい、とつくづく。
また、ドストエフスキー的世界とトルストイ的世界両輪を目指すのは
なかなか困難だけれど、
もしかしたら『アリラン』は一部実現していたかもしれないから...
オリジナルや脚本と比較したい。

無声で作った『アーティスト』が
アカデミー賞を受賞する約10年前に...
オリジナル1926年の無声映画『アリラン』のリメイク、再現にあたって
サイレント映画風な俳優の動きや
弁士をつかったアイデアもなかなか斬新で先進的。

イ・ドゥヨン監督は
『避幕』（1980年）でベネチア国際映画祭非コンペ部門ISDAP賞を受賞、
韓国映画が世界的に注目される契機をつくった。
最近では2011年の釜山国際映画祭で上映されたオムニバス映画
『マスタークラスの散歩』を鑑賞。
イ・ドゥヨン監督作品は舞踊家の生を描いていた。

to be continued...!?

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