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クリームな日々

惜別。フィリパ・ピアス 

 『トムは真夜中の庭で』は英国の戦後児童文学を代表する長編だ。
日常を流れる時間と真夜中の不思議な庭を流れる時間が豊かに交錯する。
モデルになったのは晩年まで暮らしたケンブリッジ近郊の故郷の村。
父親が邸宅や庭を売り払うことになった時、想像力の中で取り戻そうとしてこの作品は書き上げられた。
 東京女子大専任講師の田中美保子さんは娘のようにかわいがられた。「どの作品からも英国南部の青草の香りが漂ってきます。英国の皇太子に『あなたと私の職は共通点がある。定年が無いことです。』と語るユーモアの持ち主でした。」
 「ハリー・ポッター」が話題になった時「あれは1種の救いなの。最近の児童書が人間の暗い面を見せる中で純粋に楽しみの物語だから」と評したそうだ。
 読者は英国より日本に多く、「翻訳がいいのでしょう」と感謝していた。「真夜中」を訳した作家の高杉一郎さんは今98歳。「ゲーテの言う『永遠に女性なるもの』を彼女に感じた。建築家のような構成力、月明かりや雷鳴まで皮膚感覚で感じさせる描写力にほれこんだんだ」
 ピアスは長女を産んで8週間後に夫を病気で失う。戦時中に日本軍の捕虜となり、心身に残った後遺症が原因だった。結婚生活は2年。
児童文学者の清水真砂子さんは語る。
「彼女の作品から生の喜びや光が届くのは、人間の膨大な悲しみや闇を底に抱えているからです。時間とは流れるものと思っていたのに、彼女の作品を読み、降り積もるものと知った」
 日常の陰にひそむ超自然の世界を描く短編の名手でもあった。鋭い人間凝視とリアリズムは、児童文学という枠ではとらえ切れない。
短編集「幽霊を見た10の話」に、戦場は地獄だよと語り、戦死する若者が登場する。私は亡き夫の面影をかいま見る思いがした。
 ニューカッスルにある児童書センターの展示室で倒れた。
葬儀は氷雨の中、無宗教で簡素に営まれた。      (白石明彦)
      06年12月21日死去(脳卒中)86歳
         1月5日葬儀

          07,2,27朝日新聞 


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