昨日は、宝生能楽堂に「第42回野村狂言座」を観に参りました。
昨日の演目は、狂言「樋の酒」、「鬼の継子」、「謀生種」、「靭猿 替之型」。
「樋の酒(ひのさけ)」。外出することになった主人(月崎晴夫)は、太郎冠者(石田幸雄)には米蔵、次郎冠者(高野和憲)には酒蔵を預け、しっかり留守をするように言いつけて出かけます。次郎冠者は我慢できずに酒を盗みのみ、それを知った太郎冠者も当然飲みたがります。そこで二つの蔵の窓に樋を渡し、そこに流して飲み始めます。しかし、そんなまどろこっしいやり方が面倒になった太郎冠者は、ついに職場放棄をして、酒蔵に来て2人で宴会を始めます。宴もたけなわ、そこに主人が帰ってきます。
狂言ではよくあるパターンの主人と家来のドタバタのお話ですが、この曲は、樋を使って酒を飲むところが見せ場。本舞台と橋掛かりを酒蔵と米蔵に見立て、欄干越しに樋を渡すという、道具立てのほとんど無い能舞台ならではの工夫に毎回感心します。そして、いかにも美味しそうに飲む太郎冠者。もしかしたら、樋で酒を飲んだほうが美味しいのでは?などど思ってしまいます。
昨日の石田さん。お顔がすごく黒かったような~?何焼けでしょう?。もう7年も拝見してますが、こんなに黒かったのは初めてのような(笑)。
「鬼の継子(おにのままこ)」。越中の国芦倉の里の藤吾三郎の妻(竹山悠樹)は、去年の秋、夫に先立たれ、今日は子供を連れて実家に帰ろうと道を急いでいましたが、にわかに日が暮れ、鬼(深田博冶)に襲われます。鬼は、女が藤吾三郎の妻だと聞くと、三郎は地獄に堕ちて責め苦を受けていると教えます。女が、三郎を救って欲しいと頼むと、自分の妻になるなら、と言います、女が子供を可愛がってくれるのなら考えてもよいというので、地獄に連れ帰ることにします。女が支度をしている間、鬼は生まれて初めて子守をします。
鬼が慣れない手つきで赤ん坊を抱いたり、あやしたり。野村家の狂言で使う赤ん坊のお人形は本当に可愛い。
深田さんも初めて鬼を演じられた時は、息が上がって苦しそうでしたけれど、だいぶ慣れていらしたようです。
「謀生種(ほうじょうのたね)」。いつも伯父(野村万之介)に嘘をつかれ、だまされてばかりいる甥(野村遼太)が、今度こそ伯父に言い勝ってやろうと、嘘を準備してやってきます。が、結局伯父にはかないません。そして、伯父から、嘘が上手になるための謀生の種というものがあり、庭に埋めてあると聞かされた甥は、庭を掘り始めます。しかし、これも嘘でした。
これは、初見の狂言でした。
この曲で出て来る嘘は、嘘というより法螺話。富士山に紙袋かぶせた者を見たとか、琵琶湖の水をお茶に点てて飲み干したとか。たわいもない法螺話ですが、その話しぶりが絶妙。
遼太君は声どおりもよく、見るたびにしっかりとした狂言師になっていくようです。NHKの「花の乱」で、春王(足利義尚)の子供時代を演じた頃のビデオを見るたびにその成長ぶりが頼もしく思われます。今は、高校生ですが、あの頃は、まだ4歳。
万之介さんの語りは、なんともいえない味わいがあります。万之介さんが出てくると、舞台がふわっと温かくなるよう気がします。遼太君もそんな温かさに包まれて演技をして伸びていくのでしょうね。
「靭猿 替之型(うつぼざる かえのかた)」。狩りに出かけた大名(野村萬斎)と太郎冠者(深田博冶)は、小猿(野村裕基)を連れた猿曳き(野村万作)と出会います。大名は、靭に張るために猿の皮がほしいと猿曳きに無心します。もちろん、猿曳きは断りますが、大名が猿もろとも射殺してやると弓を構えるので、猿曳きは泣く泣く、猿を殺そうと杖を振り上げます。が、小猿は、仕込まれたばかりの新しい芸の稽古だと思い、舟を漕ぐ真似をします。その姿を見て、猿曳きは、猿を殺せなくなってしまい、大名もそのけなげな様子に許すことにします。そして、そのお礼に小猿は、にぎやかに舞い始めます。
替之型は、なかなか見る機会が無い演出。大名の装束がいつもとは全く異なり、また、猿曳きの謡う猿唄がとても長いものでした。
4歳で初舞台だった裕基君も、もう小学2年。体がスリムなので、小猿の装束を着てもまだ違和感はありません。が、小猿もかなり演じ続け、舞台にも慣れてきました。最初の頃のハラハラした動きからすると、安心して見ていられます。でも、「靭猿」は、演技とはいえないようなあどけない動きや舞い、本当に猿のような無心さが見どころ。そろそろ裕基君のお猿さんは卒業でしょうね。
この会のチケットは、「万作の会」のほうの抽選によって決まるので、どのお席が来るのかは、届くまでわかりません。が、昨日は、正面席の最前列が届きました。センターより、少し右よりのお席でした。昨日の萬斎さんの役は、大名。「靭猿」の大名は、ず~っと、右寄りに立って演技します。まさに私のすぐそば。
まるで、誕生日のプレゼントのような良いお席で観る事ができました。