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映画ドラマ・千一夜

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November 10, 2006
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総合点:75 お勧め度:★★★☆
(ストーリー展開)=8 (独自性・発想)=7.3 (描き方)=8 (チャーム度)=8
●アメリカ映画 監督:ジョン・パターソン 製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ 脚本:デニス・ターナー 出演:マーキー・ポスト デニス・ボウトシカリス ヒロ・カナガワ
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●アメリカの中年夫婦がネパールのトレッキングに行き、そこで雪崩に遭うけれど、苦労の末に帰還するというお話。でも、シナリオ中どうも納得行かないところが多くて、見ていて辛かった。もう少しよく考えてくれないと・・・。
●お話の中では現実に、ネパールのルクラからアイランドピークに向けてトレッキングが始まります。トレッキングというのは「徒歩で行く小旅行」というような意味で、険しい山岳に囲まれたネパールでは、サーダーと呼ばれるお客が、道先案内人であるシェルパを雇い、シャルパが部隊の責任者としてお客一行を案内しながら、安全な旅を楽しむ、というイベントを言います。
 トレッキングは元は南アフリカ辺りから出た遣り方だそうですが、今、ネパールで有名なのは、ポカラというネパール第二の都市からジョモソム街道を抜けてアンナプルナの内院に向かうコース、ほぼ一緒のルートを通ってダウラギリの見えるゴラパニ峠に向かうコース、ルクラからエベレスト登山のためのベースキャンプを目指すコースなどで、安全で歩きやすいこともあり、人気が高い。他にもランタンリルンを目指す大変素朴なコースもあって、ここも花が素晴らしいということでよく知られています。
 ネパールは今も、中世と現代を足したような文化的経済的国情であって、首都であるカトマンズでも街中にはトイレがないとか、ポカラとカトマンズを結ぶような主幹道路でも舗装はされておらず、長距離バスが土埃を上げて走っているとか、ポカラの街から30分も歩くと、そこから先の道は4輪駆動車でないと走れないような岩と石の道であるとか、大きな川の傍まで山が迫っていて、そこから周囲の村に上がるには歩くしかないとか、そういう厳しい事情があって、この国では外国の人が旅をするには必ずトレッキング許可証を取らせて、事情の分かっているシェルパやガイドが道先案内人として同行するのです。
 私もカトマンズからポカラまで飛行機で行き、そこから片道二日の行程でアンナプルナへの通り道にあるランドルンという村あたりまで歩きましたが、道は人一人か二人がやっと歩けるような細い道だし、その道も次第に山裾に入ると、日本で言えば登山道みたいなものになってしまいますし、夜などは明かりが全く無い真っ暗な世界だし、でも、そうした素朴な行程の後で、丘の上に開けた村の休憩場所から、アンナプルナやマチャプチャレと言った白い雪を抱いたヒマラヤの山々が見えたのは、素晴らしい感動で、「本当にこの先には神様が棲んでいる」という感じを抱かせるような凄い景色が其処にはあって、ただそれを見られるだけでも心を圧倒されるものがありました。
 ちなみにカトマンズは市内でもトイレがなく、女性でも小路に入ってちょっとしてくる、とか、村に入ると、宿のはずれにウンさまの山積みところがあるとか、そういうところを女優の八千草薫さんが、僕らと同様にトレッキングして歩いたとか・・・。
 ともあれ、自分の力で歩き、田舎から山中へと分け入り、素朴な生活に触れるのがとても素敵な旅なのです。
●無論、ヒマラヤは世界では一番険しい山の連なりのある場所なので、エベレストからマナスルからローツェやカンチェンジュンガ、チョオユウー、シシャパンマなどなど、世界のアルピニスト達が羨望の眼差しで登山機会を願うのですが、そうした山への登山は「エキスペディション」と言って、特別な許可と準備が必要です。この映画で言われるアイランドピークのように6000m内外で比較的楽な装備で登れる山は20数個あって、「ライト・エキスペディション」と呼ばれて、トレッキング許可証で登ってもよいことになっています。
 アイランドピークはエベレスト登山のためのベースキャンプに近い(少し西の位置にはなるが)場所にあって、6194m。私がネパールで世話になったK・D・シェルパによれば、頂上直下の100mが非常に急で、アイスバイルで(無論+ザイル+アイゼン、ピッケルで)登らないといけない・・・、よって彼の言葉によれば、「凄く楽しい!」ということになります。
●今回、この映画でおかしい、と言ったのは、彼らのトレッキングは想定として、それなりに難しいアイランドピークに登ろうとしているのに、装備も全然まともじゃないし、(最低ピッケル・アイゼン、ザイルを担いでいないとおかしい)、シェルパとその友人のキッチンボーイの他に、未経験の少年の僅か3人という貧弱なチーム編成でトレッキングを始める点です。
 トレッキングの目的がアイランドピークに登るのではなく、雪のある地帯まで旅を続け、行けるところまで行って、山を仰いで帰るのなら分かるのですが、本当に変な想定になっています。
 トレッキングが始まって急に雪が降ってくることになっているのですが、どう考えてみても5000m以上でないとこういう景色はありえない、というような場所が映像では描き出されるし、如何にも雪崩に遭いそうな、したがって、本当のシェルパなら絶対にテントを張りそうも無い場所にテントを張るし、雪崩に遭ってからシェルパが語るに、「自分には観光ガイドの資格しかない」!!! そんなことは、実際にはありえないのです。
 加えて、雪崩が起こるときは普通は一定以上の量の雪が、凄い勢いで(時速100kもあるような速度で)来るわけで、それに飲み込まれた人間は、まず助からないのです。
 この映画では主人公らは容易に、凄く簡単に雪の下から人を探し出しますが、そういうこともありません。雪崩の雪は密度が凄くて、重量がトンのオーダーです。つまり、下の人間は車の下敷きになったようなもので、埋まると自力ではほぼ100%、抜け出られないし、呼吸さえも旨く出来ないのです・・・。昔、登山仲間から大変に愛された大西宏さんという優れた登山家がおりましたが、彼のように優れた腕前の人でも、雪崩からは生還できなかったくらいなのです。
●この映画では雪崩に遭ったとき、主人公らは大きな雪の斜面を下ろうとし、何度も同じところを回ったりするのですが、そんな想定も、シナリオとしてはあんまり安易で、見ていて弱ってしまいました。シェルパは正式に訓練を受けてその職業についているのだし、ネパールでは大変名誉な職でもあります。この映画で語られるような、仲間大事でサーダーをないがしろにするような、また、まともな靴を履かさずに若い人をメンバーとして連れて行くような、そういう無責任なことはしないのだし、この映画のこういう描き方は、彼らに対して本当に失礼というものです。
 途中で出てくるアイランドピークのシルエットも、最後の方で出てくるルクラの街の遠景図も、映画のための作ったシーンで、それを見ているお安い観客のための映像、という感じがして、どうも辛く感じました。
 実際のネパールの旅はもっと素晴らしく実感あるものだし、本当の意味の旅だし、いい経験になるものです。(豊かな国=日本にいては絶対に味わえないと思います) やっぱこういうところで、嘘はいけませんです・・・。
●という訳で、この映画の印象を、「これがトレッキングだよ」というような間違ったものとして記憶していただかないように願うばかりです・・・。



 





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Last updated  November 10, 2006 08:58:56 PM
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