ヴぉイス
西暦2943年ーそして、僕らは犯罪者になった。***「ねぇ、朱架(しゅか)。この街は君の目にどう映ってる?」 そびえ立つ高い塔の上、黒く長いコートを風に煽られながら座りこむ一人の人間がいた。俯くような姿勢で、今は闇夜に輝く街並みを遠くぼんやり眺めている。短く切りそろえられた漆黒の髪に黒い鞣し皮のブーツ。全身真っ黒なその出で立ちは今は闇夜に溶け込み、近くで目を凝らさなければ進入禁止のその場所に人がいるとは夢にも思わないだろう。「そんな事より、そろそろ降りてきて下さいよぉー。危ないですよぉー。」少し離れた場所、天窓を跳ね上げた所で一人の少女が非難混じりの悲鳴をあげていた。朱い長髪を風に弄ばれながらも、何とか態勢を崩すまいと必死に窓枠にしがみついている。「ーわかった。今、行くよ。」気だるげな声で返事をする。が、それとは裏腹に立ち上がり、踏みしめる足取りはしっかりとしたものだった。屋根から降りる寸前に一度だけ振り返る。「全く、いつもと変わらない…。」呟く様な声で見降ろす街は何処か無機質な輝きを闇夜に放ち続けていた。