中高年サラリーマンからの行政書士　独立・起業の舞台裏

　以前からお邪魔だけはして，そのお人柄やご活躍振り，それにブログの語り口などとても楽しく読まさせて頂いている，大阪会の「立石智美先生」のブログ（『行政書士開業「がんばっちゃうもんね～♪」ブログ。』）に先日著作権絡みの話が出ていましたので，それに関して少し補足というか，話をしてみたいと思います。

　立石先生のお話の主旨は，先生のブログを見て頂きたいのですが掻い摘んでお話すると，「星の王子さま」の著作権が切れて，その出版が字自由にできるようになる。「星の王子様」と言うタイトルはその翻訳者の内藤　濯氏が付けたもので（原題は「小さい王子」とのこと），氏の遺族は新訳本がこのタイトルを使う事を快く思っていない。だが一般にタイトルには著作権は認められない。

　というものです。

　先生も書かれている通り，著書のタイトルには著作権が認められていません。それは通常タイトルは書籍の内容を簡潔に表現したものであって，「思考や感情を創作的に表現した」とは認められないからです。

　例えば「限りなく透明に近いブルー」などと言うタイトルには「創造性」があるようにも見えます。著作権を認めても良いように感じます。でもこれを少し変えて「限りなく天国に近い国」とすれば，全く違う意味になりますし，「限りなく透明に近いレッド」であれば，盗作のようにも見えます。

　また，教科書のタイトルや専門書のタイトルなどは誰が付けても「現代国語」とか「民法逐条解説」とか同じタイトルになる訳ですので，これらに著作権を認めると，社会が混乱する事になります。

　一方には「創作性」があり，他方にはないという事を明確に区別できない以上，しかもそれもどのような言い換えまでが盗用で，どの様な言い換えが改変行為，侵害行為なのか判別が難しいのですから，タイトルに著作権を認めるのは妥当ではないと思います。

　次に，ご存知の方は判っておられるでしょうが，著作権と一言で言ってもそこには多くの権利が含まれており，大きく分けて，３つの権利が存在します。つまり，
　　著作権
　　著作隣接権
　　著作人格権
　の３つです。

　このうち著作権は，一般に言われる狭義の著作権で，これには複製権，翻訳権，翻案件，上映権，頒布権などが含まれます。
　著作隣接権は，著作権本権に付随した権利と考えられているもので，演奏権，録画権，録音権などがこれに相当します。　例えば誰かの作曲した曲を演奏したＣＤを作るとすると，このＣＤの演奏を録音して複製し大量に頒布する行為は著作者の権利を侵害すると同時に，演奏家の権利（著作隣接権）も侵害した事になるという訳です。特にクラシックのように著作権が既に切れているようなものについては，このような権利を認めないと，演奏家の演奏（表現）が保護されなくなるので，現代のＣＤ，放送などのメディアの権利を守るために出てきた概念です。

　最後の著作人格権は，著作者自身に関わる権利で他の２権は譲渡や質権設定が可能なのに対し，譲渡したりはできません（一身専属）。この権利には，公表権，氏名表示権，同一性保持権があります。

　この中の同一性保持権と言うのは，「自己の著作物の内容や題号を意に反して改変されない権利」となっていて，繰返し「表現」される時に，「オリジナルと同じ様に表現するように求める権利」です。少し難しいですが，音楽であれば「楽譜通りに演奏する」とか，著作であれば「原文を忠実に翻訳する」などと言うことになります。

　ここで問題になるのが，翻訳などの２次著作物です。一般に２次著作物にも（機械翻訳を除き）翻訳者の創造性が含まれていると解されています。ですから，上記の「星の王子様」の翻訳で言えば，原作のサン・テグジュぺリの本体の権利は消滅しますが，その翻訳本の著作権は内藤氏に帰属し，氏の死後５０年間存続します（本体の権利が存続していれば，両方の権利が共にかかる事になります）。

　察しの良い方は気が付かれたでしょうが，ここで問題になるのがサン・テグジュぺリの著作人格権です。この例では原作の「小さい王子様」と言うようなタイトルを内藤氏が（勝手に（失礼！））「星の王子様」と改名した訳です。これは「同一性保持権」違反になる可能性があります。

　つまり，『内藤氏の「創作」したタイトルを使用しないで欲しい』という遺族の望みは，タイトルに対する著作権と言う意味では実現しそうもありませんが，そのタイトルを使う事自体がサン・テグジュベリの著作権を侵害する事になる（つまり使えない）という事で，別の観点から実現するかもしれない，という訳です。

　ただし，サン・テグジュぺリの著作権が切れてしまったので，著作人格権からの使用禁止も主張できないので，いずれにしても残念ながらこれから出る本は自由に「星の王子様」と名乗る事ができそうです（我々としてもその方がわかり易くてありがたい）。

　わたしもこんな売れる本を書いて，印税生活をしたいなぁなどと，叶わぬ夢を見ている”真田”でした。


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