片手に吊革・片手に文庫

2005/05/06(金)17:56

祖父の本

祖父は、高校の校長をしていた。 わたしが1歳の頃に、癌でなくなった。わたしは、祖父の顔を知る最初で最後の孫なのだ。祖父の入院した病院の廊下を1歳のわたしがとことこ歩き回り、看病していた祖母が、そんなわたしの後をついて、病院の端から端まで歩いたと、ことあるごとに教えてくれた。そんな祖母も数年前に他界した。 祖父がなくなってからも、火鉢のおいてある祖父の書斎はそのままで、天井までの本棚に本があふれていた。入りきらない本が、廊下につくられた本棚本に納められていた。 昨日、我が家の本棚に、ものすごく年代物の本を発見した。 母が叔父の家からもらってきたそうだ。祖父の遺品として伯母に渡すのだそうだ。 夏目漱石全集第8巻 大正14年(1926年)発行 夏目漱石全集刊行會 のもの。 文学論と文学評論が納められていた。布張り製本、986ページの分厚い本。 古書としての価値はそうないらしい。 ただ、高校卒業して家を出たという伯母にとっては、祖父の遺品として何者にも変えがたい価値があるのだ。私は、ずっしりと重いその本を、そっと本棚に戻した。

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