小説「ジパング」第3章-6
窓の外に向かい角松は叫んだ。だがその声も嵐の音に掻き消され、中空に漂い言の葉としての力は失われた。その中で唯一人だけ落ち着き払い騒ぎを見ていた梅津が口を開いた。「ロストした僚艦を全力で探せ。まさか沈んだわけではなかろう」「はっ」 即座に指示を出そうと無線を手に取った角松は、窓の外を見て無線を手放し落としてしまった。度重なる異常事態に思考が停止しそうになるのをこらえるが、もはや言葉は選べていない。「何だ、こりゃぁ……」 角松を困惑させた光景は、右舷に居る小栗らの目にも当然ながら映っていた。「こ、航海長。これは―――」 小栗は答えられない。彼自身もまた同様な疑問に脳は支配され、思考は熱を帯び始めていた。 そんな馬鹿な。 あの日、小栗らがこの航海に出る運命が決まったあの日、小栗の頭上に降り注いでいたものが、今また天からゆっくりと降りてきているのだ。今「みらい」を包む光景を俯瞰で見られたのなら、なんと幻想的で荘厳とした美しいものだろう。だが有りえないのだ。なんど瞳に映してみても有り得はしない光景なのだ。小栗は「それ」に手を伸ばし感覚を指先に集め触れてみた。―――冷たい。なんてこった、本当に「これ」は―――。「―――雪だ」 小栗は呟いた。今までの嵐が嘘のように静まり、雪が厳かに、深々と降り始めていた。そんな筈は無い。まさか、ここは東経171度・北緯27度、ハワイ沖だぞ。まして今は六月なのだ。雪など降る筈が無い。では眼前のこの光景は何だ? ピ―――ッ「うわっ。な、なんだ―――」 電測員はレーダーに映ったものを見て、そのままの反応を示した。すかさず艦橋の角松が問いただす。「どうした、すぐに報告しろっ」「ぜ、全周にアンノン(不明艦)多数。概算40を超過っ。我々は、我々は大艦隊のド真ん中に居ますっ」