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優樹瞳夢の小説連載部屋

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2007年11月21日
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カテゴリ:小説
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Red Vapors #34 ドラゴン魂 in 小田原(Last)

  08

 直径1キロという狭い空域に蠢く、30匹前後のドラゴン。
 これだけの数になると、1匹ずつ捕まえるなどできない。そんなことしてる間に被害はどんどん広がる。

 地上ではすでに火事が起こっているし、通行人達はパニック寸前。
 墜落したドラゴンに家屋が破壊され、いきなり爆発したのだ。消防隊がまだ到着していないため、内部に人がいたかも不明である。

 こうなった以上、可哀想だがドラゴン達は落として殺すしかない。背に人が乗ってないのが運の尽きだ。
 もっとも、こちらが落とされなければ、の話だが……。

「ガアアアア!」
「ギイイイイ!」
 アキラの赤いドラゴンは、敵の黒いドラゴンと併進。吼えて威嚇し合う。
 互いの軌道が何度もクロスする複雑な軌道を描きながら、徐々にそれを海の方へ誘導した。
「行くぜ!」
『ドン!』
 アキラの声と重なる、敵の砲撃。

 相手にわざと背を見せて竜弾を撃たせ、跳ね上がるようなスナップアップ!
 急減速に翼が失速状態に陥るのも構わず、前から覆いかぶさるように付け入る。
“Gliding for snap up with battle flap and twisting over”
『……ドシン!』
「キイイイイ!」
 体当たりの激しい衝撃。
 互いにバランスを崩しながらも、
「リリース!」
 ルプーに命じ、アキラは敵を海へ突き飛ばした。
『パァァン!』
 それは時速300キロで水面に衝突し、水柱には、たった今まで生きていた物の肉片が混じる。

 ――残り何匹だ!?
 だがこれほど危険な猛攻を行っても、倒せる数は1回につき1匹ずつ。コウも頑張ってはくれてるが、それでもペースが極端に上がるわけではない。
 しかもこちらの狙いはあくまでジェイク。
 本当はのんびり雑魚にかまってる場合じゃないのである。奴とは先程から距離を保って睨み合っている状況で、互いに手が出せてない。

「こちらキヨラ! 地上の通行人まで狙われ始めてるんだけど!」
「数が多すぎる! 横浜の支援隊は間に合わんそうだ!」
「だーもう! こっちだって手一杯なんだよ!」
 苛立ちを含む通信に苛立ちを返し、場をますます混乱させる。
 場の雰囲気を悪くする悪循環の始まりだ。

 と――。
「ガニマタの様子がおかしい! 警戒しろ!」
 少し離れたところで空戦しているコウが、そんなことを言ってきた。
「はぁ!?」
 焦るあまり、怒声を返してしまう。
「だから! 足がカニみたいな奴を警戒しろっつってんだ!」
 言われ、周囲のドラゴンを観察し、
「……!?」
 ハッとした。

 敵のドラゴンの姿はほぼ一様で、ステルス爆撃機を思わせる三角形。だがたしかに足の形にバリエーションがあるようだ。鳥のように細いもの、太く頑丈なもの、ガニマタに広がったもの。
 そのうちのガニマタ型の一派が、コウの言うとおり、こちらと間合いを開けるような大きな軌道を描いているのである。
「…………」
 アキラはレーダーのモニターを見て、連中の数秒後の進路を予想した。
 その中心にいるのは……。

「……! ヤベぇ! ジェイクを消す気だ!」
 アキラは叫ぶ。
「やっぱそう見えるか!」
「コウ! 奴を空から引きずり下ろせ!」
「ラジャ!」
 2人はお互いに同じポイントへダッシュ。

 今ここでジェイクという重要参考人を失えば、何もかも分からずじまいになる。
 ドラゴン達のメーカーが不明ということは、兵器を独自開発する力のある犯罪組織が存在するということ。それだけで充分な脅威なのに、加えてその正体も不明となれば、事は大火を喫するのだ。

 見ていると……案の定。
 幾匹ものドラゴンが、ジェイクと併進し始めた。あきらかに何かのフォーメーションを組んでいる。
「鬱陶しい! 離れろ!」
 対して奴は遮二無二暴れているだけ。
「ジェイク!! 下に降りるんだ! おまえ消されるぞ!」
 アキラは拡声器で呼びかけた。

 ところが。
「おい! 返事しやがれ! おい!」
 奴はこちらを無視し、あらぬ虚空に向かって呼びかけ出したのである。
「……?」
 ――ドラゴンに話しかけてる……?
 一見、アキラにはそう見えた。
 だがそうじゃなかったようだ。
「返事しねぇと、ポリに全部ぶちまけんぞ!」
 この作戦の司令官に呼びかけてるのだ!

 途端、
『ドン! ドドドン!』
 いくつもの竜弾がジェイクを狙う!

「しゃらくせぇ!」
 次の瞬間。
 ジェイクは手頃なドラゴンを捕まえた。身体を捻り、暴れるそいつを振り回す!
「キイイイ!」
 敵の一匹を盾にしたのである。
 火を浴びてボロボロになったところで海へ投げ捨てる。

 アキラは驚愕した。
 あんなこと、どれだけパワーのあるドラゴンなら可能なのか。一般にドラゴンは見た目よりずっと軽いが、それでも500キロは超えるのが普通だ。
「見たろ! 俺は消せねぇ! おまえは俺のドラゴン自身も洗脳した気らしいがな!」
 なるほど。彼は自分が消されることを知っていたのだ。
「……出てこい! オタル!」
 そして、ジェイクはついに仲間の名を言った。

 すると。
「自分で通信機壊しといてよく言うぜ」
 返事があった。
 間違いない。昨日のステルスドラゴンのライダーの声だ。どこかでこの様子を見ていて、無線でしゃべってるのだろう。
「地上班、発信源探してください」
 無駄だろうと思いながらも、アキラは呼びかける。

「うっせぇ! おめぇがうだうだ言うからだ!」
「それだよ! その性格だ! おまえはもういらない。邪魔なんだよ!」
「てめ――」
「黙れ! 僕達はもう次のフェイズに移る。今までみたく、おまえの好き勝手を許せる状況じゃなくなる。おまえが好きに生きたいなら、もうそれでいい。止めないし、今日は成果も得たから帰る。けどな! 自分がいつも監視されてることを忘れるな。警察に情報を漏らせばすぐ分かる。そのときは本気で殺す。いいな!」
 ブツッと乱暴に回線を切る音がし、それっきり声は聞こえなくなった。

 そして、黒いドラゴン達は急に進路を変えて加速し始めた。
 腰からジェットのようなものを噴射している。周到にも逃走用のパワースラスターを積んでいたのだ。

「逆探、失敗しました」
「了解です」
 アキラは地上班に返事しながら、逃げていく群を歯を食いしばって見つめた。

 それと、
「ジェイク! おまえは俺達と来い」
 試しに呼びかけてはみた。
「ふざけんな!」
 だがやはり、彼はきびすを返して逃げ出した。
「待てよ! 悪いようにはしない!」
 ここで逃げられれば騒ぎが無駄になる。アキラは1時間でも追う覚悟で加速に入った。
 しかし奴もジェットを噴射し始めたため、実際には10秒で振り切られてしまった。

   ***

 かくして事件は闇に紛れた。
 奴らの目的は愚か、その正体さえ掴めなかった。
 大失態だ。

 メグミ警部補はマスコミの評判も気にするだろうが、アキラはそれは正直どうでもいい。
 それよりも奴らの企みの方が気がかりだ。
 数日後に分かったことだが、実は小沢トシユキが、『今年は参加者を倍に増やせ』と言われ、見知らぬ相手から資金提供を受けていたらしいのである。それを思うと、ドラゴン達の奇っ怪な行動が、何かのデモンストレーション、もしくは戦闘訓練にも見えるのだ。
 ――何のために……?

「これからどうする? アキラ」
「…………」
 早くも夕染み始めた空。
 だがそれを見てもアキラは、キヨラの通信に何も答えられなかった。

つづく

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最終更新日  2007年11月21日 21時19分13秒
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