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2話はこちら 3話はこちら 4話はこちら 5話はこちら 6話はこちら 7話はこちら Red Vapors #34 ドラゴン魂 in 小田原(Last) 08 直径1キロという狭い空域に蠢く、30匹前後のドラゴン。 これだけの数になると、1匹ずつ捕まえるなどできない。そんなことしてる間に被害はどんどん広がる。 地上ではすでに火事が起こっているし、通行人達はパニック寸前。 墜落したドラゴンに家屋が破壊され、いきなり爆発したのだ。消防隊がまだ到着していないため、内部に人がいたかも不明である。 こうなった以上、可哀想だがドラゴン達は落として殺すしかない。背に人が乗ってないのが運の尽きだ。 もっとも、こちらが落とされなければ、の話だが……。 「ガアアアア!」 「ギイイイイ!」 アキラの赤いドラゴンは、敵の黒いドラゴンと併進。吼えて威嚇し合う。 互いの軌道が何度もクロスする複雑な軌道を描きながら、徐々にそれを海の方へ誘導した。 「行くぜ!」 『ドン!』 アキラの声と重なる、敵の砲撃。 相手にわざと背を見せて竜弾を撃たせ、跳ね上がるようなスナップアップ! 急減速に翼が失速状態に陥るのも構わず、前から覆いかぶさるように付け入る。 “Gliding for snap up with battle flap and twisting over” 『……ドシン!』 「キイイイイ!」 体当たりの激しい衝撃。 互いにバランスを崩しながらも、 「リリース!」 ルプーに命じ、アキラは敵を海へ突き飛ばした。 『パァァン!』 それは時速300キロで水面に衝突し、水柱には、たった今まで生きていた物の肉片が混じる。 ――残り何匹だ!? だがこれほど危険な猛攻を行っても、倒せる数は1回につき1匹ずつ。コウも頑張ってはくれてるが、それでもペースが極端に上がるわけではない。 しかもこちらの狙いはあくまでジェイク。 本当はのんびり雑魚にかまってる場合じゃないのである。奴とは先程から距離を保って睨み合っている状況で、互いに手が出せてない。 「こちらキヨラ! 地上の通行人まで狙われ始めてるんだけど!」 「数が多すぎる! 横浜の支援隊は間に合わんそうだ!」 「だーもう! こっちだって手一杯なんだよ!」 苛立ちを含む通信に苛立ちを返し、場をますます混乱させる。 場の雰囲気を悪くする悪循環の始まりだ。 と――。 「ガニマタの様子がおかしい! 警戒しろ!」 少し離れたところで空戦しているコウが、そんなことを言ってきた。 「はぁ!?」 焦るあまり、怒声を返してしまう。 「だから! 足がカニみたいな奴を警戒しろっつってんだ!」 言われ、周囲のドラゴンを観察し、 「……!?」 ハッとした。 敵のドラゴンの姿はほぼ一様で、ステルス爆撃機を思わせる三角形。だがたしかに足の形にバリエーションがあるようだ。鳥のように細いもの、太く頑丈なもの、ガニマタに広がったもの。 そのうちのガニマタ型の一派が、コウの言うとおり、こちらと間合いを開けるような大きな軌道を描いているのである。 「…………」 アキラはレーダーのモニターを見て、連中の数秒後の進路を予想した。 その中心にいるのは……。 「……! ヤベぇ! ジェイクを消す気だ!」 アキラは叫ぶ。 「やっぱそう見えるか!」 「コウ! 奴を空から引きずり下ろせ!」 「ラジャ!」 2人はお互いに同じポイントへダッシュ。 今ここでジェイクという重要参考人を失えば、何もかも分からずじまいになる。 ドラゴン達のメーカーが不明ということは、兵器を独自開発する力のある犯罪組織が存在するということ。それだけで充分な脅威なのに、加えてその正体も不明となれば、事は大火を喫するのだ。 見ていると……案の定。 幾匹ものドラゴンが、ジェイクと併進し始めた。あきらかに何かのフォーメーションを組んでいる。 「鬱陶しい! 離れろ!」 対して奴は遮二無二暴れているだけ。 「ジェイク!! 下に降りるんだ! おまえ消されるぞ!」 アキラは拡声器で呼びかけた。 ところが。 「おい! 返事しやがれ! おい!」 奴はこちらを無視し、あらぬ虚空に向かって呼びかけ出したのである。 「……?」 ――ドラゴンに話しかけてる……? 一見、アキラにはそう見えた。 だがそうじゃなかったようだ。 「返事しねぇと、ポリに全部ぶちまけんぞ!」 この作戦の司令官に呼びかけてるのだ! 途端、 『ドン! ドドドン!』 いくつもの竜弾がジェイクを狙う! 「しゃらくせぇ!」 次の瞬間。 ジェイクは手頃なドラゴンを捕まえた。身体を捻り、暴れるそいつを振り回す! 「キイイイ!」 敵の一匹を盾にしたのである。 火を浴びてボロボロになったところで海へ投げ捨てる。 アキラは驚愕した。 あんなこと、どれだけパワーのあるドラゴンなら可能なのか。一般にドラゴンは見た目よりずっと軽いが、それでも500キロは超えるのが普通だ。 「見たろ! 俺は消せねぇ! おまえは俺のドラゴン自身も洗脳した気らしいがな!」 なるほど。彼は自分が消されることを知っていたのだ。 「……出てこい! オタル!」 そして、ジェイクはついに仲間の名を言った。 すると。 「自分で通信機壊しといてよく言うぜ」 返事があった。 間違いない。昨日のステルスドラゴンのライダーの声だ。どこかでこの様子を見ていて、無線でしゃべってるのだろう。 「地上班、発信源探してください」 無駄だろうと思いながらも、アキラは呼びかける。 「うっせぇ! おめぇがうだうだ言うからだ!」 「それだよ! その性格だ! おまえはもういらない。邪魔なんだよ!」 「てめ――」 「黙れ! 僕達はもう次のフェイズに移る。今までみたく、おまえの好き勝手を許せる状況じゃなくなる。おまえが好きに生きたいなら、もうそれでいい。止めないし、今日は成果も得たから帰る。けどな! 自分がいつも監視されてることを忘れるな。警察に情報を漏らせばすぐ分かる。そのときは本気で殺す。いいな!」 ブツッと乱暴に回線を切る音がし、それっきり声は聞こえなくなった。 そして、黒いドラゴン達は急に進路を変えて加速し始めた。 腰からジェットのようなものを噴射している。周到にも逃走用のパワースラスターを積んでいたのだ。 「逆探、失敗しました」 「了解です」 アキラは地上班に返事しながら、逃げていく群を歯を食いしばって見つめた。 それと、 「ジェイク! おまえは俺達と来い」 試しに呼びかけてはみた。 「ふざけんな!」 だがやはり、彼はきびすを返して逃げ出した。 「待てよ! 悪いようにはしない!」 ここで逃げられれば騒ぎが無駄になる。アキラは1時間でも追う覚悟で加速に入った。 しかし奴もジェットを噴射し始めたため、実際には10秒で振り切られてしまった。 *** かくして事件は闇に紛れた。 奴らの目的は愚か、その正体さえ掴めなかった。 大失態だ。 メグミ警部補はマスコミの評判も気にするだろうが、アキラはそれは正直どうでもいい。 それよりも奴らの企みの方が気がかりだ。 数日後に分かったことだが、実は小沢トシユキが、『今年は参加者を倍に増やせ』と言われ、見知らぬ相手から資金提供を受けていたらしいのである。それを思うと、ドラゴン達の奇っ怪な行動が、何かのデモンストレーション、もしくは戦闘訓練にも見えるのだ。 ――何のために……? 「これからどうする? アキラ」 「…………」 早くも夕染み始めた空。 だがそれを見てもアキラは、キヨラの通信に何も答えられなかった。 つづく [Red Vapors]official page こちらも絶好調で公開中です!^^ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年11月21日 21時19分13秒
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