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優樹瞳夢の小説連載部屋

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2008年07月26日
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カテゴリ:小説
うさぎ探偵! PROF.1 夏休みは殺人(1)



  01

 終業式終わってこの方、萌子が怪しい。

 佐々木愛菜(ささきまなな)は、毎晩9時頃、クラスメート兼幼なじみの由川萌子(ゆいかわもえこ)と話すのが日課だった。
 ベッドに横たわり、漫画を読みつつ、そんでお菓子でもつまみながら、家族や友達や学校のこと、明日の予定、あるいは誰それが誰それを好きだとか、ようもまあ下らぬことばかりを延々と、それこそ唾が涸れないかと心配になるくらい、顔の真ん中に標準装備されているマシンガン式スピーカーから発し続けるのだ。

 夏ボケ真っ盛りの8月初旬。風のそよともせぬ灼熱地獄の日。
 クーラーからのやや冷たすぎる風が、野外を這いずり回るサラリーマン達への差別意識を助長する、快適という名の監獄の中。
 その別名を帽子かけとも呼ぶいわゆる『女子高生脳』は、大人フィルターをオフにしたまま、まるで無意味な言語を流れ作業的に製造し続けていた。

「そういやあんた、あの本読んだ?」
「ほのかが社会勉強しなって貸してくれた漫画でしょ? それがエッチな本でね、男の人のおチンチンとか描いてあって、びっくりしちゃった。最初の方ちょっとしか読んでないの」
「あの女もあの女だけど、あんたもあんたよね」
 愛菜は、今どきの若者『らしからぬ』萌子のウブさに、ほぼ無意識に苦笑してしまうわけだが……。

 だが実は、いかなアケスケな口調を使おうとも、それだけは言葉にできぬと認識せざるをえないことが、彼女にもたった1つだけあったのである。

 と――。
「なによぅ!」
 次に萌子が返したこれが、だがこちらへの返事ではなかったことに、愛菜はドキリとした。

「なぁなぁ、誰と話してんだよぅ。俺も構ってくれよぅ」
「駄目だよ。大切な人と話てんの!」
「なぬっ!? 俺というものがありながらか! お兄ちゃん許しませんよ!」
「うるさいなぁ」
 最近の彼女の何がおかしいかって、他でもない。
 なんか後ろに男の子がいるんである!

「…………」
 ――その子……誰!?

 彼女に男兄弟はいないし、親戚の子と呼ぶには長く居すぎる。なんせ夏休み始まった直後くらいからなのだ。それにずっと彼女の部屋にいるのもおかしい。
「あっ、お母さん来た! ほらほら、早く入って!」
「ったく……! ぶつぶつ!」
 そんでしかも、母親が来ると隠すのである!!

 加えて本人が何も言ってくれないとなれば、これはどう考えたって、『彼氏を内緒で連れ込んでます』的なものを妄想せざるをえない。
 あの萌子が! 男の子を!! 内緒で!!!
 もっとも、彼女は身なりの割にはやたらモテるし、自分達がもう高校生だと思えば別に不思議な話でもなく、実のところちょっぴり羨ましいだけだったのだが。
「…………」
 とはいえ、彼らの会話の一片をも聴き逃すまいと、愛菜は宇宙電波望遠鏡VLAのように耳をフルオープンしてはいた。

「あ、ごめんね、愛菜。どこまで話したっけ?」
「…………」
「どうしたの?」
「あ、ごめんごめん」
「愛菜、最近少し変よ?」
 ――変なのはおまえじゃああああ!
 愛菜は核ミサイルの如き激しさでツッコミ入れたい気持ちだった。が、あえてそうはせず、最後の聖戦の前の勇者の如くそれに挑むことにした。

「……え、えーと……。その子……誰……?」
 言った……!
 ついに言った!
 言ってしまった!
 言っちゃったったら言っちゃった!!
 ここ10日ほどの謎が、ついに説き明かされるの、だぁ! だぁ! だぁ!
 その瞬間、彼女の頭の中には、物凄いファンファーレが個人的に響いていた。

 ところが、萌子の返答が、こちらの想像を越えていたわけである。
「あれ!? 言ってなかったっけ!? ペットだよ」
「…………。はぃぃい?」
「おい、コラてめぇ! 俺様をペットとは何事だ!」
「だってペットじゃん」
「んーっ! 訴えてやるっ!」
「ダチョウ倶楽部は古いかなぁ」

「????」
 激烈に納得いかなかった。

 ――ああ、萌子。小さい頃から泣き虫で、ずっとヒヨコちゃんだった萌子。あんたいつから男の子を飼うような女に……。

   ***

 佐々木愛菜16才は、高校生活最初の夏休みを迎えた乙女だ。
 周囲の友達からは、「女かどうかすらすでに疑わしい」とか言われたりするが、少なくとも本人は自分を乙女だと思っていた。
 なぜなら顔の造形『は』よく褒められるし、ナンパやスカウト『など』に苦渋した回数も1度や2度ではないし、それなりに自信は持っていたのである。

「やほー愛菜! 遅くなってごめーん」
「ちーす、萌子! って、あんた顔くらい洗いさいよ」
「えー? ちゃんとやったよ~?」
 とはいえ、こいつの方が男の子には人気があるのだが。
 彼女が由川萌子。ちんまりテケテケ、頭はいつもヨレヨレボサボサ、おまけに筋金入りのオシャレ知らずで、こないだ渋谷に呼びつけたらパジャマ&ツッカケで来た。
 しかも今はその顔に朝食のケチャップ! つまり全行程20分をその顔で歩き通しやがったのだ!
「ほら、顔拭いて。ちょっとブラシ入れてあげる」
「んん……」
 ――なんでこんなのに飼われてもいい、などと思う男が……? いやいやいや、その件は別に決まったわけでは……ぶつぶつぶつ。
 愛菜にしてみれば、男心と神秘の宇宙は謎の塊なのだった。

 翌、月曜日。東京都目黒区。
 その日、彼女らは出発日だった。
 路端に乗合バスがいるだけで少し違って見える、いつもの高校。
 愛菜と萌子が校門前に集合したときには、参加者全員と思われる生徒が揃っていた。

「出発だぞー! 早く乗れー!」
「萌子、行くわよ!」
「うん!」
 先生の声で、その場にいた全員が慌てて駆け出す。

 バスのフロント部には『某高テニス部御一行様』の字。今日から合宿で4泊5日の旅なのだ。
 ただし、帰宅部のはずの2人が、なぜにこんなののお邪魔なんかしているのかというと。

「あの、ホントによかったんですか? 合宿ついて来ちゃって」
 愛菜は席に座ってから、廊下向かいに座る上級生に訊ねた。
「いいんだよ。君達がいなかった方が返って困ったんだ」
 答えたのは、スラリとした和やかな印象の青年。おそらく2年生。今回の合宿の取りまとめをしている男で、名は清水勇介と聞いた。

「そうだよ! おかげでランクのいい旅館に泊まれるんだから! ドンマイだ!」
 それから真後ろの少女が身を乗り出す。
 愛菜と萌子のクラスメートの宮島まどか。活発そうな大きな目がチャーミングで、その点、何かと不健康な印象を持たれる愛菜とは正反対の子。

「あれだろ? 先生が言ってた。人数があと2人多ければツアー料金になるって話。どうだかな。男所帯に華添えようって魂胆だったんじゃねぇの?」
 清水の向こう側にいる、ハスキーな声の男が鼻で笑った。
 自分らと同じ1年生で、名前はたしか加納政貴(かのうまさたか)。筋肉質な手足は、他の男子生徒と同じく、スポーツで鍛え上げられたもの。

「何言ってんだよ。華ならいるじゃ~ん!」
 まどかは軽くシナを作って見せるものの、
「はぁ~? ハエトリ草しか見えんなぁ」
「この野郎♪ おまえの口にウンコすんゾ☆」
 おかげさまで、あんまし部の華って感じじゃないのだった。

 この下ネタ少女に、テニス部の合宿に一緒に来てくれ、と頼まれたのは夏休み直前。それが今回の旅行のきっかけで、あれから彼女んチに足向けて寝られないんである。
「…………。ははは……」
「……ま、まどかちゃん……」
 愛菜は萌子と目を見合わせた。
 こっちがドン引きしても気づきもしねぇ彼女に、少し後悔した。
 十数名の部員の中で唯一の女子なもんで、すっかり毒されちゃってるのかも。男子と部屋を別棟にするなどの考慮はしてもらってるそうだが、その前にこいつに襲われなきゃいいんだけど。

 でも後悔は先に立たず。今先立つのはバスの発車。

 とりあえず2人は招待してくれたことへの礼を全員の前で言い、それから部員達の我先な自己紹介の洗礼などを受けた。
 親睦会への期待が胸膨らんだ辺りで、無事に首都高2号線へ入る。ここから関越道を経由して軽井沢への道行きは、ざっと3時間半といったところ。

 このまま全て順調に、楽しく進むものと、愛菜は信じて疑わなかった。
 のだが――。

 無論、全てがつつがなく終わるミステリ小説など、所詮あるわけないのでして……。
 たとえそれを神が許しても、何より読者が許してはくれぬ。

「おーい。次のサービスエリアで休憩するぞ~。トイレ行く奴は――」
 ピーチクうるさい車内で、先生が声を張り上げようと半立ちになったそのときだった。

「うわ!」
『キーーーー!』
 突然、今までずっと寡黙に、真面目に働いていただけだったバスの運転手が、乗客の雰囲気だとか、物語の流れといったものを全て無視し、急ブレーキを踏んだのである!
「うごっ!!」
「うわ!」
「キャーーーー!」
「うひゃ!」
「どわ!」
 誰がどんな声を上げたかは分からないが、少なくとも下から3つ目は男。

 先生は吹っ飛び、したたか頭を打つ音。
 愛菜はそのまま自分も飛ぶかと思ったが、どうにか前の座席に頭をぶつけただけですんだ。
 車がエンストして静かになったのを確認しつつ、頭を上げてみる。どうやら五体満足のよう。高速道路で前後の車を巻き込まなかったのは奇跡だ。

 だが騒ぎはそれだけでは終わらなかった。
 運転手の足元から、何か小さくて丸い物が不意を突いて飛び出してきたのである。
 彼にブレーキを踏ませた犯人と思われるそれは、辺りをドタバタと走り回り、再びバスの中を散々騒がせた。
 それから、やがて愛菜の前の座席、背もたれの上にピタッと飛び乗る。そのときになって初めて彼女は事態を知った。
「……う……うさぎ!?」
 そう。うさぎだ。
 耳が長くて、ふわふわで、目のくりっとしたかわいい生き物。……本来なら。

 だが今ここにいるそれは、全体的に地味な茶色で、ひたいの白い十字模様が妙に際立つ不気味さもあった。
 そんで後ろ足で器用に仁王立ちになり、勝ち気な表情で腕組みして、こちらを見下ろしているんである。少なくともあんまし『かわいい』って雰囲気じゃあない。
「いよぅ! 萌子の大事な人ってなぁおまえか」
 しかも言葉しゃべったりとか。

つづく





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最終更新日  2008年07月26日 20時41分08秒
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