知らぬが仏!脳ドック
先日こんな話を本で読んだ。子どもがくも膜下出血で倒れたため、慌ててその73歳の父親が検査を受けたら破裂していない動脈瘤が発見された。だが、高齢のためそれを取り除く手術を受けることができない。その父親は発症の恐怖に苦しんだ末、自殺してしまったというのである。日本の医学の問題点がこれほど凝縮された話はない。最近、脳ドックというのが流行っている。日本に1000近くの検査施設があり、受診に平均6万円ほどかかる。このMRIという磁気共鳴撮影は精度があまりに高いため、患者を15%ほども発見してしまう。60歳代なら20%、70歳以上だと30%にもなる。患者を発見した医者は、アスピリンなど血を固まりにくくする薬を飲ませたり、血圧を下げたりするわけだが、実は、こうした治療をしても、もともと深刻な病気ではなかったため、発作の件数や死亡する確率はまったく変わらない。検査である日突然「患者」扱いされ、不安をあおられたうえ、ムダな治療にお金と時間を費やしただけだったというわけだ。脳ドックではまだ破裂していない動脈瘤が見つかることが多い。成人ではたとえ無症状でも5%程度は動脈瘤があると言われる。精度のいいMRIはすぐ見つけてしまうのだ。医者は破裂率は1~2%程度だと説明し、「放っておいたら大変なことになりますよ」と手術を持ちかける。1~2%でもいきなり死と向き合うことになる。ところで、最近の欧米の2000人以上の調査では、1センチ未満の動脈瘤の年間破裂率は0.05%程度であることが分かってきた。1万人に1人の低確率である。医者に勧められて、動脈瘤をクリップで押さえて破裂しないようにする予防手術した場合、15%の確率で半身不全麻痺や視力障害などなんらかの後遺症が残ってしまう。知らなければ済んだものをMRIで発見してしまったばっかりに、薬を飲み、毎日血圧をはかり、破裂の恐怖にさいなまれ、果ては手術をして15%の半身不随の確率と戦わなければならないである。これを健全な医療の姿と言えるだろうか。ちなみに脳ドックは日本でしか実施されていないのである。聞いたところでは、日本の脳外科医は5000人いるそうだ。人口が倍の米国は3200人しかいない(「成人病の真実」近藤誠著)。私たちが不必要に患者にされるのは、彼らの失業対策のためなのだろうか。この構図は高血圧症も同じ。2000年に根拠不明なまま、高血圧の基準値が140/90に引き下げられた。それ以前の基準値である160/95だと患者数が1600万人だったのに、なんと3700万人にも増えたのである。30歳以上の40%、60歳以上の60%以上が患者で、やれ血圧を計れ、やれ降圧剤を飲め、と勧められる。これなら医療費はいくらあっても足りないだろう。日本の03年度の国民医療費が30・8兆円となったそうだ。診療報酬のマイナス改定で昨年度は一時減ったものの、今年は前年度より2.1%増えて、過去最高という。私自身、これを書きながら、頭の未破裂動脈瘤がいつ破裂するかドキドキしてきた。天寿を迎えるまでに破裂することがないのなら、未破裂動脈瘤があったとしても知らぬが仏でいたい。もし、近いうちに破裂するようなら、「いますぐにでも手術しなさい」と勧めてもらいたい。これは勝手な望みなのだろうか。【楽天市場】本/パソコン・家電・AV/ 生活・インテリア/ スポーツ・アウトドア 蓮4044