[カルロス・ザウリの魁け](2)
[カルロス・ザウリの魁け] by iMAC@Apple 第二回 「さきがけの波紋」 カルロスは無心に今度は自分の心情に従うままに、大地と空間の光と風の波動を形にしていた。何度も土を練り直しては、繰り返し次第に空気と地球の磁力線に反応する自分の脳の興奮が、手の動きに連動しだしていた。ただひたすら、同じ題材を作り続ける。既に30個は作り、壊している。いくつかようやく納得できそうな候補を天日干しの板に並べるところまで来た。 「ふ~つ。なにか掴めたな...。 ジュリアの奴、今日はどうしたのかな? 午後になっても静かだ。」そうだった。昨日も考えてみれば、いつになく無口な感じだった。あんなに「好きだ、あんた修行が足らない」だのなんだのと、煩いやつだが...と、一瞬手を休めたところだった。 「わ~!、カルロス~!」(どこに隠れていたのか、突然作業台の下から顔を覗かせたのはジュリアの妹のフローラだった。 ジュリアとは本当は別の母親の子だったが、ジュリアとフローラの共通の父である叔父さんの今の奥さんの子だった。先妻つまりジュリアの母親はまだジュリアが2歳のときに急性白血病で他界していた。突然2歳の子供を抱えながら、陶芸芸術家の叔父さんは暮らせないため、俄かに隣町の工場へ日雇い工夫仕事を請け負いで食いつなぎ始めた。働く間ジュリアを預ける先を今の奥さんのアンナに無理に頼み込んだ。二人は幼馴染だったが、それまでは祖父とアンナの間が上手くいかず、そのうちイタリア男の叔父さんの「できちまった結婚」になっていまった。その祖父が亡くなった後、ようやく運命の絆が結びついたといった感じだった。周囲もジュリアの母の時よりも、自然に受け入れていた。 ジュリアは幼い時は優しい性格のアンナに懐いていたが、次第に天の知るところなのか、カウロスの母を慕うようになっていた。カルロスの母エリスは、叔父の先妻の妹だからなのか最近は事あるごとに相談にやってきた。 「おいおい、お前ら姉妹はなんで、俺にいつも脅しを掛けるんだ~?ううん?文句でもあんのか。」 「ううん、お姉ちゃんの真似してるだけ。いいじゃない、お姉ちゃんとはいちいちゃしてるのに、あたしは同じように扱ってくれないの~?」 カルロスは今は悩んでいるが、田舎に居て陶芸芸術家を目指す一族の伝統を単純に受け入れてしまったのだが、結構隣町からもあわよくば伊達男の若気の過ち的に愛してほしくて、様子見にやってくる女の子が居るくらいの美形美男子である。 アルバイトで何度か請われて美術学校のモデルにもなったくらいだ。フローラもどうやら、自分のすきな男の子の一人にしたいようだが、フローラ自身は、ジュリア以上の美人だ。ただし可愛らしさは姉のジュリアが一段上だが、芸術的な黄金比率の整い方では、フローラが勝っていた。 カルロスもジュリアに夢中になれない理由の一つには、男の愚かさだがこのフローラの美しさに惹かれていることは否定できない。そのフローラが今日は自分から大胆にも、ちょいと近づいてきたのだ。イタリア男児として、美女を無言でそのまま返したとあっては男が落ちる。 「いえいえ、これは失礼致しました。天下の美女フローラ嬢を差し置いてどこに我輩の居所が御座いましょうか陛下...。 ぷふふ~つ、ちょっと言い過ぎか~?」 「お~ほほほ、これカルロス、汝そのむさ苦しい泥だらけの衣服を脱ぎ捨て、この王女の忠実なる側近として、天上の寵愛を受けんとするや、如何に?...なんちゃってね! ねえ、今夜ジュリアも行きたがってるんだけどファエンツアの町(隣町)の祭りに行かない? 今日はあたしの僕のロメオが風邪で倒れちゃって、使い物にならないのよ~ん。」 「ぶくそ~、なんだいちょっと気取って礼儀をつくしてやりゃ~、結局アッシーかよ!俺さまを誰だとおもってるんだ!ええ~、ちょっとびじんだからってね。」 「なに、たんなる貧乏芸術家きどりのカルロスじゃない。金持ち男爵には困ってないわよ!良い男が居なくて困ってるって訳よ!ちょっと、これは金じゃないから。」 「馬鹿やろ~、そりゃこっちのセリフだぜ~、まったく。ところで、なんで今日はお前なんだ?」もともと気のあるフローラのためか、カルロスはやや緊張を隠そうと粋がりが酷くなっていた。 「それがね~、どういうわけかジュリア姉さん元気がないのよ~、カルロス貴方なにかしたんじゃない? 罪滅ぼしにパ~とファエンツアのカーニバルを観にでもいけば気が晴れるかな~ってね。」 「俺なにもしてね~よ。二日前の午後は、ちょっといちゃいちゃしてたけどな。」 「なんですって~、おい色男やろ~、女を舐めんなよ~、姉貴だけじゃなくてアタイも愛してよ~」 「っど、おいおい幾ら俺が伊達男でも、同時に二人はみがもたね~よ。」 「んったく、どうして男はみんな直ぐに女の子とちょめちょめだけしか考えないんだろうね~、ちょっとキスして抱いてくれるだけでいいのよ。それ以上はこちもごめんだわさ。だいたい男の子の下は気持ちわり~んだから、まったく。女の子のほうがよっぽど綺麗だかんね。まあ、そんなことはどうでもよくって、ファエンツアいく?、いかない? ねえ、姉貴元気ださせてよ、我が家はお通夜状態なんだから~。」 「ええ、そんなにジュリアが落ち込んでる~? どうして~? 俺そこまで意地悪してね~よ。」 「へえ~、そうなの? じゃなんで、朝から晩まで一言も喋んなくなったんだろうね~??」 「うえ~、そんなに重態? そりゃそうそう出かけるか~、ちょっと数分まってくれ、この出来損ない壊してくっから~。」 カルロスは集中できなくなったせいで、形が歪んだ壷の出来損ないを元の土の塊に戻して、手をあらいお出かけの衣装に着替えた。美男子の面目に変わっていた。近くでフローラがうっとりとカルロスの手際の良い仕事を見ていた。 「ああ~、きちんとするとカルロスみたいな良い男を、お姉ちゃんや他の女の子に見せたくなくなっちゃうのよね~。独り占めしたいな~。」 カルロスもまんざらじゃないが、ジュリアの気持ちと生い立ちを考えると、可愛そうになってくる。フローラに真剣にはなれない。その深いところでの愛情があることをしっかり理解できたのも最近のことだが、近づく別離の時間をできれば忘れて、今日は単純にみんなで楽しみたいと思っていた。 「ふふ~んと、じゃあフローラ、ジュリアを呼んできてくれ俺は車を回してくるから。」 「うん、OK~! じゃ、家の門のところでね。 今日も良い男で格好良いよ、カルロス!」 「ああ、当然だね。これが伊達男ってもんさ。女にゃこまってねんだ。苦しいのは~...。」 Ginga opera