カテゴリ:エッセイ
ある休日の土曜、思いがけず親戚から電話がかかってきた。あまり良い予感はしないが、予想は的中していた。親戚の方の母上が亡くなられ、お葬式に向かう事となった。この年代になると、親戚筋の方々の訃報が届くものですね。
葬儀の際、あの文字と再会する事になろうとは…。 『同行二人』そう書かれた菅笠と杖。この文字は、先日見たものと同じか。すぐさま意味はわからない。 その4文字を見つめたまま私の瞳孔は開いていた。というより、文字に私が見据えられたと言った方がいい。静かだけれど鮮烈に何かを語りかけて来るような文字。このような思いは初めてだった。 人の思いなど、外から見ている分にはわからないものだと思う。同行二人とは・・・。居ながらにして故人の事以外を考えていた。生前、特に深い繋がりのなかった故人だったけれど、今こうして何かを教えてくれたといえるかも知れない・・・ 帰り道もあの文字は目の奥に焼きついていた。今までの人生の中で冠婚葬祭には何度も出席したはず、同じ文字にそれこそ何度も出会っていたはずだろう。だけど、これまでに一度も見えなかった。気づく事すらなかった私は何故、今まで気づく事をしなかったのだろう。ぼんやりとそんな事を考えていた。 私の知っていると思えることなどほんの少しの範囲でしかないのでは・・・。今の自分が見えていると思っている範囲、認識している思えることはウン十年かかって一握り。如何せん小さな存在の自分である。 わかっているはずでも自分の範囲を超える事柄を目の当たりにして、心がざわめく。心に今までにない風が吹き込んで来る感じがした。 目をつむり、風の発信地に思いを向けたい。 風は理由のある時に吹くものかもと思えるからだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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