ある内科医の独り言

2005/11/16(水)08:32

タミフルの消費量は本当に日本の健康を支えているのか

先日から「タミフルを服用した少年らが異常行動死を遂げた」というニュースが報じられている。今年は鳥インフルエンザH5N1の変異株が大流行するかも知れないという報道もあり、これからの寒いシーズンも相まって市民の関心も高いものと思われる。 タミフルはすでに一般名になってしまったようだが、実際は商品名であり正式名を「リン酸オセルタミビル」という。日本では中外/ロシュが販売しているので、この両社はウハウハだろう(笑) なんせ宣伝しなくても勝手に報道してくれるのだから。一方、グラクソが販売するリレンザは吸入薬ということもあったためか知名度もイマイチだ。 さて「くしゃみ3回ルル3錠」と同じような感覚で「インフルエンザにタミフル」という一種の約束処方が成立してしまったわけだが、先に挙げたように異常行動による死者が報じられたことによってこうした処方は減少するのだろうか。 タミフルやリレンザが市場に出始めた2001年当時、その効果は絶大なものがあった。40度近い発熱でウンウン唸っている患者さんが、こうしたクスリを飲み始めてからグングン良くなり、翌日にはすっかり元気になってしまったという例など数え上げればきりがない。副作用も食思不振・嘔吐・下痢など消化器症状がメインということだったし、また頻度も少なく「作用>副作用」の関係が成立していた。 それから数年、インフルエンザが流行するたびにタミフルは名を上げ、一般外来を受診する患者さんですら銘柄を指定するようになった。「良く効くらしい」「飲めばインフルエンザにかかりにくくなるらしい」など噂に尾ひれがついて大きくなったためだろう。 また、安易に処方した医療側の責任もある。インフルエンザであることが確認できればタミフルを処方できるが、中には十分な検査もされぬまま処方される例があったりするなど不適切な処方も多かったようだ。 いずれにせよタミフルの処方数は年を追うごとに増え続け、今年は国家をあげて備蓄する方向で対策が進むなどしている。しかし、こうした一連の行動は少し常軌を逸脱している気がするのは僕だけだろうか。 確かに我々の目的は病気の殲滅だ。しかし、世界中で生産されているタミフルの大半を日本が消費していることなどご存じだろうか? 日本人ってそんなにインフルエンザにかかりやすいのだろうか? 消費量一つを取ってみても日本は非常に恵まれた国家であることがおわかりいただけるだろう。 これだけの消費量があるのなら、日本はインフルエンザで死ぬ人が少ないのかといえばそうでもない。インフルエンザから二次感染症を引き起こし敗血症となり死亡する人だっているのだから、タミフルの消費と生存率との関係は一概に比例するとはいえないだろう。 2004年度には全世界の消費量の6-7割を消費したとされる日本。全世界の人口を60億としたって、日本はその5%にあたる1億2000万人しかいない。その5%の国家が6-7割のタミフルを消費し、さらに今年は国家備蓄まで始めるのだからその消費がさらに加速することは容易に想像できる。 タミフルがない他の国ではインフルエンザでバタバタと死んでいく状況があるのならともかく、日本だけが生き残った……というシナリオは見えてこない。 本当にタミフルが処方される必要があるのかどうか、単なる副作用的なリスクを考えるだけではなく、もう少しグローバルな視点から見てもいいんじゃないだろうか。インフルエンザに「勝つ」というのはどういうことなのかを改めて考えてみたいと思う。自戒を込めて。 ……でもやっぱり処方しちゃうんだろうなぁ……orz

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