追い出し訴訟!心を鬼にして。
今日、明け渡しの裁判があった。家賃滞納者をアパートから追い出す仕事だ。息子と保証人である母?(苗字が違ったので叔母かもしれない)が出頭した。原告席と被告席、真向かいに向き合う。僕は原告、相手は被告。なるべく被告とは目を合わさないようにするが、ふと顔を上げたときに、保証人の女性と目があった。女性はあわてて目をそらした。僕も視線をさげた。感情的にならないように、相手を見ない。いつもどおり淡々と事務処理上の仕事をしていく。被告に同情すると疲れてしまう。相手と目をあわさずに、法律を粛々と、裁判を粛々と淡々と。自分の仕事をまっとうしないといけない。書類上の事だ。僕の中では仕事のひとつに過ぎない。いつもやっていることだ。たいしたことはない。じぶんに言い聞かせる。でも、相手はどうだろう。アパートを追い出される。自分の帰る家がなくなる。場合によっては公園で寝ないといけなくなるかもしれない。実家や友人の家に泊まれる人は幸運な人だ。みんながみんな、幸運な人ばかりではない。頼る人がなければ、野宿だ。自分が起こした裁判でホームレスが一人誕生するかもしれないのだ。考えないようにしようと思うと、雑念が出てきてしまう。被告に同情をするなんて、あってはならない事だ。あくまで、依頼者の利益を最優先に考えないといけない。依頼者の代理人なんだから。でも、考えてしまう。同情してしまう。それは正しいことかもしれない。同情するということは、人を思いやることだから。事務手続きと割り切っても、割り切れないものがあるのは、僕が人間だからだ。暖かい心を持っているからだ。家賃を払わないから出て行けと、大家からしたら、当然の要求だ。でも、それで人を不幸にしてしまう。法律的に解決することはできても、追い出した人の人生まで変えることはできない。懺悔、わるかったなという気持ちと、仕方がないじゃないかという気持ちと。ぐずりぐずりと、どろどろした心の中にはまり込んでいきそうだ。明け渡しの裁判は、弱者を叩きのめす裁判であってはならないと思う。アパートを追い出されるこの裁判が、相手をよい方に変えていく何かのきっかけになればいい。都合よくそう思っている。