頑固な肩こりを訴えられる患者様は，かなりいらっしゃいます．医者に泣きつくほどでない方はその何十倍もいらっしゃるでしょう．自覚的愁訴はないのに触れると肩がガッチガチな方も，けっこういらっしゃいます．凝りすぎて知覚神経がマヒしてんじゃないかと思われるほどです．
　「肩こりに関与する，筋肉，骨，関節，末梢神経を列挙せよ．」なんて問題が試験に出たら，即座に完璧な回答ができる整形外科医も少ないのではないでしょうか？更に，眼科，耳鼻咽喉科，歯科口腔外科，脳外科，心療内科領域の要因が複雑にからんでいることも少なくありません．高血圧や心臓病，逆流性食道炎，胃ガンや肝臓ガン，肺ガンなどといった内臓疾患の兆候として肩こりが現れることもあります．肩こりに和漢診療をなどと希望されて，私を受診して下さる患者様は，上記についてひととおりのチェックが済んでいるのが望ましいのですが，単に注射が嫌いという動機で直行して来られる方もあります．
　お話を聴かせていただきながら，漢方診断の基本である脈，舌，腹を診てから，クビ，肩，後頭部，背中，腕なども触診させていただくと，大体の要因は見当がつきます．専門家でないと手に負えない病気が隠れていないようならば，状態に応じた和漢薬を処方しますが，即効性はあまり期待できません．外用薬，テーピング，マッサージや運動療法，鍼灸治療などを組み合わせた方がはるかに早くラクになります．虫歯を治せとか，眼鏡を作り直せ，枕を代えてみろ，美容院でシャンプーしてもらえ，休むときにはカラダのサイズに合った肘掛け椅子に座れ，パソコンばかりいじるな（笑），仲の良い友達と旅行に行って来い，etc.etc.etc.．生活の中の工夫についてもあれこれ口を出します．私自身もヒマじゃなかった頃は，頑固な肩こりに苦しんでいましたので，つい力が入ってしまいます．
　さて，私は自分の肩こりをどうしているかを申し上げます．日常的には，手の甲にあるツボや肘にあるツボは自分で刺激します．次男はいつの間にか，マッサージの名手になっているので数百円で手の届かない部位を頼むこともあります．３～５千円を奮発してサウナのマッサージやエステ，保険の効かない鍼灸院のお世話になることもあります．アロママッサージはなかなかGOODでしたが，１万円以上したので頻繁には無理でした．奥の手は麻酔薬の局所注射です．これは余程の場合のみ夫に頼みます．父（蛇足ですが，マッサージがすごく上手な整形外科医でした．）の葬儀のとき，心身ともに疲れ果てて吐き気がするほど肩が凝ったのですが，注射針が刺ささると凝りに凝った筋肉はバリバリバリバリと音を立てたので，夫は「うわ～っ」とつぶやきました．とろけるようにじゅわ～んと凝りが消えていきました．ただし，私はこのクスリには弱くて，針が抜けるとともにへたりこんでしまった上に，小１時間ほど情動が抑制できなくなり，わんわんと大声をあげて泣いてしまいました．
　毎日のように，この注射を医者にねだる高齢者はけっこう多いのですが，根本的な解決にはなりませんし，きっと早く呆けてしまうことでしょう．