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2ヶ月前から,ほぼ毎日仕事に行くようになった病院で,褥瘡対策委員というのをやることになりました.
褥瘡というのは,いわゆる床ズレという皮膚のトラブルで,長らく寝たきりでいる患者様に生じやすい.患者様自身と敷き布団の間に発生する圧力で,血の巡りが悪くなり,皮膚が火傷したときのようにふやけただれる,更に看護の際などに引きずるような力が加わったりすると皮膚が擦り剥ける.しばしば,臀部に発生するため屎尿に汚染されやすく,細菌感染の温床になりやすく,そもそも全身状態が非常に悪いから,キズはめったに自然に治ることはなく,どんどん深くなっていき肉や骨まで達してしまうこともあるという厄介なモノです. 20年近く前,医学生および研修医だった頃,褥瘡について習ったことは,「つくらせるな」「原疾患をしっかり治して全身状態を改善しろ」といったことくらい.教授回診で褥瘡が話題になったら,即,病棟婦長が呼びつけられて「看護婦の恥じゃないか!」と叱られていました.ペエペエの研修医としては,入院する前から,できてたモンになんで病棟の看護婦さんが叱られなくてはならんのか?全く理不尽なハナシで納得しがたいものでしたが,婦長はひたすら頭を下げるのでした.当時は,とにかく「褥瘡はあってはならぬもの」と言われるだけで,現実に眼前にあるモノをいかに治療するかについては,ロクな情報がない状況でした.医局員も看護婦さんたちも,特別体勢を組まされました.元気が出る煎じ薬をのませる(実際には患者様の奥様のアイディアでお粥にぶっかけていた)のはもちろんのこと,30分毎に3人がかりで体位交換をし(当時病院に一台だけ褥瘡ができにくいよう除圧できるというマットレスがありましたが,他の病棟で使われていたので,できてしまった皮膚潰瘍には有効かどうか確認できませんでした.),日に何度も消毒しては良さそうなクスリをつけたり,紫外線照射をしてみたり,周辺の皮膚をマッサージしたり,そもそもがアルコール中毒の上に脳梗塞で麻痺に陥ったのだから,ビタミンBも不足しているだろうと(当時は簡単には測定できなかったので当て推量で.最終的にペラグラというビタミン欠乏症が存在することが確認できましたが.),せっせとビタミン剤をのませたり.悪戦苦闘する内に,鶏卵大の皮膚潰瘍は十円玉くらいにまで小さくなり,教授が連載していた看護婦さんむけの教育雑誌に写真が載ったり.でも,結局のところ,その患者様の褥瘡は完治に至らぬまま老人病院へと転院されていき,脳梗塞の再発作を起こされて亡くなられたのでした. それ以後も,ときどき学会や医学雑誌に褥瘡の発表があれば注目するのですが,改善していても,完治した写真が出ることはないのです.このカラクリは,病院の機能分担という名目で患者様がタライマワシになる我が国のシステムにあります.いくらか状態が改善すれば患者様は転院させられてしまう.大学病院などでは,学術的または教育的な利用価値がなくなった患者様は追い出されてしまうのです.より大学病院での診療が必要である患者様が,日々入院を希望されて来られる以上はやむをえないことではありますが.最近は医療費抑制政策で,入院期間が長引いた場合は病院にペナルティが課せられますから,その病院でなくてはできない診療を継続する必要があっても無理矢理退院させようとするような公立病院(公立病院は事務が強いから)まで出てきており,長期的展望に立って粘りに粘る必要があるような診療の質は低下してしまっています. そういうわけで,6年前に老人保健施設の医者になるまでは,重度の褥瘡が治るまで関わるという経験はできなかったのでした.従って,褥瘡の治療には自信がなかったのですが,看護主任が非常に熱心で,ひきずられるように取り組むことになりました.けれども,彼女は「褥瘡は看護学のナワバリ」という立場だったので,ワタシにリーダーシップをとって指図しろとは要求しませんでした.講演会やセミナー(やはり看護学科教授,医師でなく看護士である方が講師であることが多い.)に行ってテキストを見せたり,有用な記事が医学雑誌にないか捜してコピーをしたりという情報提供をしながら,彼女の方から,ポケット状になってきたからそろそろ切開をして欲しいとか,壊死組織を摘除して欲しいとか,栄養状態を改善する方法はあるだろうかとか,抗生物質やビタミン剤の適応があるだろうかという提案があれば応じるといったカタチで仕事をさせてもらうといった感じでした.ワタシは内科系ですから,外科的メスさばきの技術については熟練しているとはいえず,出しゃばりにくくもありましたが,この施設では,ほどほどにひどい褥瘡も完治することがあるという経験ができました. その施設を辞めてからは,もうひどい褥瘡に関わることはなかろうと思っていたのですが,全く反対の状況となり,「ここまでひどい褥瘡が本当にあるんだあ」と目が点(・.・;)になるようなシロモノに関わる羽目になっています. 高齢化社会の寝たきり病人の増加と介護保険の弊害(在宅している寝たきり老人が訪問看護の費用を惜しんで,訪問ヘルパーが介護のみならず,看護士としての役割まで要求をされている)で,在宅でひどい褥瘡が発生しやすくなっており,頭ごなしに看護士を叱るなどはアウトオブデートも甚だしいことになってきました.褥瘡発生予見のための評価スケールや治療効果を判定するための評価スケールが考案されていたり,治療に用いる外用薬や材料,更に除圧効果のあるマットレスやクッションといった新製品が次々と発売されたりしています. それでも,やはり「褥瘡は不適切な看介護がつくってしまうもの.」という位置づけは変わっていません.しかし,嚥下性肺炎を忌避する看護や寝たきりではなく座らせて過ごさせる介護は褥瘡の発生や悪化の要因となる姿勢を長くとらせてしまうという問題を含んでおり,褥瘡をつくらない看介護が,必ずしも,全体的なQOLの向上を目指す看介護になりにくいことも配慮しなくてはと考えさせられてしまうのす. お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2002.09.10 22:17:33
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