炬燵蜜柑倶楽部。

2005/06/27(月)20:38

ねむりのおわり(8)第二章その1

本日のスイーツ!(339)

「…おい、何してる?」  背後で声がした。  おそるおそる振り向くと、出かけていたはずの家主が、そこに立っていた。  ばさ、とクラフト紙の袋を冷蔵庫の上に下ろす。どうやら買い物に出てたらしい。 「お前が欲しいのはコレかよ?」  あ、とオレは家主がポケットから出した、奴のものらしい財布を指さした。 「や、その…」 「お前のはちゃーんと別のとこに預かってるさ。ついでに言うなら、持ってた物騒なモノは処分したぜ」 「は」  何?  まだ貧血は治ってなかったらしく、くらり、とその場にへたりこんだ。気が抜ける。 「…じゃ、オレの財布、返せよ」 「今のお前に渡したら何処に出てくか判らないだろ?」 「いいじゃねーか、オレの勝手だよ」 「あんだけ情けねえ顔して、助けて助けてって訴えてた奴が何言う」  かっ、と顔に血が上るのが判る。 「お、オレそんなこと言った覚えねーぞ」 「別に口に出して言った訳じゃねえけどよ、何っかなあ」  まさかオレと同じ体質? ってことはないよなあ。思わずオレは唇を噛む。 「おいおい、そんな、なあ…野良猫を拾ってきた訳じゃねーんだから。ちゃんと治って、辺りに危険が無いとか、そういうのが判ったら返してやるよ」 「…あ、あれもか」 「銃か」  あっさりと奴は言った。 「あんなもの、ガキが持つもんじゃねえ。金は後で返すが、アレは分解してゴミに出したぞ」 「…ゴミにって…」  はああああ。オレは思いっきりため息をついた。 「まだ数発、残ってたのに…」 「残ってたあ? 何処かで撃つつもりだったのかよ、お前」 「や、それは」 「そんなコト言うならな、なおのこと、捨てて正解だったぜ。撃たなくていいなら、撃たないにこしたこたねえんだ」  それは、そうだけど。 「それよりお前、もう身体はいいのか? 動いたりして」 「あ…身体は、大丈夫」 「嘘言え」 「嘘じゃないよ。…あんた、見たろ」  それにはこの男も黙り込む。  起きた時、一応巻いてあった包帯の下を見たら、綺麗に血が拭われていた。(あの時のコットンのアルコールだろう。においが残っていた) 「まあな。だけどケガ人には違いねえだろ」 「…もう大丈夫だってば」 「それで、とっとと金持っておさらばしようって思ったのか?」  ほれ、と冷蔵庫の上に置いていた新聞を奴は投げつける。 「…ごちゃごちゃして読めねえよ」 「バカか?」 「バカで悪かったなあ、学校行ってねえんだから、仕方ねえだろ」 「…あーあー悪かったな。じゃあちゃんと俺が要約してあげよう」  オレはぺたん、とクローゼットの前に膝を抱えて座り込む。 「つまり、だ、一昨日のお前の巻き込まれた爆発事故ってのがな、マフィアの内部抗争だって言うことでな」 「マフィアの…って」 「マフィアって言えば、デビアの専売特許だろう。まあシレジエにも、カストロバーニの息が掛かった奴も居るが、特産のマフィアはねえぜ?」  そうなのか。オレはてっきり、何処の街にもそれなりにマフィアの様な組織が存在すると思っていた。 「で、何かあそこで殺られたのは、こっちの地区幹部らしいな。…ミタナスも殺られたって言うし、…こりゃ、内部抗争が起こるんじゃねえかな」 「…」  それはまずい、と思う。  シレジエまで来てしまえば安全だと思ったのに、向こうで幹部を殺した(一味の)オレとしては非常に困る。 「ま、内部抗争も何でも、勝手に殺し合えばいいさ。それはともかく、お前、腹減って無いか?」 「腹?」  言われてみれば、何かひどく腹はぺたんこだし、…実際きゅーっと胃が悲鳴を上げているようだ。 「お前な、二日間眠りっぱなしだったんだぜ?」 「二日?」 「まあ、と言ってもな、うわごとで水水言った時には、水くらい飲んだがね」 「…記憶に無い…」  そんなこと、言ったのか。 「まあ病気してる時ってのは、そんなもんだろ。何か食うだろ?」 「…腹は…減ってる」 「じゃあ食うな? …と言っても…なあ」  ふむ、と男は部屋の片隅の冷蔵庫を開ける。  オレは何となく気になって、足元に気を付けながら、そろそろとキッチンの方へと進んだ。  さすがに少し寝過ぎたか、ふらり、と世界が回る。途端、背中を大きな手が支えた。 「…っと、大丈夫か?」 「大丈夫。…って何だよ、この冷蔵庫」  …確かに迷うはずだ。さっきのクラフト紙の袋の中には、包帯だの傷薬だの。わざわざ買い物に出たというのに、そんなものばかりで。  まあ冷凍のピザはいい。  あとは…水とビールと卵と…少しの野菜とベーコン、そんなものくらいしかない。 「仕方ねえ、何か食いに行くか」 「行くか、って」 「無論お前も連れてくぜ。行きがかりだ」 「じゃなくて、なあ」  オレは今にもドアから出て行こうとする奴の袖を掴んだ。 「じゃなくて、何だ?」 「…これだけあれば充分じゃないか? オレ作るよ」

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