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カテゴリ:思索
昨日、嘉浩君の高校時代の友人だった方に会いに京都へ行ってきた。 空は碧く晴れ渡り、春の近づきを感じさせている。 . 高校時代というのは、本当に貴重なひと時で、人生の分岐点を決める時ではないかと 僕はと思っている。 . そしてどこか哲学的な時代であった。 晴れやかな気分する明るい色ではなく、思慮深い碧色の時代 . みなどうだろう… 大学に進学する際や、就職する際に、一度は気心知れた仲間たちと互いの門出を祝う同窓会など開かなかっただろうか。 (僕だって、本当は自分の旧友たちと気さくな会話をしたかった。) . 僕はまるで自分の学友に会いに行くような胸躍る気分で、待ち合わせの洛南高校に向かった。 初めて会いに行く人なのに、そんな気がなぜかしない。 . 校舎の前で、一人の男性が腰かけていた… 遠目から一発で「あの人に違いない」と確信し、僕は小走りに近づいてゆく。 彼もそれに気づいたのか、すっと立ち上がり僕を見るなり笑みがこみあげてくる。 . 「…お会いしてみたかったです!」 「こちらこそ…」 と固く握手をして、変わり果ててしまった洛南高校の校舎の周りを散策し始めた。 . 「ここらへんは、みな雰囲気変わってしまったな…」と彼は零した。 月日は流れ、建物の姿が変わり果ててしまっており、当時の事に思いを馳せたくとも、それを容易にはさせてはくれなかった。 . 「そんなものかもしれませんね…」と精一杯のフォローをしたつもりなのだが、容赦のない諸行無常を突き付けられた感じがした。 . 「いや、ここらへんも、ここらへんも、もう当時とはだいぶ違っている。かろうじて、ここは…」 と隣接する東寺を指し . 「ここだけは、当時のままだ」 と参道を歩きながら彼は呟いた。 . 僕は改めて京都の歴史に感謝しつつ、神社仏閣といったマーキングスポットは、それだけに時代を繋ぐ異世界への入り口のようだなと感じたところだった。 . 東寺の境内に入りながら、嘉浩君に関する談話を始めた。 「彼とは何年間?」 「3年間ずっと一緒でした。」 「クラスも?」 「ええ、クラスもずっと3年間一緒だやったんです。」 「席も近いというか、隣やったし」 「部活は?」 「彼は部活はやっとらん…極真空手やっとった」 「やっとったみたいなんやけど、途中から様子が変わり始めた」 . 話しながら講堂に入り、高さ8メートルくらいはあろうかと思われる荘厳な大日如来像に圧倒され、 しばし言葉を失った。華麗な仏像で、本尊を中心として、阿弥陀、宝生、不空成就の像の顔つきがやたらと凛々しかった。 . 「彼は途中から、瞑想ばかりをはじめだした」 当時の彼の変化に「なぜ?」と思いを馳せている様子だった。 . 「なんかヨーガを始めたらしいだけど、詳しくは俺も知らんのやけど…のめりこんどったな」 「もう空手はせんようになっとったみたいやし…」 「授業もいつも嘉浩だけは、蓮華座組みながら聞いとった」 . 「こういう仏像とかも見ると、何か印を結んどったな…そういえば」 「それは、こういうやつですか?」 僕は智拳印を組み、確認した。 「そう、そういうやつや…」 . 金堂に入り、薬師如来を拝みながら、しばし沈黙の時を過ごした。 普段は入れないとされる五重塔を参列し、ここは当時は見れなかったので…と心奪われていた。 . そして観智院、宮本武蔵が描いたとされる、大きな水墨画を観たり、立派な枯山水をみた。 みながら、仏教ってなんだろう… なんでこんなにも静かな世界もあるのに、世は喧噪しているのだろう… それに観音様のような優し気な像もありながら、一方で明王のような憤怒系の仏像も多い… 憤怒そんって、なんで怒っているんだろう… そんな事を考えていた。 . 「もっと色々嘉浩君事知りたいです」 「そうおっしゃられるかと思って、一人友人を呼んでるんです」 「一人しか呼び出せなくて申し訳ないんですけど、みな井上の事は、重いんです…話したがりません。」 「…そうですか」 「場所を移動しましょう」 . 僕が京都に来ると言うので、もう一人の学友の方も急遽呼んでいただく事になった。 それだけじゃない、支援者の会の平野住職や、今回の会合のきっかけを作っていただけた心理学者の方たちと落ち合う事になり、互いに時期は異なるとはいえ、全員嘉浩君の素性を幾ばくか見る事ができた人たちばかりだった。 . 高校時代の友人二人、僕、一審を傍聴し心理鑑定にも少し加わっていた方、刑確定後の支援者の方 が一堂に集い それぞれの時代の彼を語り合った。 . 「洛南高校では…彼の存在は、存在自体がタブーとなってしまとるところがあります。」 「触れたくないというか…触れることができないというか…」 「皆、口は重いです。」 . 「彼の高校時代のやんちゃな面とか砕けたところ…あったと思うんですけど、そういうのむしろ聞きたいです」 「…そういうとこ、あんま、ないです。」 「…めっちゃまじめでおとなしいやつやったです。」 「下らん話の輪には入ってこんかったし…なんかやつは、やってた。取り組むべきものを既に持ってた。」 「次第に達観した目つきになるっちゅうか…」 . 時期的には、すでに彼は神仙の会に入信していたし、ヨガのインストラクターだって任されていた頃だ。 急激なのめり方と適性がマッチしていたのか、彼のヨガ修行の成果が、在学中から変化をもたらしていたんだと思う。 . 何か違和感のようなものを感じていたようだ。 「当時、俺は何感じ取ってたんかな…井上の変化は気になっとった、だって隣の席やし…」 . 洛南高校は真言宗系列の学校だ。 だから宗教の時間という道徳の時間が存在している。 . 嘉浩君はその授業で何かを言っていなかったか、気になってしょうがなかった。 . 「当時の記憶は薄く、なかなか思い出せない。」 . その教師であった虎頭先生が、きっかけで嘉浩君の支援者の会が発足することになるのだが、どうやら発足当時はかなり風当たりが強い中で、嘉浩君のために有志が集いあっていったようだった。 . 「…そうおもって、色々探しとったら、こんなん見つけました。僕の当時の授業ノートなんですけど、嘉浩の変化に違和感を覚えた僕がレポートにしたためたものです。」 . そこには、最近の井上はおかしい…と友人の目から見た変化が、率直に吐露されていた。 . 「あと、これ、成績表ですが、全教科のほとんど10位以内に井上の名が出ている記録です。正直賢かったです。」 「…でも瞑想するようになってから、彼、勉学に意欲なくしていったようです。」 . 「彼、このころ神秘体験の事とか、前世の話とかしてませんでしたか?」 「ゆっとった」 「お前は、白熊の生まれ変わりや…と」 「半分冗談として言っていたと思うけれども、なんか妙やった」 「自分は何か修行僧の生まれ変わりやとも」 . . 宗教の授業のレポートには、こうしたためられていた。 隣に座る友人は、彼を心配したのだろう…虎頭先生に向けられたレポートの中でこう記されていた。 . 「最近の井上は変わってしまった…」 「ついに、彼は、世界が破滅する日は近い…とか言い出している」 「彼の言うアストラルの世界も、妙なもので、彼の心の中にしかないものだろう…彼は精神異常者になってしまった…」 . . . サインは出ていたんだ。 そしてそれを虎頭先生は受け止めていた。 それが、支援者の会の発足の原動力になっていったのだろう… . . 数年後、彼がTVで騒がれたとき、彼らは、心底驚いたに違いない… . 彼等自身、何度も嘉浩君の事で取材攻勢を当時受けたようで、その表情にはいつも深い何かが突き刺さっているような… そんな表情だった。 . . . Eili ... . . 本来もっとのんびりしてもいいはずの旅行でも 背筋をまっすぐに伸ばして、気を張っている嘉浩君の姿 .
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