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カテゴリ:おはなし
以前に書いた三丁目の夕日的なヤツ(1・2)の続きです。
リカちゃんは踊り子をしているシオン姉さんと二人暮らし。近くの工場で働いているケンさんと仲良くなりました。 「ケンさん、いらっしゃい!座って!」 「この間ゲーテの本を貸したお礼におはぎを作ってくださるってリカちゃんが呼びに来てくれたからまたお邪魔しちゃったよ。やぁ、おいしそうだなぁ」 「ねっ、ケンさん、姉さんすごいでしょ!このお洋服も姉さんが古い着物から作ってくれたの!」 ![]() こうして一生懸命働いてリカちゃんを育ててきたシオン姉さんに春が訪れたある日、ステージを終えるとホールのマダムから呼ばれました 「シオン、アンタが接客をしないのは知ってるんだけど、ちょっと来てくれない?」 「どうしたんですか?マダム?」 ![]() 「ほら、米軍の将校さんがアンタと話したいってね・・・アンタも毎日通い詰めてくださるの、ステージの上から見てるでしょう?ちょっとだけでもお話して」 「・・・えぇ・・・」 ![]() 最初は気乗りしなかったシオンでしたが、しゃべってみるととてもいい人で、シオンの才能を認めてくれていました。 「僕はもうじきアメリカに帰るんです。僕と一緒にアメリカに行きませんか?マダムからあなたが小さな妹さんを一人で育てていることを聞いてます。あなたと妹さんに最高の教育を受けさせてあげますから」 酒の席での話とはいえ、シオンにとっては夢のような話でした。 ![]() 「・・・よいしょっと。このへんでいいかな?」 「ケンさん、ありがとう!女二人ではどうしても樽が持ちあがらなくって」 『姉さんとケンさん、夫婦みたい・・・このまま結婚してくれればいいのに』 ![]() そこへ、あの将校がやってきました。 「シオンさん、この間の返事を聞かせてもらいに来ました。あなたと結婚して、妹さんに最高の教育を受けさせてあげましょう」 「!!」 ![]() 「姉さん、ケンさん、この外人さん何言ってるの?」 「・・・君の姉さんと結婚して、君をアメリカで教育するって・・・」 ケンさんの唇が青ざめていました。 「えぇっ!?」 ![]() 「・・・ごめんなさい、せっかくのお言葉ですが、お受けできません」 ![]() 「あなたのお言葉はとても魅力的です。アメリカは豊かな国でしょう。日本にはない暮らしも出来るでしょう、でも、私、いえ、私たち・・・日本がいつかアメリカのように豊かな国になるようにしていきたいんです」 ![]() 「・・・わかりました。残念ですが、どうぞ皆さんお幸せに。いつか日本がアメリカのように豊かな国になることを祈ってます。・・・さようなら」 ![]() 「シオンさん!」「ケンさん!」 「順番が逆になっちゃったけど・・・僕と結婚してくれるかい?あの将校さんのように贅沢な暮らしはさせられないけれど、僕、一生懸命働くよ。いつかきっと豊かな暮らしが出来るように頑張るから」 「ケンさん・・・嬉しい!」 『よかった、姉さん、ケンさん・・・』 ![]() 「・・・マダム、ごめんなさい。せっかくのお話だったんですが・・・」 「・・・アンタの言うとおり、あの将校さんの力で豊かになるんじゃなく、自分たちの力で豊かにしてかなきゃいけないんだろうね。アンタの心意気に・・・少ないけど、これ、退職手当。これからはまっとうな仕事をおし」 「マダム、ありがとうございます・・・」 ![]() 姉さんはいただいたお金で小さなミシンと布を買いました。 「姉さん、何作ってるの?」 「姉さん踊り子をやめてこれからはお針子になるの。ケンさんとリカが最初のお客さんよ」 ![]() 姉さんはケンさんの背広と、次の年に入る中学校の制服を作ってくれました。 そして、結婚式の代わりに、町の写真屋さんで写真を撮りました。 贅沢なものなど何もないけれど、3人は幸せでした。 ![]() リカちゃんもシオン姉さんも、今は孫もいます。日本は豊かになりました。でも、たまにあの写真を眺めては昔はよかったなぁとつぶやいてみたりするのです。 ![]() 昭和の日なので、この話の完結編をどうしても作りたくて・・・ もちろんこういう時代は経験してないんですが、昭和って希望があっていいなぁ、と思ってしまいます。 昨日は失礼な電話を叩ききって周りにどん引きされ、社会人として猛反省・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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