2003/04/01(火)15:19
子育ての大変さ。
こんな事もあるものだ。 彼女は双子の母親だった。 親戚の法事に双子を連れて出席した。夫方の親戚とはいえ、一同が揃い、双子たちをチヤホヤと甲斐甲斐しく遊んでくれていた。そんな一瞬油断が、2歳になる、双子の一人、ミックン(仮名)に襲いかかる。 会席料理の小鍋の沸騰した汁が、鍋をひっくり返したはずみで首元から服と体の間に入り込んだ。大やけどである。首の喉仏あたりから胸のあたりまで。 救急車で運ばれたが、手に負えないと言う事で(なんだそりゃ?)他の病院に運ばれた。救急車を呼んだ時には泣き叫んでいたのだが、次の病院に着いた頃には、当の本人はケロッとして元気で、消毒してもニコニコしている。その笑顔に両親は安堵したのだが、医者いわく「神経まで焼け爛れていますね。かなり深そうです。」かなりのショックと共に両親は、子供のその笑顔に胸を痛めた。やけどの範囲少なく、命に別状ないのだが、その後の診察で「皮膚移植が必要」となり、本人の頭の皮膚から移植する事となった。 日取りも決まり、手術も明後日に控えたある日、ひょっこり公園にあらわれた彼女と双子。「これでとりあえず見納めかな…と思って。」としんみりしている。神経まで到達して痛くも痒くもない、ひどいやけどを胸に抱えたミックンと「あの時アタシがしっかり見ていれば…」と悔やみ続ける母。励ます言葉もありきたり過ぎて、別れ際「うふふ・・・明日この子の頭、坊主になっちゃうのよ。ここから皮膚、取るからね。」と頭をなでられるミックンにおばさんも「がんばれよぉ。」とまた頭を撫でる。 撫でられっぱなしのミックンは訳もわからず、ニンマリと微笑んでいたのだが、彼女とおばさんは同じ心境になったのか、お互いに涙ぐんでしまった。 さて、明日か…とおばさんも心配でカレンダーを見つめる前夜、ケータイメールがミックンの母から届いた。 「今日朝からアーチャン(双子のもう一人)が水疱瘡になっちゃった。だから、ミックンにも移ってる可能性大。とりあえず、明日病院で相談するけど・・・なんで、こうなるんだろ。」 潜伏期間は一週間。一人がかかってれば、当然もう一人もかかってるんだろうなぁ・・・。メールは続いていた。 「ミックンが可哀想。だって、手術のために丸坊主にしちゃったもん。一休さんみたい。」 とりあえず、一週間が過ぎ、それでもまだミックンには水疱瘡の症状は出なかった。出ないなら出ない、出るなら早く出ればいいのに…。他人の子、とは言えおばさんもその双子が不憫に思える。といって、ご主人もいらっしゃる事だから、何と言って余計な大きなお世話でも仕方ない。おばさんがやれることと言えば、ケータイメールで話し相手になってあげることくらいで、しかし、こちらが元気な様子を伝えるのも酷な話題なので、ひたすら聞き手にまわるよう努める。 そんな中、メールが届く。「ミックンは相変わらず、症状なし。ところが、アーチャンが私の家事の隙に、私の鼻炎カプセルを2錠も飲んでしまった。急いで救急病院に行ったが、洗浄不可能ということで(なんだそりゃ?)、今とりあえず入院してる。もう、いやになっちゃう。なんで、こうなるの?」 事件というのは予期せず起こるものだが、いくら子育てが大変とはいえ、こうも続くものなのか? 大事には至らず、翌日退院したものの、母の心労激しく、メールの文章も暗い。おばさんはかける言葉ももう見当たらず、「開き直るしかないねぇ。こうなりゃなんでも来い!だわさ。」と書いて送った文章が返って彼女の励みになったらしく、「全く呆れて叱る気にもならんわ。ウフフ。」と返してきた。 “なんでも来い!”がそれからホントになんでも来てしまって、まもなくミックンは水疱瘡の症状が出、それが治ったと思ったら、今度はアーチャンが胃腸風邪にかかり、部屋中汚物だらけになったとか。 いまだに皮膚移植の手術は果たせず、消毒のための通院は一週間に一回となったのだが、手術の計画も何も進んでいない。 「まぁ、なるようになるね。命に別状ないことばっかりだったし…」 気分転換に誘った平日昼間のお花見。 双子を目の届くところで十分に遊ばせて、満開の桜を見つめて微笑む彼女は誠に美しい、そして強い母親であった。 子育ては大変である。生身の人間を育てるんだもん。