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吉永俊朗の内外情勢ぶった切り

吉永俊朗の内外情勢ぶった切り

ドルとユーロの戦い

イラク戦争は覇権を巡るドルとユーロの戦い(平成15年5月7日号)

経済・国際問題評論家  吉永俊朗


イラク戦争が事実上終わった。イラク戦争を巡る背景について、これまで簡単に述べてきたが、ここらで私の考えを総括しておきたい。
(1)イラク戦争の背景には、ドルとユーロの覇権争いがある。イラクが禁輸を武器に、原油取引を敵国通貨ドルから欧州統一通貨ユーロへの切り替えを迫ったため、2000年10月、国連安保理イラク制裁委員会はこれを承認した。この裏にはフランスの強い働きかけがあったと見られている。
(2)アメリカは虎視眈々とイラクを叩くチャンスをうかがっていた。ラムズフェルド国防長官が指摘したように、9・11テロはイラクを征討する好機を提供したのである(『ブッシュの戦争』)。
(3)9・11テロの実行犯とされた19人のうち、15人がサウジアラビア国籍を持っていたことで、アメリカとの関係がぎくしゃくしたサウジアラビアでも原油のドル建て取引をユーロに替えるべしという意見が台頭した。ロシア原油のユーロ建て取引もドイツとの間で検討されたという。
(4)アメリカがイラクを放置すればユーロ建てを容認したことになる。したがって、アメリカは何が何でもイラクを叩き、原油決済におけるドル建てを堅持しなければならなかったのである。
(5)昨2002年度のアメリカの財政収支は5034億ドルの赤字となり、過去最大を記録した。財政収支も2003会計年度で、イラク戦費負担を除いて過去最大の3000億ドルを上回る見込みだ。これだけ大赤字のアメリカが悠然としておられるのは、ドルが国際基軸通貨であるからだ。アメリカがどんなに赤字であっても、決済手段として世界中でドルが使われ、結局ドルはアメリカに還流する。どんなに大赤字でもアメリカはドルを刷れば良い。
(6)ユーロとドルの覇権争いということは、復活を目指す欧州と覇権維持を目論むアメリカの戦いということである。アメリカの今以上の覇権拡大を好ましくないと見るフランス、ドイツ、ロシアは、単独ではアメリカに対抗できないので、国連中心主義や多国間主義を標榜しているのである。対するアメリカは、当然ユニラテラリズム(単独行動主義)である。
(7)つまり、イラク戦争を巡る欧米の対立は、その背後に「ニュー・ワールド・オーダー(新世界秩序)」のあり方を巡る確執があるのである。

東京商工リサーチ「TSR情報」(平成15年5月7日号)


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