テーマ:お勧めの本(7345)
カテゴリ:本
こんなに読後の満足感が高く、充実した短編集を読んだのは久しぶりだ。
2005年出版のSF短編集である。 本書は、主に初期短編集と位置づけられるらしい。 小川一水は、いまや絶好調の若手作家である。主な創作ジャンルは、ライトノベルであるが、考え抜かれた世界構築力とアイディア、ストーリテイリグは、日本を代表するSF作家となる底力を感じる。 ぼくは『第六大陸』(2003/08)でほれ込んで、大ファンとなった。 『ギャルナフカの迷宮』『老ヴォールの惑星』『幸せになる箱庭』『漂った男』の4編が収録されている。 とくに筆頭に掲載されている『ギャルナフカの迷宮』は衝撃的だった。 思想統制された政府より、政治犯として逮捕された教師テーオは、投宮刑に処される。投宮刑は、ギャルナフカ博士が設計した脱出不可能な巨大迷路に解き放たれること。そこには多数の政治犯が投げ込まれ、絶妙に計算された食事と水の与え方により、他人を一切信用できない極限世界となっていた。 おかれた環境への人間の適応と心理変化、そして社会の形成。人間は一人では生きていけないことを、強く訴えつつ、その心理を逆手にとった、迷宮への主人公の対処に、ひたすら喝采をしたい。 読後は映画『ショーシャンクの空に』(1994)を髣髴させる。 本書の解説によると、小川一水は、笹本祐一のデビュー作<妖精作戦シリーズ>(ソノラマ文庫)(1984/01)を中学時代に読んで作家を志したとある。 なるほど。ぼくが同書を読んだのは、高校時代だが、スピード感のある文章と、魅力的なキャラクタとSFマインドに惹かれ、こういう小説を書きたいと思ったことを思い出した。 小川一水は、高校生で商業誌デビューする。 <妖精作戦>のラストに不満で、俺ならもっとこう書く、というのが動機なのに対し、ぼくは笹本祐一をマネしたい、という出発点の違いからして、実力というか才能と言うか、そうした何かが違うのだなと妙な感心をした。 きっと小川一水とぼくは、出発点が近いので、この作家の書く世界には共感できるものがいっぱいあるのだろうと、勝手に想像し、これからも期待しつつ注目していきたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 15, 2006 09:28:59 AM
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